第31話
「子供の頃のソフィーはすごく不思議な子だったね……ひどく大人びていたというか。そして、よく私に物語を聞かせてくれた。乳母達もしらないような物語。そして、その物語の中には時々、誰も知らないような異国の言葉が含まれていた」
「覚えてないです。そんな話……」
私はちっともそんな覚えがなくて、首を傾げる。
本当にこれっぽちも思い出せないのだ。大人びた子供だったというのはちょっと嬉しかったけれど。
だって、マンディにあんまりお馬鹿なところをみられていたら恥ずかしいから。
「そうか、そうだった。ソフィー、君のその物語を口にするのを心配したお母様が君のことを魔術師のところに何度か連れて行ってそれ以来、君が他の世界の物語や不思議な言葉を口にすることがなくなってしまったんだ。本当に申し訳なく思っている」
初耳だった。というか、自分のことなのにそんなことはまったく覚えていなかった。魔術師のところに連れて行かれたことも。
私はアマンダお嬢さまが外に出るときにおともする以外は屋敷の外にでたことなんてほとんど無かったから。
記憶の操作なんて聞いていて気分のよいものではない。
記憶の一部を消されただけならまだしも、もしかして私がいまこうやって自分の記憶だと思っているものが偽物かもしれないのだから。
怖くなる。
私は本当に幼いときから、公爵家に仕えていたのだろうか。
アマンダお嬢さまの側にずっといられたのだろうか。
私が今、マンディに抱いている気持ちは本物なのだろうか。
「君がお告げにあった少女だって気づかなかった私は愚かだけれどね。だって、王太子の前には美夢が現れたのだから……てっきりあの娘がお告げの少女だと思っていた」
「知っていたのですか、お告げのこと?」
「いや、知ったのは森の側の小さな家で君と暮らすようになってからだよ。農場にはいろいろお世話になってね」
そうだった。一緒に暮らしてはいたけれど、マンディはよく農場に手伝いにいって卵や牛乳を分けてもらったり、色んなことを学んできていた。狩りも乗馬もあっという間にものにしていた。
そして、マンディは大きく深呼吸したあとこういった。
「僕は君がお告げにあった少女で間違いないと思う。だからといって、君はあの王太子と結婚する必要なんてない。君が好きな人を選んでその人と結婚して国を治めればいいのだから。君にはちゃんと幸せになってほしい」
「マンディ……」
私の好きな人、大切な人はマンディだった。
これは告白なのだろうか。マンディからの形の変わったプロポーズなのだろうか。
もともと、公爵令嬢として育てられたのだからこれくらい遠回しな表現の方が自然かもしれない。
だけれど、次の言葉で私は氷ついた。
「ソフィーがちゃんと運命の相手を見つけられるように僕はなんだってするつもりだ」
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