第19話 美女美女サンドイッチ
不幸中の幸いかお互いに軽く腕をぶつけるだけで済んだので、ラッキースケベが起きて俺が引っ叩かれたり、告白現場に居る2人に気づかれることは無かったが。
──よりにもよってこの人とぶつかるとはな。
「に、西亀っ!? あ……その……ごめんっ!」
「良いよそんなに畏まらなくて、お互いに怪我が無くて良かったよ」
「う、うん……」
聞き覚えのある驚いたときの声が聞こえたと思ったらやはり松本さんだった。
「確か西亀颯流くんだったよね? ごめんね、アイスったら先走っちゃうから」
「小山さんもか……」
確か俺が小山さんとこうして会話するのは初めてだったな……。こうして近くで観察してみてもクロワッサンの言う通りにどこぞのお嬢様かのような雰囲気がある。
肩を通り過ぎるオレンジ髪とその大人っぽい顔立ちも相まって高校生にしては色気も醸し出している気もする……端的に表すならば情熱さをも兼ね備えた大和撫子だ。
この場面で彼女の首から下を除く度胸は無いから見ないが、クロワッサン曰く木下さん以上に肉体がボッキュンボンでEカップもある、高身長のモデル体型らしい。
「むっ、よし…………よっす、西亀じゃんっ。なになに、師匠のくせに弟子が気になって告白現場を見に来たの? 実はユウキを狙ってただなんてやっぱり狼だねー」
顔を赤くしながらアワアワしてた松本さんが後ろを振り向くと、やがて両の頬っぺたに気合を入れ直す仕草を入れて出直そうとしてきたが、もう今更過ぎるぞ。
「いやそうやって仕切り直そうとしても無駄だからな?」
顔の赤みもまだ取れてないぞ、と言うより良く見たらこいつも可愛いんだな。
それに普段よりも声を抑えてる時点で2人がここに来た目的はお察しの通りだ。
「アハハっ。アイスったら西亀くん困ってるでしょ? ごめんね。アイスったら人にちょっかい出すの好きでさ。西亀くんは偶然ここに居合わせたようなものでしょ?」
「ああ、そうだな」
咄嗟に誤魔化したが意外とクラスの陰キャと評判もある俺に対しても、冷めた目で見下ろしてキモがったりせずに真面に話して受け答えもしてくれるんだな小山さん。
白い歯をにかっと見せて笑う2人もやはり可愛くてまさに姫達のようにも見える。
まあ木下さん曰く俺たちがダンスを教え合ってることはこの2人にしか広がってないから安心は出来る……小山さんも何だかんだで義理堅そうだし信用するしか無い。
「それはともかくナゴミ、ほらこっちおいで。ここならばっちり様子見られるから」
「おっけーアイス! あ、折角だし西亀くんも見ていきなよ」
「へ? いや、俺は……」
今からバナナ&ミルクジュースを買いに行きたいだけなのになと混乱してると、小山さんの後ろの松本さんが俺の二の腕を掴んで来たと思うとグッと引き寄せてきた。
「西亀シーっ! 静かにして、動いたらバレるし声聞きたいから大人しくしててっ」
「いや、あのな……」
「良いから。とりあえず隣に居るだけで良いからっ」
なぜか松本さんに腕をガッチリホールドされながら彼女の真横を並び立たされる。
これおもっくそスキンシップしてるし良い匂いもするから少しパニックなんだが。
そう思ってる間にも小山さんがひょっこり右隣に来て、どういうワケか美女美女のサンドイッチ状態になってしまった……これは何かのご褒美だろうか?。
「あはは、ごめんね西亀くん。アイスったらこういうのが趣味だからさ。……まあぶっちゃけアタシも気になってたってのが本音だけど」
「小山さんもか?」
「そうよ、ユウちんと仲良いからさ」
まあ仮に木下さんに恋人が出来たら一緒に遊べる頻度が減ったりするからか。
人間が使える時間は誰しも平等だから当然その手から溢れそうになってる荷物があれば例え望まずとも、もう抱え切れなくなったそれは溢れ落ちていくからな。
「そっかぁ……でも俺はユウキのことを幸せにしてやれる自信があるんだ。きっとその男よりもユウキのことを幸せにしてくれるから、先ずは試しだけでもどうだ?」
「いや〜、それは本気で勘弁して欲しいんですけど……」
もはや不可能だと突きつけられても随分と粘るんだな、相手の先輩は。
素直に大した胆力だと思うが、もうすでに木下さんに振られてるし……例え相手に好きな人が居ようと居なかろうと相手を不用意に困らせても不利になると思うぞ。
──ていうか良くも俺こんな美女達に挟まれながら呑気に人間観察やれてるな。
自分でも驚いてるが、こうして2人と関わってても謎の嫌悪感は募らない。
普段なら即行で敬遠するタイプなのに不思議と彼女達を受け入れてる自分がいる。
何というか、喋っていても俺を忌避してる感じが一切感じられないからだろうか。
「ふ〜ん、今回の男の先輩かなり粘ってるわね。今までなら『好きな人が居ます』って言われただけで諦めてくれたのに、流石のユウちんも手間取ってるっぽい」
それは確かに興味深いな。それじゃあ興味本位でちょっと探りを入れてみるか。
「木下さんってモテモテなんだな」
「そりゃあもうモテまくりよ! ミユ先輩の妹と知られてからも株は上がる一方だし、たぶんうちのクラスで告ってないのほぼ居ないレベル、だったよねナゴミ?」
俺の質問に松本さんが答えて来ると反対側に居る小山さんにも確認を取った。
「もう告ってないの西亀くんくらいなものでしょ、アイス」
「らしいよ〜?」
「いや俺に聞かれてもな……」
それが本当ならば俺のクラスの男子は恋愛に飢えに飢えまくっていることになるぞ……全く、幾ら何でも1人の女の子からの愛情を渇望し過ぎなようにも思える。
「ユウちんってほんとモテモテで凄いわよね。3人で遊んでてもいつも通りすがりのイケメンにナンパとかされちゃうし、アタシらは完全についでって感じだからさ」
「仕方ないでしょあんなキラキラ輝いてる子を男子がほっとく訳ないし。ぶっちゃけ芸能人に劣らない程ユウキって可愛さレベチだから男はあんなのに目が無いでしょ」
「確かにアタシらじゃ歯が立ちようも無いわね。西亀くんもそう思わないかしら?」
なんて際どい質問を俺に訴えかけるんだよ小山さんは、俺を困らせようってか?
これはどう答えるのが正解なんだ? ……いや分からないからもう正直に言うか。
「謙遜か? 俺は2人とも可愛いと思うけどな」
思ってたよりも照れ臭いセリフが出てきたが本当に思ったことをそのまま言った。
可愛い子が自分のことを可愛くないだなんて言ってたら、彼女たちにそう思わせたそんな世の中が間違ってると断言できる……この2人も自分が美しいことを知れ。
「えっ。ぁ、ありがとう」
「っ……へ〜西亀もなかなかお世辞が上手いじゃんっ!」
「俺に下らない嘘をつく趣味はない。それに小山さんは修也に言い寄られてるだろ」
「た、確かにそうだけど、あの人は特殊というかなんと言うか……」
「あー、確かに……正直あまり良い印象はしないんだよねー」
まあ今では一途に小山さんをアタックし続けてる様子のクロワッサンだけど、木下さんから聞かされた松本さんの人柄を考慮すれば最大限に警戒したくもなるだろう。
「……俺が修也のことを見てる限りは本当に一目惚れしたようで本気のようだぞ」
けどあいつが小山さんに一目惚れするまでは木下さんや先輩方を口説き落としにかかるのが日常だったし、実際に遊びも続けてたようだから勘繰りたくもなるか。
「西亀が善意で黒沢のことを良く言ってるのはわかるけど、まだ私は黒沢のこと信用出来ないんだよねー。人間は本質がそうも簡単に変わるわけが無いからさー」
少々過保護だな。そう呆れながらも松本さんを見てると急に小山さんと肩を組んで小声でヒソヒソ話し始めた。おい、木下さんの告白に意識を傾けなくても良いのか?
「「……ヒソヒソ、ヒソヒソ……」」
その脇でも木下さんと先輩の告白場面が動いでたので耳を傾けてみた。
「っ……とにかく先輩から何を提案されても私は嫌なので、ごめんなさい」
「じゃあせめて友達からでも──」
「う〜ん、それは逆に辛いと思いますよ? 次に進んだ方が良いと思いますけど」
同意だな。好きな人とヨッ友のポジションを維持し続けても進展の可能性は絶望的だろうし、ただでさえコミュ力が高い河南じゃその土俵での競争相手が多過ぎるぞ。
「そろそろ決着つきそうな雰囲気かー。それじゃあ私らも教室に戻ろっかナゴミ」
俺を掴んでいた腕をやっと解放して歩き出したと思うと小山さんが彼女を制した。
「アイスそう急がないのっ! ちゃんと西亀と……ああごめんね西亀、アタシたちの気まぐれに巻き込んじゃって」
「……いや、もう気にしなくても良いから」
むしろさっさと行ってくれた方が喉の渇きを濃厚な味わいで潤せるんだよな。
それに何だ……? 小山さんの方からも急に呼び捨てされるとは思わなかったが……これがリア充たちの独特なコミュニケーションの取り方というか文化だろうか? 同じ人種だというのにこうも違いがあるとまるで異文化理解のような感覚だ。
「へ、どしたんナゴミ?」
「アイス、アンタはボケっとしてないでこういう時に頑張りなさいよ……ほら、ブツブツ……」
「ん? ……いやっ!? だから、そんなんじゃ無いってば……」
小山さんが松本さんに耳打ちした途端に顔面が爆発したかのように真っ赤になった松本さんだが、一体何を言えばあのような反応を引き出せるんだろうか……。
「に、西亀っ! ……その、私と連絡先を交換して欲しいっ!」
顔が真っ赤だが、恥ずかしさを我慢してるなら無理しなくても良いと思うけどな。
「もちろん構わないけど、俺はそんなにチャットが好きじゃないぞ。何のために?」
最近になってクロワッサンや家族だけじゃなく、木下さんなどと少しずつ関わるようになったから俺も声に出して喋る機会が増えたが、ママ曰く俺は基本的にシャイらしいし、実際に単独行動も無口なまま過ごすことも本来は好きだからな……それで周囲からは陰キャだの根暗と言われることもあったが、個人的には孤高の狼だと思う。
「それは……そう! アンタがユウキに変なことをしないのか目を光らせるためよ」
そう言ってからから笑う松本さんの言動が不思議だったが、それなら仕方ないか。
「いやしないけど、分かった」
彼女が携帯を差し出して来たので俺も同様にすると、横からも携帯が出て来た。
「よし、これでアタシとアイスの連絡先が登録されたね」
「に、西亀……後で私らの方でも登録しとくから、ちゃんと返事しといてよねー」
「なんで──」
「じゃあまた今度ね西亀っ! 今日のことは私らの3人での秘密だからー!」
それだけ言うとピューっと松本さんが慌てて走り去ったので呆然としてしまった。
色々と情報量が多すぎて困惑してるんだが……それに、何故どさくさに紛れて俺は小山さんとも連絡先を交換することになったんだろうか。
「あははっ。それじゃあ、そう言うことだから。またね西亀〜」
やっぱり小山さんも俺の返事なんて待たずにサッと松本さんの背中を追いかけた。
「……嵐のような2人だったな」
結局2人と連絡先を交換させられたのが今でも謎なままで急展開過ぎるだが……。
小山さんまでが交換して来たのは完全に意味不明だったが恐らく大した意味は無いんだろうな、このままを携帯の画面を眺めていても時間を無駄にするだけか。
とりあえず元々買うつもりだったバナナ&ミルクジュース買って来よっと。
※
「ニャハハ、やっと納得して帰ってくれた……ニッシーごめんね〜待たせちゃって」
「ああ、何というか……お疲れ」
ベンチに帰って来るとすぐに木下さんがやって来たが、げっそりとした雰囲気だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます