第12話

「ふぅ……。ようやく服を着れました」


 自己紹介を終えた後、先程まで裸だったパルコーは自分の装備である丈夫な布で作られたドレスを着て安堵の息を吐いた。


 ダンジョンで死んだ侵入者は肉体をダンジョンに吸収されて、身に付けていた装備はその場に取り残される。そしてその取り残された装備は、誰かが回収するまでダンジョンの「備品」という扱いで、光の板に表示されるダンジョンのステータス画面の【道具】欄にも表示されている。


 熊翔はダンジョンマスターの力でダンジョン内にあるレオーラとパルコーの装備を呼び寄せて二人に返していて、自分の装備である鋼鉄で作られた下着のような鎧、ビキニアーマーを着たレオーラは興味深そうに光の板を見ていた。


「これがあのダンジョンの内部ですか。……こうして見ると何と言うか、拍子抜けするくらい単純な造りですわね」


 現在光の板が表示しているのは熊翔のダンジョンの地図である。そしてダンジョン内部の構造は、アーティファクトが封印されている部屋の周囲を三つの円状の通路が樹木の断面のように三重に取り囲んでいるだけという、レオーラが言う通り単純な造りであった。


「分かり易くていいだろ? それに実際に入ったら厄介だったろ?」


「厄介どころではありませんでしたわ。通路は狭くてうまく身動きがとれませんでしたし、灯りをつけたはずなのに何も見えませんでしたし、突然頭上から爆発が起きますし……」


 熊翔がそう言うとレオーラは不機嫌そうに答え、ダンジョンで一度死んだ時のことを思い出してパルコーは顔を青くしていた。


「まったく……。ようやく伝説の秘宝が眠るダンジョンを見つけたと思ったら、何も出来ずに敗北して……情けない限りですわ」


「なぁ? その伝説の秘宝って、俺のダンジョンのアーティファクトだよな? 一つ聞きたいんだけど、どんな伝説を聞いてあのアーティファクトを狙おうと思ったんだ?」


 悔しそうに言うレオーラの言葉を聞いた熊翔は一つ気になる点があり彼女に質問する。


「どんな伝説って……装着していれば永遠の生命と若さが得られる光輝く鎧、そう聞いたから今までずっと探していたのですが? ねぇ、パルコー?」


「はい。古文書にはそう書かれていましたけど違うのですか、旦那様?」


 熊翔に聞かれてレオーラは、自分の知る秘宝の伝説を口にしてからパルコーの方を見て、彼女も彼女の言葉に同意して頷く。そんな二人の返答に熊翔は頭が痛いといった表情となり頭をかく。


「また随分と都合のいい伝説だな、オイ? ……まぁ、伝説なんて大体そんなものか」


 レオーラとパルコーが言う秘宝、熊翔のダンジョンに封印されているアーティファクトに関する伝説はある意味正しい。しかしその伝説の情報は本来のアーティファクトの情報の半分も満たしておらず、熊翔のアーティファクトは「不老不死になった程度ではまったく割りに合わない」程に危険な代物であるのだ。


 熊翔が頭が痛めているのは、アーティファクトの危険性が伝わっておらず「不老不死」の一点のみが伝説となっていること。


 不老不死。


 それは古今東西の人々が夢見る最大の夢で、これまでにも多くの権力者達が不老不死となる方法を探してきていた。不老不死となるためならば人は、どんなに危険で到達が困難な場所へ向かうだろうし、ここにいるレオーラとパルコーがいい例である。


 危険ではあるが一応は不老不死の夢を叶えてくれるアーティファクトを抱え込んだ熊翔は、またアーティファクト関係のトラブルが起きそうな嫌な予感を感じるのだった。

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