第30話 変化


※エリス視点※


 アレクが転生してからして来たことを聞いて……私は呆れた。


 だって2年間もずっとダンジョンに、しかもエクストラダンジョンの『始祖竜の遺跡』でソロで延々と戦い続けるなんて私には絶対にできない。


 『始祖竜の遺跡』には、私もゲームのときに行ったことがある。

 だけど、いきなり理不尽な攻撃でパーティーが全滅したから、コントローラーを投げて2度と行かないと思ったクチだ。


 だから『始祖竜の遺跡』に2年間も1人で挑み続けるとか本気で呆れるけど……そんなアレクが可愛いと思う。

 だって涼しい顔で何でも知ってるって感じのアレクが、まるで子供みたいにダンジョンに没頭してたってことよね?


 アレクは『エボリューションファンタジー』のことについて誰よりも詳しくて、たぶん1人なら何でもできる。

 だけど私たちのために色々と考えて、そのせいで悩んでいることは解っていた。

 だからせめてアレクが何を考えているのか聞いて、彼の悩みを少しでも軽くできればって思っていたけど……全部教えてくれたから、物凄く嬉しかった。


 生前の私は全然可愛いくなくて……エリスに転生した今でも可愛くないけど。

 そんな私でもアレクと一緒なら頑張れると思う。


 だけど一つだけ、訊きたいけど訊けないことがある。

 同じ転生者のソフィアとか、レイナのこととか……彼の配下には女の人もいるみたいだし……アレクの隣に本当に相応しいのは誰なのか……貴方はどう思っているの?


 だけど絶対に訊けない。『おまえには関係ないだろ』とか言われたら立ち直れないから……

 うん。正直に言おう。私はアレクのことが……


※ ※ ※ ※


 エリスに全部話してしまったことに、俺も思うところはある。

 だけど後悔はしてない。

 隠し事をしてるよりも、嫌われても正直に話したいと思ったからだ。


 けれどエリスの態度は、拍子抜けするほど変わらなかった。

 いや、呆れるとは言われたけど。それはいつものことだし。

 むしろ初めから全部知っていたみたいに、優しい笑みを浮かべながら話を聞いてくれた。


 おかげて胸のつかえが下りた気がする。

 何だろう、この気持ち……そうか。たぶん一緒に悪戯をする友達を見つけたときの感覚だな。

 前世の俺には友達なんていなかったけど、リアルエボファンの世界で初めて友達ができたんだ。


 だからエリスには感謝している。こんなことは恥ずかしくて絶対に言えないけど……エリスのことは絶対に俺が守るよ。


 そんなことを考えながら無意識にエリスのことを見ていたら、隣にいたセリカと目が合ってクスリと笑われた。

 いや、違うから。勘違いするなよ。俺とエリスは友達だから……たぶん。


 話を戻そう。

 俺たちはラウル・ブラッドリーの屋敷に押し入って、奴と一緒にいた魔族を捕らえた。

 屋敷の中にはモンスターもいたけど、今の俺たちなら倒すのは簡単だった。


 変化の指輪を奪って元の姿に戻った魔族。

 『楽園』の密売を続けるなら魔族との関係をバラすと言ったら、ラウルはアッサリと密売から手を引くと言った。


 ゲームのときは、あとは魔族の領域に乗り込んで魔族の貴族ロドニア伯爵と対峙する流れだったけど。

 今回はまだ終わりじゃない。あいつ・・・がもう一つ手を打っているからだ。


「獣人の仲間たちから話を聞いて……ちょっと気になることがあるニャ。あまり信じたくないんニャけど、もしかしたらラウル以外にも『楽園』を密売している連中がいるニャ」


 ウルキア公国は『楽園』が獣人の国ギスペルが流している疑い、逆にギスペルはウルキアが流していると疑っている。

 ゲームのときは両方の国にロドニア伯爵が『楽園』を流すことで、互いに疑心案偽になって紛争が起きることを狙っていたんだけど。


 今回は両国の関係が悪化したことで立場が悪くなったウルキア公国の獣人たちが、実際にギスペルから『楽園』を密輸するようにロドニア伯爵が画策した。

 つまりラウルのルートを潰しても『楽園』の密売は終わらないどころか、獣人たちが密輸していることがバレたら、ウルキアとギスペルの戦争が本当に始まってしまうかも知れない。


「ライラ。『楽園』の密売に関わっている獣人たちを特定できるか?」


「うん。密売に反対している獣人も多いから、何とかなると思うニャ。だけど密売なんかするのは馬鹿だと思うけど……獣人だからって白い目で見られている仲間たちの気持ちも解るニャ。だから、できたら……」


「ああ、解ってるよ。密売さえ止めれば彼らを公国に突き出すつもりはない。そんなことをしたら、戦争の火種になるだけだからな。みんなもそれで良いよな?」


「結局のところ、今回も諸悪の根源は魔族よね。だから私はそれで構わないわ。ねえ、ガルド師匠?」


「ああ。獣人の件を早く片付けて、『楽園』を流した魔族を仕留めに行こうぜ」


 『楽園』の密売に関わる獣人たちを見つけ出して説得するのには、それなりに時間が掛かった。

 彼らも馬鹿じゃないから獣人であること隠して活動していたし、密輸ルートも街道を外れた山の中を使うとか、取引きには二重三重に別の組織を挟んだりと巧妙に隠していたからだ。


 そんなことをしなくても大元のロドニア伯爵さえ潰してしまえば全部解決すると思うかも知れないけど。『楽園』はすでに流れてしまっているから、獣人の密売組織を潰す必要があるんだよ。


 時間は掛かったけど、俺たちは密売に関わっている獣人たちを説得して組織を解体させた。

 そしてこのロスのおかげと言うか、俺たちが魔族の領域に踏み込む前に、チョップスティックのメンバーがカタルナに到着した。


「みんな、久しぶりだね! 元気して……」


 ソフィアとは毎日『伝言メッセージ』でやり取りしていたし。

 週に1度は転移魔法テレポートで実際に会っていた。


 だから俺としては全然久しぶりという感覚はないんだけど。

 俺と隣にいるエリスを見て、ソフィアは何故か固まった。


「ソフィア、どうしたんだよ?」


 不思議に思っていると、ソフィアに袖を引っ張られた。

 そして仲間たちから少し離れた場所まで連れて行かれると、ソフィアが小声で囁いた。


「ねえ、アレク……正直に答えて。エリスと何があったの?」


 いや、ソフィア。だから、おまえも勘違いするなって。

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