第13話 最初のイベント
サリア村に到着して1泊してから、俺たちは森に向けて出発した。
昨日のうちに村人にキラーベアについて訊いたけど、たいした情報は得られなかった。
遠目でキラーベアを目撃した者はいるけど。まともに遭遇した全員が殺されているから、情報がないのは仕方ない。
グランは雑魚扱いするけど、キラーベアは初期レベルのプレイヤーキャラにとっては決して弱いモンスターじゃない。
レベルは8から12で。しかもフィジカル系のステータスが高いから、同レベルの人間よりも強いんだよ。
もし今12レベルのエリスが12レベルのキラーベアと1対1戦ったら、スキルと魔法を上手く駆使して何とか倒せるってところだ。
村から2時間ほど歩いて森に到着。距離が近いから馬車と馬は村に預けた。
少しだけ休憩して、さあこれから森に入ろうというタイミングで――皆がマジマジと俺を見ている。まあ、理由は解っているけど。
「な、何なのよ……それ?」
エリスは笑いが堪え切れないという感じだな。いや、普通に笑ってくれよ。
今の俺は顔の上半分を覆う仮面を被っている。某ロボットアニメの赤い敵が被っているようなやつだ。
「これから森に入るからな。これは索敵能力を上げるマジックアイテムなんだよ」
勿論嘘で、アレクの顔を隠すためだ。言っておくけど、俺は狙った訳じゃないからな。
フルフェイスヘルメットだと息苦しいし、鎧も重装備にしないとバランスが悪い。
だから消去法で選んだ中で、形状的にこれが一番マシだったんだよ。
「わ、私は……アレクに似合ってると思うけどな」
いや、ソフィア。それってフォローになってないからな。
森に入ると、本来の2つのパーティーに別れて隊列を組むことにした。
視界の悪い森の中では慣れた者同士じゃないと、上手く連携が取れなくて危険だからだ。ライラは盗賊のいないエリスのパーティーの方に入る。
互いに少しだけ距離を空けて、パーティー単位で移動する。
チョップスティックの方がレベルが高いから、先を進むことにした。
森を進んでるうちに、グレイウルフやワイルドボアなど獣系モンスターに遭遇した。
せいぜい5レベル程度のモンスターだから、エリスたちも難なく撃破していた。
リアルエボファンの世界でも、モンスターは倒されると消滅して、金とドロップアイテムだけが残る。
モンスター以外は普通に死体が残るから、これでモンスターかどうか見分けることができる。
「私たちだから良いけど。これだけ頻繁にモンスターと遭遇したら、村の人はとても森になんて入れないわね」
そう言ったのはチョップスティックの神官メアだ。
メアは気遣いができる性格で、個性派揃いのチョップスティックを纏めている。
「それだけ異常事態ってことだろう。なんかキナ臭えな……おい、ノエルたちも用心しろよ」
「ええ、解っているわ」
グランが先輩冒険者という感じで声を掛ける。
単にレベルが高いだけじゃなくて、グランは戦い慣れしている。
意外に思うかも知れないけど、チョップスティックは他のメンバーも抜け目なく行動している。
ソフィアたちは楽しく安全がモットーだけど。それでも今のレベルまで上がるくらいに、場数を踏んでいるってことだ。
さらに森の中を進み続ける。これ以上進むと森の中で夜営をすることになるというタイミングで、俺たちはキラーベアと遭遇した。
硬い体毛に覆われた身体は体長3メートルくらいだ。
異常に発達した前足には、刃のような金属の爪が生えている。牙も同様に金属製……まあ普通のキラーベアだな。
『鑑定』を使うとレベルは12レベル 。キラーベアとしては最高レベルだ。
それが2体同時に襲い掛かって来たけど、20レベル台後半のグランたちがいるから何の問題もない。
「ノエル(エリス)! ヤバくなったら俺たちが支援してやるから、1体はおまえたちだけで何とかしろよ!」
グランが先輩らしい配慮を見せる。グランがいたら
エリスたちはHPを削られたけど、致命的なダメージは受けずにキラーベアを撃破する。
聖女セリカが回復魔法を使っていると、猫耳盗賊ライラが耳をピンと立てる。
「……ちょっと待ってニャ! まだ近くで戦ってる音がするニャ!」
ゲームと同じ展開だな。勿論、俺も
ライラに促されて俺たちが向かった先で、魔族の集団が2人の人間と戦っていた。
1人は銀色の髪と赤い瞳の気が強そうな美少女。レイナ・アストレア――4人目のメインキャラだ。
レイナのクラスは『勇者』で、初期レベルも25とプレイヤーキャラの中で抜きん出ている。
その上『
もう一人はレイナの
レイナに戦い方を教えた師匠で、初期レベルは32。
キラーベアの出現は魔族軍の侵攻が原因で、魔族に追い立てられてモンスターたちが森の奥から出て来た。
『悪意感知』で魔族の存在に一早く気づいたレイナとガルドが、魔族と戦っているところに、エリスたち3人のメインキャラが
ここまではゲームと同じ展開だけど、明らかに異なる点がある。
魔族と彼らが率いるモンスターの数が多過ぎる上に、レベルまで上がっているからな。
「おい、おまえら!」
「ええ、解っているわ。陣形を固めて迎え撃つわよ!」
助太刀するかなどと考えるよりも早く、魔族の方から仕掛けて来た。
だけど、この展開は不味いな。チョップスティックを加えても戦力が足りない。
全部
仕方ない……俺も少しだけ本気を出すか。
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