第6話 メインキャラ


「ア、アレクって……か、彼女とかいるの?」


 こいつ、何を言ってるんだよ? 訳が解らない。

 だけど俺の動揺を無視して、事態は進行する。


「なあ、おまえ……仲間がいないみたいだし、暇だよな? だったら丁度良いぜ。明日、俺たちと一緒にダンジョンに行くぞ!」


「あんた……何言ってんだ?」


 勝手に決めてニシシと笑うのは、ソフィアの仲間の冒険者だ。

 だけど何で、俺が一緒に行くことになってるんだ?


「グ、グラン、勝手に何を言ってるの? アレク、ごめんね!」


「いや、こいつだって1人で暇してるんだし。俺たちと一緒に来た方が都合が良いよな?」


「そんなことないでしょ。勝手に決めつけたらアレクに迷惑……『そうだな。どうせ暇だから構わないよ』……え?」


 まさか俺が同意するとは思わなかったらしく。ソフィアが固まっている。

 グランの方は当然だなとニヤリと笑う。


 ソフィアのことは……どうやら、俺が警戒し過ぎたみたいだな。

 それが解ったから、俺はグランの誘いに乗ることにした。


 レベル差があり過ぎるとか、そんなことはどうでも良い。普通にパーティーを組んで、ダンジョンを攻略するのも面白いからな。


「アレク、おまえはD級冒険者なんだよな? B級の俺たちが誘ってるのに、生意気言いやがって」


「グラン、ちょっと黙ってよ! アレクに失礼だから!」


 グランの絡むような台詞に、ソフィアが慌てて止めているけど。グランに悪気のないことくらいは、俺だって解っている。


「ああ、俺は冒険者になったばかりだからな。グランは冒険者ランクで、相手を差別するのか?」


「そんなこと、この俺がするかよ。おまえみたいに生意気な奴は、嫌いじゃないぜ」


「俺もグランみたいな図々しい奴は嫌いじゃないよ」


 俺とグランは顔を見合わせて笑う。

 その様子を見て、他のパーティーメンバーが集まって来る。

 

「アレクって、結構良い人みたいね。私は神官のメアよ。よろしくね」


「魔術士のカイだ。グランがウザかったら、僕に言ってくれ」


「盗賊のシーラっす。まあ、みんな悪い奴じゃないから。アレクも気楽にやってよ」


 ソフィア以外の4人の方が距離感が近いな。

 何で私だけと頬を膨らませるソフィアに、4人は生暖かい目を向ける。


「ソフィア。俺たちはアレクを独占したりしないからな」


「な、何言ってるのよ……だから、グランの勘違いだからね!」


 頬を染めるソフィアを微笑ましく思う……ナニ性格変わってんだよとか、突っ込むなよ。こっちの方が俺の素だからな。


※ ※ ※ ※


 翌日。冒険者ギルドで待ち合わせをして、チョップスティックのメンバーと一緒にダンジョンに向かった。


 D級冒険者という設定のアレクは、マジックアイテムでもない普通の剣と鎧を装備している。

 『始祖竜の遺跡』でドロップした装備だと目立ち過ぎるし。俺のステータスなら、装備なんて関係ないからな。


 マジックアイテムしか効かないモンスターが相手でも、スキルで武器に魔力を纏わせれば問題ない。


「アレク……おまえ、本当にD級冒険者かよ?」


 アンデッドナイトを一撃で倒すと。グランが訝しそうな顔をする。


「俺は冒険者登録したばかりだけど。実戦経験はそれなりにあるんだよ」


 エボファンには騎士や衛兵、傭兵などの様々な職業がある。冒険者は戦えるキャラの一部に過ぎないんだよ。


 ちなみに職業とは別に、キャラクタークラスがあって。戦士、魔術士、神官、盗賊といった基本クラスの他に、そこから派生する上級クラスがある。

 エボファンのプレイヤーキャラは全員上級クラスで。ソフィアのクラスは傭兵だ。


 ところでソフィアたちの実力だけど。チョップスティックのメンバーは、全員20レベル前後だった。

 エボファンのスタート時点で考えたら、結構強い方だな。


 俺が勝手に『鑑定』したんじゃなくて。ソフィアたちの方から、普通にステータスを見せてくれたんだよ。

 俺の方はステータスを見せる前に、『偽装の指輪フェイクリング』で調整した。


 レベル32にしたのは見栄を張った訳じゃなくて。幾ら手を抜いても、俺の方がレベルが高くないと違和感があるからだ。


 ソフィアたちと3日間ダンジョンに潜って、中位層を攻略した。

 俺1人増えただけで、チョップスティックの攻略速度は格段に早くなったらしい。

 連携の方も俺が合わせたから、何の問題もない。


「アレク、おまえはチョップスティックに正式に加入しろよ。相性バッチリだからな!」


「いや、俺は金がある限り働きたくない怠け者なんだよ。とりあえず、暫くは一緒にダンジョンに潜るけどさ」


 エボファンの物語メインストーリーが始まったら、イベントを見て回りたいからな。チョップスティックに入って拘束されるのは勘弁だな。


 今も他にもやることがあるけど。アレクの身体は睡眠が不要だから、夜の間に動けば問題ない。

 まあ、ソフィアたちとの関係も、できれば壊したくないからな。


 グランは良い奴だし、他のメンバーも気の置けない奴らだ。

 ソフィアのことも……あの・・発言のことは、ソフィアも触れないから放置しているけど。

 ソフィアは人が良いと言うか。自分以外の転生者がいることを、想像すらしていない。


 エボファンをやり込んだ奴が、この世界に転生したら。大抵は俺みたいにゲーム知識を使って、自分が有利になるように立ち回る筈だ。


 そんな奴がソフィアの存在に気づいたら。転生者はライバルになる可能性があるからな。ソフィアが気づかないうちに、潰してしまおうと思うかも知れない。


 同じ転生者同士、手を組むという発想もあるけど。ソフィアの性格だと、利用されそうだよな。


 ソフィアたちと一緒に夕食を食べてから、宿の部屋に戻ると。俺は転移魔法テレポートを発動した。


 今夜の目的は、メインキャラの2人の動向を探ることだ。

 エボファンの物語が始まるまで、2週間を切ったから。メインキャラたちは、クルセア付近に向かって移動を始めている。

 

 現在地点を俺が把握しているのは、配下の諜報部隊に監視させているからだ。

 メインキャラの4人にも、俺は意図的にアレクの姿を見せている。

 反応はなかったけど。4人の中に転生者がいる可能性は、まだ否定できない。


 もし俺がプレイヤーキャラに転生したら。人間の姿のアレクを見掛けても、絶対に気づかないフリをする。

 そんな奴は転生者に決まっているし。現時点で魔王アレクには、絶対に勝てないからな。


 だから気づかないフリで、NPCを演じてやり過ごして。レベルを上げるなど対策を打ちながら、アレクに転生した奴が敵か味方か見極める。


 敵ならNPCを演じ続けて、味方なら協力を求める。

 その間、アレクに転生した奴に時間を与えることになるけど。序盤でラスボスと対決するよりはマシだろう。


 まあ。俺の方は同じタイミングで転生した奴を、そこまで警戒する必要はない。

 『始祖竜の遺跡』を支配しているから、もしそいつが敵でも、俺の脅威になるレベルになる前に仕留めることが可能だからな。


 だけど、俺より前に転生した奴は存在するし。俺を転生させた黒幕の方も、まだ正体も狙いも解らない。


 過去に俺と同じように『始祖竜の遺跡』でレベルを上げ捲った奴が、いる可能性は低いけど。絶対にいないという訳じゃない。

 『始祖竜の遺跡』で瞬殺されないレベルの転生者が、いたことは間違いないんだ。


 そしてこの世界には、俺の知らないレベルアップの方法がある可能性も。初めから圧倒的な力を持つ奴がいる可能性もある。あくまでも可能性の話だけどな。


 俺は聖王国クロムハートの聖都クラウディアから、クルセアに続く街道に向かった。

 メインキャラのうちの2人が、5日前にクラウディアを発ったことは解っている。


 さすがに今回は俺も姿を隠す。クルセアに向かう街道にアレクがいたら、監視しているのがバレバレだからな。


 街道の側の平原で野営をしているのは4人組だ。


 ピンクのショートボブで水色の瞳。胸だけ残念な可愛い妹系美少女が、聖王国クロムハートの第2王女『姫騎士』エリス・クローム。

 エボファンに登場する100以上のプレイヤーキャラの中でも、人気ランキングで毎回トップ争いをするメインキャラの1人だ。


 青い髪のロングで瞳も青。純白のローブ姿の綺麗なお姉さん系美少女は『聖女』セリカ・ラミリス。

 もう1人のプレイヤーキャラで。セリカの固有イベントを無視しない限り、常にエリスと一緒に行動する。


 あとの2人は宮廷騎士ガレイと宮廷魔術士パメラだ。

 彼らは所謂固有ユニークNPCで、エリスのお目付け役として同行する。


 王族としての退屈な生活から抜け出したいエリス。聖女なんて堅苦しい肩書は御免だと思っているセリカ。そんな2人が結託して王宮を抜け出す。


 だけど幼少のころからエリスに仕える老騎士ガレイと。エリスの乳母の娘のパメラが彼女の行動を察して。2人に同行するという設定だ。


 俺は『不可視インビジブル』と『認識阻害アンチパーセプション』の魔法を発動した状態で。2人のプレイヤーキャラを観察する。

 4人は雑談しながら飲み物を飲んでいる。

 特に不自然なことはないが……俺は気づいた。


 上手く演じているけど。その・・キャラはそんなことは言わない。


 俺以外の4人目の転生者を見つけたことになるが。すぐに動くつもりはない。

 俺が動くのは、相手の思惑を見極めてからだな。

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