第272話



場所を移し廃村にある私の家に移動する。


というのもどこか旅館へ行きますかと提案したのだが断られてしまったからだ。


そう言う事じゃないの? 目当てはそれじゃないの? なんなの?!


私も逃げ出したい心境だ。


取りあえずソファーに案内し、飲み物のリクエストを聞いた。


「お飲み物は……いかがいたしますか? お好みでお取り寄せいたしますが」


こっちのマナーは分かんないよ。

取り合えず、あちらの飲み物好きだってことは知っているので本人の好きな物を取り寄せる方が早い。

アルフォート様が来られるときはだいたいこうやって飲み物のリクエストを聞く。

陛下もさっき非公式だって言ってたから良い……よね……?


ちょっと自信が無くなって来た。


「私はそうだな……スッキリとした味わいで辛口の日本酒を頂こう」


陛下がいの一番にリクエストを出した。


王妃様とオリヴィア様は顔を見合わせている。

王妃様はまだ好みが分からないようだ。


オリヴィア様が王妃様に話しかけてお薦めを紹介している。

お二人からは甘くて飲みやすいワインを所望された。


最後はアルフォート様、スモーキーな香りが特徴のウィスキーを所望された。


それぞれの要望に合わせ取り寄せを行いグラスに注ぎテーブルの上へ置いた。


「何か摘める物も用意致しますか?」


「あぁ、頼む」


「かしこまりました」


今から準備するのは手間なので居酒屋メニューを取り出そうとし手を止めた。


……この間灯里と高梨さんにメニューの冊子を作ってもらったな。

一枚一枚パソコンで画像を張り付けて印刷し、ラミネート加工して穴を開け本のようにしてもらったものだ。


色々作り始めたばかりでまだ居酒屋メニューしかないけど……陛下もアルフォート様もお酒な気分らしいし丁度良いや。


アイテムボックスからメニューの冊子を取り出しテーブルの上に置いた。


「……これは?」


「あちらのお店のメニュー表になります。 こちらに写真が載ってますので宜しければ興味のある物をお取り寄せ致しますがいかがでしょう」


私がそう言うと4人の視線はメニューの冊子に固定された。


「ほう……」


「まぁ」


「……そんなのまで?」


「あらあら」


陛下と王妃様とオリヴィア様は興味深そうに、アルフォート様には苦笑された。


「……これは絵か?」


手に取ったのは陛下だ。

まず表紙を捲る。


「随分と精密ですね」


そんな感想を述べるのは王妃様だ。


「こちらは写真となります。 申し訳ないのですがどうやって映しているかは私には原理が分からないのでお答えいたしかねます」


「……そうか、それは残念だ」


「味の想像もつかなそうなものばかりですね」


口数の多いのは陛下と王妃様、アルフォート様とオリヴィア様は相づちを打ったり会話の要所要所で補助をしている。


「そうだな」


皆でメニュー表を覗き込む。


「これならば王宮での食事を抜いてくるべきだったな……」


「それでこの間体調不良ではと騒ぎになったではありませんか。 お忘れですか」


メニューを見て本気悩む陛下。

それに苦笑しながらそう王妃様が告げる。


そんな事になってたの? まぁ王様が食事を抜くって一大事になりそうだもんね。

食事を用意するシェフは気が気じゃないだろうし、病気ではないのに病気を発見しなきゃいけない主治医も大変そうだ。


「分かっている、では軽くつまめる物を頼む」


「では私がお選び致します」


陛下に無茶ぶりしかけられたところでアルフォート様が助け船に入ってくれた。

陛下の好みの軽く摘める物って何よ。

表面上は笑顔だけれども内心冷や汗かいた。


アルフォート様ありがとうと心の中でお礼を言っておいた。

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