第268話


「すみません、忙しいのに」


「いやいや、美しいお嬢様達の誘いを断ったのではフォルラーニの名が廃るさ!!」


ユーリアスさんはユーリアスさんだった。

だいぶこちらになじんだのか来た当初よりも更にキラキラ度に磨きがかかっている気がする。

楽しいなら何よりだ。


お互い冒険者ギルドで遠くから顔を見ているが直接対話をしたことが無かった灯里とユーリアスさんの自己紹介を終えると早速本題に入った。


「ふむ……ミラーリア侯爵家か」


「はい、貴族の間ではどんな人柄なんですか?」


「まぁ……薬師の一家だな。 皆優秀だぞ、フォルラーニの落ちこぼれの私と違ってな」


はははと元気よく笑うユーリアスさん。

さらっとなされた自虐にどう答えていいか対応に迷う。


「ユーリアスは落ちこぼれじゃない」


「んじゃ。 才能がフォルラーニに向いてなかっただけじゃ」


「そう言う事だ」


「倉敷……マッヘン爺……」


ユーリアスさんは照れ臭そうに笑った。


……なんだこれ。 短期間で急接近してるぞ。

私達は何を見せられているんだと横に座る灯里に目配せをした。

そしたら灯里は何故か知らないが、その男性陣のやりとりが心に沁みているようで微笑ましく見守っている。


何故だ!!


「おっとミラーリア侯爵家だったね。 そうだな……僕が出入りしていたサロンでの噂は渡り人に無関心の家って言われてたね」


「渡り人嫌いではなく無関心……ですか?」


「そう、渡り人に関してミラーリア侯爵家の人たちはみなまるでタブーに触れないようにするみたいに無関心だった」


「なんでそれが嫌いに変わったんでしょう……というかその話が本当ならミラーリア侯爵家がなんでブリストウ領に絡んでくるんですか? しかも自領の商会を使ってまで自販機を欲するなんて……」


「そうなのかい? ミラーリア侯爵家が渡り人の品を欲したのか? それは初耳だな」


「まぁ……わしらの会心の作じゃからの」


「まぁな」


マッヘンさんと倉敷さんは自身の作品を求められまんざらではなさそうだ。


「そう言う話……なの?」


その二人の反応を見て灯里は困惑している。

私も違うと思う……多分。


「あぁ……あれは素晴らしい作品だった。 僕もぜひとも欲しいと思うが……いや、自分で作れるように努力するよ!!」


そう話すユーリアスさんは本当に生き生きとして自信にみなぎっていた。

話題が完璧に逸れた!!

戻って戻って!!


「えっと最近ミラーリア侯爵家の御息女が商業ギルドに訪れてその足で領主の館に来たそうなんですけど……ミラーリア侯爵家じゃなくその御息女はユーリアスさんから見てどんな方なんですか」


「御令嬢……だったらシャーロット嬢か。 シャーロット嬢は……なんというか素直というか控えめな乙女らしい御令嬢だったかな。 舞踏会でもダンスよりもご友人たちと一緒に居ることの方が多いかな」


「ユーリアスさんはお話はされたことあるのでしょうか?」


灯里がそう問う。


「私かい? まぁ昔は侯爵家同士で顔合わせをしていたが今は互いに歳を重ねたから会う事もそうないな。 僕は良いが、シャーロット嬢が周りに変に勘繰りを入れられると縁談に困るからな」


……縁談。

ここは親同士が決めるのか。

年頃の男女が行き来したのでは確かに恋仲であると勘違いされるかも。

元の世界とのギャップを感じ凄いなぁと感想が漏れた。



「なら最近はシャーロット様とお話はされてないんですね」


「あぁ」


ふむふむ……。

控えめで乙女な御令嬢がわざわざ領地を離れ遠いブリストウ領へ来た?

なんかイメージとそぐわないなぁ。


「ミラーリア侯爵家が渡り人に無関心ってどういうところから来たんですか?」


「さぁ……どこから出た噂かは分からないが……私が聞いた話だと、渡り人がもたらす美酒はどこでも歓待に使用されたりするんだ。 あんなに美味しいお酒はこちらにはないからね。 とある貴族が当主が代替わりした際現翁は嗜まなかったが現当主はどうかと薦めたそうだ。 だが頑なに拒まれたそうだ。 その御夫人も子息令嬢も軒並みな、夫人は婚姻する前は嗜まれていたそうだが、嫁いでから嗜まなくなったそうだ。 多分そこから来てるのかもしれないな」


うーんと考えに考え抜いてそう答えをひねり出してくれたユーリアスさん。

飲み物も拒否なら確かに渡り人が好きじゃないって繋がりそう……なのかな?

それ無関心じゃなくて毛嫌いしてるんじゃない?


「まぁ貴族社会ではちょっとしたことが誇張され広まったりするからな。 嘘か本当かは分からないがね。 君たちも貴族の噂は話半分で聞いていた方が良いよ。 夫人はご懐妊していたころかもしれないし当主は何かしらのアレルギーがあるのかもしれない。 それが遺伝する物だとしたら子息令嬢も嗜まないのも分かるしな」


「わ、分かりました」


失礼だがユーリアスさんも貴族なんだなと感心した。


「特に侯爵家ともなると気に入られようと好みの物を取りそろえようとする。 だから指向が尚更広まりやすいんだ。 私なんかも何故か綺麗に着飾った御令嬢方を斡旋されたよ」


若い男性には女性を、あわよくば繋がりをと言う事なのか?

ユーリアスさんは見目も良いからそう言う事なのか。


なんか大変な世界なんだなと他人事ながら思った。





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