第263話



廃村




「私がユーリアス=フォルラーニだ。 此度は迷惑をかけたな、これからよろしく頼む、ところであれは何だったんだ? 門をくぐった途端移動したようだが……まさか転移門? 転移門を開発したのかい? どういうことだ、本当に作ることが出来る物だったのか? 誰が作ったんだ? 菅……倉敷が作ったのかい? どうやって作ったのか……聞いてもいいかな?」


来て早々の質問攻めである。

そうとう興奮しているらしい。

キラキラとした瞳で倉敷さんに質問を投げかけている。


「何を偉そうに言ってるのかしら、立場が分かっているの?」


そんなユーリアスさんの頭にフォルラーニ侯爵の鉄拳が降り注いだ。


「あいたっ!! 母上、暴力は宜しくない」


ゴツンと盛大な音を鳴らした頭を押さえるユーリアスさん。



アルフォート様から預かると告げられてしばらくたち、フォルラーニ侯爵の次男であるユーリアスさんが到着した。


廃村ではユーリアスさんの侍従は来させないようで、アルフォート様の屋敷で待機するらしい。


それに合わせて、侯爵がグリフォンでブリストウ領にやって来た。

初対面のユーリアスさんはなんだか嬉しそうだ。

倉敷さんに手の上でコロコロと転がされたのに懲りていないようで、倉敷さんを視界に入れてからぶんぶんと手を振っている。


アピールされた倉敷さんはというと無の表情である。

手のひらでコロコロ……してたんだよね? あの懐きようを見る限り……。


……というか拉致られたとはいえ一緒にフォルラーニ侯爵領まで一緒に旅をした仲だよね。 こっちに来るようにスカウトした人だよね。 何故に無関心?! 

その無感情の表情に思わず二度見してしまった。


マッヘンさんと菅井さんはこの人が噂の……? みたいな値踏みするような視線を送っている。

ユーリアスさんは気にしていないようだ。

なんだかここに来れて嬉しくて仕方がないようだ。


「今日から昼間ここで倉敷の補助をすることになったユーリアス=フォルラーニだ。 フォルラーニ侯爵の次男だが……」


アルフォート様から紹介があり、そこで一旦口ごもった。


「こちらに迷惑をかけ申し訳ない。 爵位を気にせずどんどんこき使ってください、何かあっても文句は言いません」


そこから侯爵が語気を強めて断言した。

いや、そんな危険なことしないって……。


そう思いつつ廃村までの移動手段を思い返した。

……いずれは何かあるかもしれないな。 言質取らせてくれるなら取らせてもらったほうがいいね。


「まず何からするんだい? 魔道具見せてくれるのか?!」


取りあえずユーリアスさんは一旦黙った方が良いんじゃないかな?


口から何か言葉を発するたびにフォルラーニ侯爵に睨みつけられていた。

どうやら全く懲りていないようだ。


ユーリアスさんとフォルラーニ侯爵のやり取りを見てマッヘンさんと菅井さんは何かを察したようだ。

こいつは同類だ……と。


そこからはユーリアスさんが魔道具について言葉を発するたびに頷いていた。


紹介が終わると侯爵はくれぐれも迷惑をかけるなとユーリアスさんに念を押すよう言い含め転移門にてアルフォート様と共に館の方へ帰って行かれた。


「……さて、ユーリアス行くか」


「分かった、菅……倉敷!!」


菅井って言いかけたね。


「まず腕前を見んとな」


「僕も見に行こうかな」


さっさと歩き出す倉敷さんの後を追うユーリアスさん、その後ろをマッヘンさんと菅井さんと相良さんがついて行った。




そしてユーリアスさんがこの廃村に来てから数日が経った。





私の目から見てユーリアスさんという人物は貴族らしからぬ人だなという印象だ。


元々倉敷さんの旅の報告で聞いていたから貴族っぽくないなってのは思っていた。

実際に目の当たりにするとさらに凄かった。


来て次の日には元から居たかのような馴染みっぷりになっていた。

着た当日は夕方には戻らなければならないという決まりなので迎えが来た。


その時の別れの仕方が今生の別れかというくらいのものだった。

アルフォート様は困惑していたし私も困惑した。

立った数時間でユーリアスさんの心が掴まれまくってる事に大変驚いた。



マッヘンさんは初めはユーリアスさんの様子にほだされたようで、そのままいったらこのまま廃村に泊めようとか言い出しかねなかった。

私が後ろから「お酒」 と呟いたら手のひらをくるっと回転させ、ユーリアスさんの背中をバシバシ叩いてまた明日続きをやればいいじゃろ、そんな泣きなさんなと慰めていた。


まだユーリアスさんよりもお酒の方が価値が高かったようだ。

……でも初日にお酒を出さないとほだされてしまうような人物なのか凄いなと思った。


ユーリアスさんとアルフォート様が館へと帰っていったのを見て私達も温泉へ移動した。

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