第260話





「マッヘンさんと菅井さんも呼んできました」


幌馬車のリビングでアルフォート様にマッヘンさんと菅井さんも呼んでくれと言われ2人を呼んできた。


手狭になったので私の家へと場所を変えテーブルを囲みソファーへと腰を下ろす。


並びはアルフォート様の隣に倉敷さん。

……なんだか一緒に居るイメージが無なくて違和感があるね。


その左側に私、右側に相良さん、アルフォート様の向かいにマッヘンさんと菅井さんが並んで座った。


皆の前に350mlのお茶のペットボトルを置くと話が始まった。



「今回の倉敷の誘拐事件の犯人が分かった。 今日本人の保護者がブリストウ領に倉敷と犯人を連れて訪問。 その結果、倉敷の要望により犯人がブリストウ領に滞在することになった。 居住地は私の監視下に置くため私の屋敷、日中は倉敷の助手をするために廃村に滞在予定だ」


ん? まぁ倉敷さんがここに居る時点で無事なのは分かるよ?

そもそも犯人って誰なの? 保護者が連れてきたって言ってたけど……。


そう思っていたらマッヘンさんの手が挙がった。


「ちょいと良いかの?」


「あぁ」


「犯人は誰なんじゃ? わしらとしては透を誘拐した奴がここに隔離されるのは納得いかんのじゃが」


「……まぁ、そうだな」


「犯人はこの間来たフォルラーニ侯爵の息子だ。 館で鉢合わせた時は凄い形相だったぞ」


口を挟んできたのは誘拐された当事者の倉敷さん。


……凄い形相って何? 気になるんだけど。


「私もさっき話を聞いたばかりだから出来れば倉敷から事情を聴きたい。 どうしてそうなったんだ?」


あ、本当についさっきのことなんだね。


そうアルフォート様に問われた倉敷さんはしばらく口を噤みあちこち視線を彷徨わせながら考えをまとめ始めた。


「成り行き」


「「「「分かるか!!!!」」」」


一斉に入った突っ込みで苦々し気な表情を浮かべる倉敷さん。


またしばし口を噤むとゆっくりと話をし始めたのだった。




ブリストウ領からフォルラーニ領までの道のりは尻が痛くなることを除けばそう悪いものではなかった。


宿の手配はユーリアスの従者のバルトがしてくれた。

後から考えれば手配した宿のグレードも貴族向けの質の良い宿ばかりだったなと思う。

まぁ桜が手配した宿に比べれば劣るがこちらの世界では十分綺麗な宿だった。


ユーリアスは魔道具に詳しく、マッヘン爺さんが知らないような貴族に伝わる歴史や各々の家系に伝わるレシピ産の魔道具、おとぎ話のような魔道具の逸話、それこそ俺のような渡り人では知りえないこの国の話が色々と聞けたからだ。


爺さんとは魔道具の改良のやり取りを良く話すが……まぁ俺が言えた義理ではないが爺さんも自分が興味あること以外頭に入らないタイプだ。


貴族に伝わる話なんてしたことが無かった。


旅の最初こそ眠り薬が使われたが徐々に使われることが無くなり、王都を超えてフォルラーニ侯爵領までは旅の仲間みたいな感じになっていた。


「ここが私の部屋だ、菅井」


出迎えに出てきた使用人たちには軽く手で挨拶をしずんずんと屋敷の中へ歩みを進め、広すぎる邸内に半ば辟易しながらたどり着いた部屋は疲れを忘れさせた。


その部屋はしばらく主が居なかったとは思えないほど埃っぽさが無く、部屋の隅々まで丁寧に手入れが行き届いていた。


まぁそんなことは置いておいて、俺が目についたのは壁の戸棚に飾られた魔道具の数々だ。


見事に使い方が分からんものばかりだ。


謎に浮いている物体やら、歪な形の物。 中に液体のような物が入った物、大きさも掌に収まるくらいの物から天体望遠鏡のように大きいものまであった。


「どうだ、凄いだろう」


胸を張ってそう自慢するユーリアス。


「あぁ」


その言葉を右から左に聞き流し、生返事をし戸棚に近寄る。


「ん? 凄いだろ? 菅井」


「あぁ」


これはどうやって使う物なんだ? 試験管のようなものに液体が入っている。 魔道具なのか? ポーションとかの類なのか?


「菅井? おーい菅井よ」


「あぁ」


「まぁいい。 そんなに私のコレクションが気に入ったのだね」


「あぁ」


ずっと生返事をしていたらそのうち何も言われなくなった。




「……ようやく話が聞けるようになったか?」


「ん? ずっと聞いていたが」


「嘘をつけ!! ずっと『あぁ』 しか言わなかったであろうに!!」


「悪い悪いついつい見入ってしまった、でこれなんだが鑑定はしているのか?」


「悪びれもしない、だが褒められて悪い気はしないな!! 鑑定か? 鑑定結果はこちらにまとめてあるぞ」


書棚に近寄りメモ紙の束を持ってくるユーリアス。


「これ全部あれの鑑定結果か?」


「そうだ。 鑑定し危険性を排除しなければ手に入れられぬのでな」


「そうか」


メモ紙を手渡され生返事をする。


「魔道具に対しその姿勢素晴らしいな!!」


何故か褒められた。

ちらりとユーリアスを見れば何やら興奮しているようだ。


まぁ別にいいかとそのままスルーした。


「この家では魔道具はあくまで道具としてしか見られない。 このようにロマンあふれる物に対しては価値が低くみられるのだ。 その点菅井は良いな、魔道具は全部ひっくるめて魔道具としてあくなき愛を感じるぞ!! 同士と呼ばせてくれ」


「断る」


「分かった!!」

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