第256話




倉敷さんからの通信が切れてから話し合いがもたれた。


今日の所は倉敷さんからの連絡は来ないだろうと判断して日本の旅館に行った。


メンバーは私、マッヘンさん、菅井さん、相良さんの4人。


夕食は個室で取り、食事を楽しみつつ倉敷さんからの話を整理することになった。


「そもそも拉致者の話しぶりからして倉敷さんを認識してなかったみたいですね」


「そうじゃの、ん? この日本酒旨いのう」


鱈の西京漬けをフォークで器用に骨を取り口に運ぶ。

それをお猪口に入った日本酒で流し込みマッヘンさんは満足げにそう言った。


ちなみにマッヘンさんの前には日本酒の瓶が4本ほど置いてあった。

足りないというのが目に見えているので。


「魔道具作りの渡り人として有名なんじゃなかったんですか? 倉敷さんって」


「有名だよ。 王都にいる時はそれこそ何人も最初は使いの使用人から、それでも突っぱねたら次は執事が、最後には馬車を乗り付けてご本人がぜひ家にと誘いにきてたもん。 よく分からない梅酢餡の掛かったこれ旨!! なにこれ」


「私も追い払ったりしましたもんね。 懲りないんですよこれが」


相良さんはビールを飲みながらそう言った。


「今回倉敷さんを拉致した人は王都の人じゃないって事かな?」


「王都にもかなりの人が居ますからね、……でもそれだけ魔道具が好きな人なら一度は家の者を含め工房に訪れているはずです、だから普段王都に居ない貴族なのかもしれません」


「そうじゃの、まぁ屋敷に着いたら透から連絡が来るじゃろうて、相手も魔道具が目的なら身の安全も保障されるはずじゃよ。 というかあの廃村に行ってからの透の魔道具はそんじょそこらの者の攻撃なら受け付けない頑丈さじゃ。 身の危険はない、安心しとってもいいじゃろ」


「……どんだけ頑丈なんですか倉敷さん」


「そうですね、あの地竜のブレスぐらい弾き飛ばしそうな感じですかね」


「流れ弾がヤバいやつ!! 弾いちゃダメじゃないかな!!」


さらっと相良さんにそう言われた。

あのブレスって私が受け止めたアレだよね。

アレ弾き飛ばしたら着弾点がヤバいんじゃないか?!


「あ……そう言えばこれって領主に言うの? 報告義務ってあるの?」


食事に夢中になっていた菅井さんがそう呟く。

そう言えばなんも報告してこなかったね、長谷川さんも居なかったし。


「どうじゃろ? 桜が消えたら報告しなくちゃまずいが……わしらが消えたとて気にするんじゃろうか?」


「気にしないと思います」


「でも一緒に隔離されてますよね? 隔離したなら気にするんじゃないですか?」


私がそう言ってみるが実際はどうなんだろう? 倉敷さん達の扱いがアルフォート様の中でどうなってるのか分からないな。

一緒に居て何か文句を言われたこともないけど。


「長谷川が来たら一応軽く言っておくか。 一応世話になっとるからの」


マッヘンさんの一言で領主への報告は長谷川さん経由で行うことになった。


「領主様も大変だね、桜の件で全貴族から注目を浴びてて、今はミラーリア侯爵令嬢も襲来してて、挙句の果てに渡り人の拉致なんてね」


菅井さんの一言で良心が痛む。 ほぼ私絡みじゃないか。


長谷川さんに報告がてら何か貢物でも渡そうかな。

お刺身を口に運びつつそう考えた。





それからしばらくは倉敷さんは帰ってこなかったが、人目を盗んでちょくちょく連絡をとれていたので無事は確認できた。

だからそれほど心配しなかった。

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