第208話





そして迎えたお披露目初日


商業ギルドの開店時間より前に入れてもらい指示された場所に自販機を置く。

商品は全部補充済み、商業ギルドに置くに当たって契約も書面で結び、職員にも両替について説明は済んでいる。

みんな朝の準備をしながら興味深そうにこちらの様子をちらちら伺っている。

ちなみに商業ギルドの職員達には使い方の説明として、費用は私持ちで自販機を使用してもらった。

ちなみにコインケースは1円用の物が銀貨と同じ大きさだった。

文字も読めないしまあいいかとそれを登録した。

好評だったら誰かが作成するでしょと他のお金の分は諦めた。


「桜さんおはよう」


「春子さんおはようございます」


「いよいよ今日ね」


「そうですね、でも宣伝してないのでお客さんが来るかどうか……」


「賞味期限もないし気長に構えましょう、そろそろ営業時間よ」


「はい、ではよろしくお願いします」


春子さんにお辞儀をし職員の方たちにもよろしくお願いしますとお辞儀をして邪魔にならないよう商業ギルドを後にした。



「お、涼。 今日は上がりか?」


「あぁ、リックもか?」


「いいや、俺は明日から遠征だ。 これから準備に駆け回らなきゃなんねえよ」


「そっか、お疲れさん」


顔なじみの冒険者と挨拶をしカウンターへ完了報告をしに向かう。

時刻はお昼過ぎ。

この時間は人がまばらだ、並んでいた数人もすぐ捌けて自分の番がくる。

いつも通りに納品を済ませ時間が空いた。

今日は廃村でのアルバイトもお休みだしこの後どうするかなと考え思い出す。


今日って確か商業ギルドに自販機が設置される日だったよな。

自分が進めた商品も入ってるし折角だから覗いてみるかと商業ギルドに足を進めた。


……気のせいか?


商業ギルドに近づくにつれて人が増えて行っている。


この時間帯は出店付近は賑わい道自体は人通りはあるがぶつかるほどではない。

だが商業ギルドに近づくにつれ密度が増していっている。


商業ギルドの建物の前まで来る頃には人が密集していた。

そんな中、人込みの後ろに見知った人物がいた。


「灯里も気になったのか?」


「え? あ、涼君、お疲れさま。 ……もって事は涼君も?」


「あぁ、丁度手も空いたしな。 ……で、なんだこれ」 


「私もさっき来たところだから分からないんだよね」


「そうなのか」


そう二人で話すと商業ギルドから誰かが出てきた。


「今日の両替は終了しました。 これ以上並んでも両替は出来ません!!」


どうやらギルドの職員みたいだ。

拡声器のような物で声を大きくして喋っている。

……喋ってる。 え? 両替?


その言葉を聞き灯里と顔を見合わせた。


「両替? そんなんいいから物だけ買わせろ」

「けち臭いこと言うなよ。 こっちは客だぞ」

「こっちはずいぶん並んでたんだぞ」

「見たことない酒も並んでんだろ? 御託はいいから寄越せ」


ここまで詰めかけた人たちは職員に向けてブーイングをしている。


……宣伝してなかったよな? 数時間でこれか? 


「凄い人気だね」


「明日はもっとすごくなりそうだな」


でもしばらくすると諦めたのか出直しなのか少しづつ人が減り始めた。

自販機だけでも見ていくかと二人で商業ギルドの扉をくぐる。


「自販機は〝円〟 のみ対応です。 こちらのお金では購入できません!!」


「あ〝? 円ってなんだ。 なめてんのか?!」


中はまだ人でごった返している。

騒動の中心ではまだごたごたが続いているようだ。


「壊れてんのかこれ」


バンバン!!


硬い物が叩かれる音が聞こえた。


「叩くのは止めてください!!」


映らないテレビは叩けば直る論。

世界は違っても行動は一緒か。 


誰かが自販機を叩いているようだ。 ギルド職員が懸命に止めようとしている。


「静かに!!」


止めに入るかどうしようか迷っていたら奥のドアから春子さんが出てきた。


「げ……」


「それ以上攻撃したら反撃食らうわよ。 それは単なる箱じゃないわ。 魔道具だから痛いわよ」


春子さんの一声で自販機に群がっていた人たちが一斉に距離を取った。


「んな危険なもん置いとくなよな!!」


「そーだそーだ!!」


「その判断は私がしました。 壊そうとしなければ攻撃は食らいません。 なんですか? 壊して奪おうとしたんですか?」


そこにオーフェンさんも加わった。

商業ギルドのトップが出て来たので絡んでた輩達も押し黙った。

ギルド職員はホッとした様子だ。


「今日の両替は終了です。 円が無い人は購入できません、明日また両替できるようになるから欲しい場合は明日来てちょうだい」


「明日何時から両替してるんだ!!」


「いつも通り朝一からやってるわ」


「本当に明日も売るんだな」


「そうよ。 安心なさい」


そう言われ群がっていた人たちはしぶしぶ帰っていった。


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