第203話




領主の館にて


陛下達と〝日本〟 に行く少し前



執務室で仕事をしていると来客の知らせが届いた。

来客の到着時間は約束したものより少し前。

メイドに応接室に通してくれと指示をし自分も赴く準備をする。


「待たせたな」


「とんでもございません。 この度は……」


「挨拶はいい、ソファーに座ってくれ」


陛下からの手紙の件で情報を共有すべくオーフェンを呼び出した。


「かしこまりました。 それでは失礼いたします」


メイドにお茶を煎れさせると一緒に従者も退出させた。

長谷川は今廃村に行っている為この部屋には私とオーフェンのみ。


「近頃の市井の様子はどうだ?」


「特にこれと言って問題はありません、むしろスタンピードで取れた素材が売れて、おかげで市場が潤っております。 被害も軽微でしたので」


「はは、それは僥倖だな」


しばし雑談をし互いの近況を報告しあう。


報告が落ち着くとテーブルの上に盗聴防止の魔道具を置き、念のために起動させた。

お茶を一口飲み、


「……陛下から手紙が届いた」


起動させ開口一番笑顔のままそう言えば、


「……手紙……ですか?」


オーフェンは面白いように笑顔のまま固まった。

それはそれとして笑顔から真面目な表情へと切り替え話を進める。


「あぁ、辺境伯以上、つまり上位貴族の当主の呼び出しだ」


「……それは……桜さんの件で、ですか?」


「おそらくな。 この間公爵が現地視察したから……まぁ……結論が出たんだろうな」


「そうですか……大変恐縮ではございますが、アルフォート様の見解をご教授頂けないでしょうか?」


「私か? まぁ……上位貴族を呼び出すと言う事は……桜をこのままこちらの世界に留めておく方向で動いているんだと考えるが、少なくとも秘密裏に囲うとかではなさそうだ」


「秘密裏であれば手紙は不要……と?」


「魔法の秘密を知っている者たちの口を封じればそれも可能だろ」


「そう……ですね」


封じられるのがどこまでなのかは分からないが。

陛下が必要と判断したら即実行されただろう。

私の言葉にオーフェンの喉が鳴る。


「そうしないところを見ると様子見の可能性が高いか」


「様子見ですか」


当主へ桜の魔法が知られた場合のことを考える。


「あぁ、今の上位貴族は渡り人に対してある程度理解を持っている。 特に当主はな……だからまず当主への根回し……だが」


当主達からの質問責めに会いそうだな……

馴染みの者達の顔を思い浮かべてげんなりとする。


「……」


「子息令嬢、特に侯爵家の令嬢に知られたら少しばかり騒がしくなるやも知れない」


「侯爵? 侯爵と言えばフォルラーニ侯爵、ドルイット侯爵、ミラーリア侯爵でしょうか?」


「特にミラーリア家の令嬢が良くない思想に偏りつつある。 あの年代の年頃に陥りがちの一過性の物だと良いのだが」


ミラーリア侯爵家は先代と渡り人の間で確執があったからな。 その影響か、令嬢令息に対する渡り人教育が遅々として進んでないように見受けられる。

特に顕著なのが末の令嬢、フランシス侯爵令嬢だ。

幼いころから天真爛漫で染まりやすい気質の令嬢だと思っていたが、先代と渡り人の関係が響いてしまっているのか、近頃デビュタント以降良くない傾向に向かいつつある。


「噂は多少お聞きしておりますが……心配なさるほどなのでしょうか」


「念の為にな。 領内であれば私も出来る対処はするが……心構えだけしておいてくれ」


呼び出し以降桜にはしばらく廃村にて隠れててもらった方が良さそうだ。

侯爵家はともかく、公爵家から何か言われた場合めんどくさくなりそうだ。


「かしこまりました。 ご配慮ありがとうございます」

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