第147話



「と言うわけで、領主と相談の結果俺がしばらくつくことになった。 宜しくな」


この馬車のお金の出所はそこか。

実験にも参加するなんて度胸あるななんて思いながら、


「宜しくお願いします?」


と挨拶を交わした。


長谷川さんの前についていた監視兼護衛さんとは一回も顔を合わせることなく長谷川さんに変わったなとか思った。


マッヘンさんたちは素知らぬ顔をしている、長谷川さんに対してあまり興味はなさそうだ。

それよりもこの馬車を説明したくてしょうがないって感じだ。


「座ったら椅子の付いているベルトをしろ」


皆が腰を下ろした段階で倉敷さんがドアに閂をかけながらそう指示を出す。


ベルト?


そう思って椅子を手探りしたら腰の近くのベルトがあった。


シートベルトを想像したが、手に取ったそれは腰につける普通のベルトだった。 ないよりマシかと思い腰に巻いた。


「良いか? 起動するぞ」


倉敷さんがみんなに確認し頷くと魔道具のスイッチを押した。


窓の外を見れば静かに景色が下から上へと流れた。


「本当に浮いた」


隣に座る長谷川さんからそんな感想が漏れた。


ちなみに席順は私の隣に長谷川さん、私の向かい側にマッヘンさん、その隣に菅井さん、そして倉敷さんと並んでいる。


ある程度上昇すると空中で停止した。


「……すごい、前より全然揺れないですね」


前に乗った時よりも安定している。 マシになったと言うレベルではなく別格だ。


「じゃろ? 魔道具の個数を増やして一つあたりの負担を減らし遊び分を増やしたんじゃ。 そうすることで一箇所にかかる負担を軽減、それで安定性が増し、……この通り歩いても揺れが出ないようになったんじゃよ」


満足そうに話すマッヘンさん。 ベルトを外し歩いて見せてくれている。 確かに揺れない、本当にすごい!!


「そんじゃあ次行くぞ、相良頼む」


通信の魔道具で相良さんに指示を出す倉敷さん。


途端に風が吹き窓ガラスが軋んだ。


ここは変わりないのか。


「……これってガラス大丈夫なんですか? かなり軋んでますよね」


今回の馬車は見た目もきちんと馬車なのだ。 前回も見た目幌馬車だったが、何を言いたいかと言うとガラス部分が多いのだ。


「もちろん対策済みじゃ」


「あぁ、この窓は硬化ガラスを使用している」


「僕が魔法で出したんだよ」


流れるように三人で説明してくれる、菅井さんの魔法って確か石を出せるとかじゃなかったっけ?


「ガラスも出せたんですね」


「うん。 試しに出してみたら出来たんだ」


「鋼の魔法は意外と便利じゃぞ? サイズを言うとその通りに出せるし加工する手間が省けるんじゃ」


「そうなんですか」


確かにこの馬車についているだけでも加工すれば時間がかなりかかったと思う。 それを魔法でちょちょいと出せるのはすごい。


「無事に行けそうだな。 よし、相良移動開始だ」


「移動開始って?」


なにやら倉敷さんが相良さんに追加で指示を出した。 途端に景色の流れが速くなった。


「実験終わりじゃないんですか?」


「最終実験が終わったぞ?」


「今度は実戦じゃ」


「今日はゆっくり寝られそうだー」


「久しぶりの日本食楽しみだ」





……あれ? なんだか様子おかしくない? 結託されてない?




「……これってどこに向かってるんですか?」


「もちろん「「廃村」じゃ」だよ」に決まってんだろ」





「……今日行くって聞いてないー!!!!」





そんな私の声も虚しく強制的に拉致られたのであった。



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