第131話



「狭苦しいところですがどうぞ」


「「お邪魔します」」


今日は灯里と一緒に高梨さんのところに遊びにきた。


目的はカタログギフトの説明だ。


高梨さんもこの間の調査で一緒だったきり、灯里に至ってはスタンピードの時以来の顔合わせだ。


高梨さんに促され家の中に足を進めた。


灯里は高梨さんの家に来たことがなかったようでキョロキョロしている。


椅子に腰を下ろし高梨さんがお茶を入れるために席を外した。


「高梨さんの家初めて来た」


「私はハンスさんに連れてきてもらって以来かな」


「そうなんだ」


私と灯里で話をしているとお盆の上に飲み物を乗せて高梨さんが戻ってきた。


「お待たせ。 冷たいお茶で良かったかな?」


「はい」


木彫りのコップに氷とお茶が入っていた。


「今日は異世界風じゃないんですね」


「なにそれ?」


「流石に気温高くなってきてるからね」


ここで灯里に前回来た時の説明をした。 私の興奮とともに感想をつけて。


「私も見たかった」


「灯里さんも出来るんじゃないかな? 魔法の調整上達してるし」


「そうだ! 灯里めっちゃ強くなってたね! あれ何?! ビックリしたんだけど」


色々あって忘れてた興奮が蘇ってきた。


「え? あははははは。 私頑張ったんだ」


照れたように灯里は笑った。


「そりゃ頑張ったでしょ! Sランクフルボッコってどれだけ頑張ったの?! 私も出来る? 灯里教えてよ」


私はまだ防御しかできないもの。 攻撃手段が欲しいなとかあの時の灯里かっこよかったとかそんな思いを込めて灯里に縋りついた。


「身体強化だろ?」


「そ、そうです」


「短期間であれだけ上達できるなんてすごいな」


向かいの席に腰を下ろす高梨さんが灯里を褒める。 さらに照れる灯里から物騒な言葉が聞こえた。


「元々殴り聖女に憧れてたんだ」


「「殴り聖女……?」」


殴り聖女? 殴って治すの? ……あ、たしかに殴って治して殴って治してたな。


え? 灯里そんな物騒なことしたかったの?


「元々ゲームがオンラインゲームが好きだったんだ。 一人で回復しながらボスを倒す人の動画を見ててすごいなって思って私もやりたいなって……それからは物理タイプの回復者を目指してゲームしてたんだ。 あんまり上手じゃなかったけどね。 それでこっちに来る時にも同じように出来ないかなと思って回復の魔法を貰ったの。 こっちにきて回復魔法使ったらすごく喜ばれちゃって……魔力は回復しないし身体強化の練習に回せる魔力ももったい無くて……」


そう話す灯里は話を進めるごとにしょんぼりしていった。


「分かる。 俺は鑑定だったから周りからはがっかりされるくらいでそんなに気にはしなかったけど、回復魔法の使い手の大変さというか有り難さは冒険者達からも話を聞いてたから、他人事ながら生き苦しそうと思ってた」


「こっちの世界の人達が同じ魔法を使おうとしたら一生練習に費やしてやっと使えるか使えないかぐらいだもんね」


「先に貴族や神殿やらに見つかってたら飼い殺しにされたよなきっと。 ってか実際に囲われてる人も居るし」


そうなの?!


「お互いに利点が一致して囲われてる人もいれば、言いくるめられてる人も居るのかも。 来たばかりだと何も分からないし……その点は複雑だけどシリウスさん達がストーカー並に護衛してくれて良かったのかも少なくとも言い寄られなかったし……シリウスさんはボコボコにしちゃったけど」


高梨さんと灯里の話を聞いて灯里には申し訳ないけど回復魔法を選ばなくて良かったと心から思った。


「そこら辺は複雑だな。 感謝の面もあれば精神的に追い詰められる面もある


「すぐには無理だけど落ち着いてから感謝は伝えられたらいいなと思ってる。 ……今は別の意味で困ってるし」


そこら辺はまだ来て間もない私にはまだわかりにくい話だった。 こっちに来てから出会った人はシリウスさんを除いてみんな良い人達ばっかりだったし、これから過ごすうえで気をつけようと思ったら灯里が歯切れ悪く言葉を濁したことに気づいた。


「別の意味で困ってる?」


「……うん」


「今度は何やらかしたんだ? シリウスさんは……」


灯里は目線を彷徨わせた。 とても言いにくそうだ。


「……なんか目覚めちゃったらしいの」


目覚めた?


灯里の言葉を聞いて頭に疑問符を浮かべ高梨さんと目があった。


高梨さんもピンと来てないらしいので続きを促す。


「何に?」


「殴られることに……」


「「は?」」


殴られることに目覚めた? ちょっと待って。 どういうこと?


「冒険者ギルドに来ては蔑んだ目で見てくださいとか殴って下さいとか蹴って下さいとか言われるようになったの!! 意味分からない!! 」


「うわ……変態度が増してる……」


「灯里……無理しないでね」


大勢の人がいる面前でそれは……シリウスさんと灯里の確執はまだまだ続きそうだ。


灯里は頭を抱えて私のせいで可笑しくしちゃったの? 私が悪いの? と肩を落とした。


そんな様子の灯里を見てちょっと同情してしまった。

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