第111話


「落とし所?!」


「商業ギルドから人気商品を取り上げる。 代わりに何をどこまで譲歩しますか?」


譲歩……。


うーん…。


「ひと月のあっちの商品の売り上げってどれくらいですか?」


「……難しいですね。 物によるので」


「うー……ん……じゃあ交換した金貨全部商業ギルド納めでいいですよ」


「それはやめた方がいい。 相手につけ込まれるだけです」


「私としてはぶっちゃけ金貨も要らないんですけどね」


商品は出し放題だし。


買い占めさえなければ。


……あれ? 


オーフェンさんの雰囲気が……。


「それでは話になりませんね。 ならばそこら辺で配れば良いでしょう。 円の交換も無し。 手間も無し。 それか今まで以上にこちらにお売り頂くか……それだとこちらは今まで通り。 それで話はおしまいですね」


「え?」


オーフェンさんはそれからしばらく無言になってしまった。


「……それじゃ桜さんは分からないでしょう」


ふー……と溜息を吐いてオーフェンさんを見る春子さん。


「桜さん……まず……何故100円に対し金貨1枚と言う設定を決めたんですか? ただ単に買い占め防止なら個数制限をかければ良いだけですよね? わざわざ円にする必要無いですよね」


「それは……」


そうだ。


「……ただ買い占めされないようにとしか考えてませんでした。 金貨なら他の人を雇えば何とでもなるし……それならこっちの人が持ってない物と交換にすれば買い占め防止出来ると思って……。 円についても1日で交換できる総量を定めればたとえ人を雇っても上限があるから買い占めできないんじゃ無いかな……と」


「そこは考えられるんですか……。 では何故金貨を全部商業ギルドに納めると言ったんですか?」


「そこは手間賃というか……だってそんな大金稼ぐはずのものがいきなり無くなったら困りますよね」


「困りません。 元々無いものを当てにして無くなったから困るようでは長として資質が欠けてます。 現にここでは渡り人から買い取る品物がなくなっても困りません」


「そ……そうなんですか?」


「馬鹿にしてもらっては困ります。 それに何故最初から両手を上げてるんですか? あちらの世界の物を広めたいんですよね? その結果色々と変化があると思いますよ。 衣食住どれにとってもです。 恨まれるのは商業ギルドだけでは無いです。 そこは分かってますか? 全てに対して補償をするんですか? 無理ですよね。 変化を希望する割に戦う覚悟が無さすぎる」


あ……。


オーフェンさんは一緒に戦ってくれようとしたんだ……。


なのに言い出しっぺの私が怖気付いて最初から降参してたから怒ったんだ。


オーフェンさんのこと巻き込んでおいて信用してないように見えたよね。


軽く考え過ぎてた。


「それに……何故対価を受け取ろうとしないんですか?」


「対価……?」


「お金に対する執着が無さすぎる。 ここで売って得たお金もすぐ使ってしまいましたよね」


執着? いやお金が欲しくて色々売ったよ? 宝くじも当てたよ?


「まさか……気付いてなかったんですか?」


でも……そういやすぐに使ってたな。


いや……だって……


「私が見つけた訳でも作ったわけでも買ったわけでも無いですもん。 私はただ魔法で出してるだけで……そんな私が貰えるお金じゃ無い……」


「あっちのお金だって簡単にポンと出そうとしてるしね。 かなりかかるのに」


あれは宝くじで当てたから元々無いお金だし……。


心の中で引っかかってたのかな?


私だけが得して申し訳ないって……。


いや初めは美味しいものを共感して欲しい気持ちだったよ?


無料でもよかったし。


でも無料でも受け取ってくれないこともあって、


予想外に売りつける形になったりして、


高額になってしまったりして、


心苦しくなっていった。


私が受ける恩恵を共有して欲しかった。


共犯を得たかった?


ハンスさんはそれを察して制してくれたのかも……。


そんな私の様子を見てオーフェンさんは溜息を吐いた。


「その魔法を選んだのは桜さんです。 それで得して何が悪いんですか? 作ったわけでも買ったわけでも無いと言いましたが……魔法で出してあっちの人に何か迷惑かかりますか? かかりませんよね?」


「そうですね……」


「ならばこっちで魔法で得たお金をこちらの世界で他のことに使ってください。 今後起こる変化に対応出来るように、こぼれ落ちそうな人達の補助に使って下さい。 決して欲に塗れた汚い奴らに取られてはダメです。 その為になら私はいくらでも手助けしますから」


「ありがとうございます」


それからは話をつめていった。

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