第71話 2軒目
次の日早めにチェックアウトして相良さんのお店に戻ると決めていた旅館の申し込み番号を入力し再び別の温泉へ向かった。
先に着いた私と灯里、次に来たのがオーフェンさんと春子さん、最後に相良さんと高梨さんが到着した。
「桜見て!」
「うわっ!!」
フロントは5階にあるらしくラウンジにはウッドデッキがあり美しい山並みが見えた。
そちらに行って二人でソファーに腰掛ける。
景色に魅入ってると不意に肩に手を置かれた。
「桜さん。ちょっとお話宜しいですか?」
オーフェンさんだった。
何かに耐えたような押さえた声をしている。あ、これ春子さんから聞いたな。
「何でしょうか?」
にっこり笑って振り返った。
「何故昨日教えてくれなかったんですか? 皆さん知ってましたね? 老骨に鞭を打つつもりですね?」
「お待たせお待たせ」
そこに相良さん達が合流した。
「入れ知恵はお前か相良!!」
クワッと牙を剥くオーフェンさん。
相良さんはあーと察した様子でこちらをちらりと見てオーフェンさんに視線を戻し微笑んだ。
「調整……頑張って下さい」
言われたオーフェンさんは何かを言おうと口をパクパクしてグッと口をつぐんだ。
何かを飲み込んで長いため息を吐いた。
「もういい……」
その様子を春子さんはやれやれと言った様子で見ていた。
「何かあったのか?」
受付をしていてそのやりとりを見ていなかった高梨さんがやって来たのでオーフェンさんが知ったんだよと教えてあげた。
皆んなでエレベーターまで行き2階の客室へ向かった。
「ここも凄いすごい!」
部屋の中は入ってすぐにダイニングがあり、その先にダブルサイズのベッド、その奥にオープンテラスと露天風呂があった。
室内は間接照明で灯りがとられ落ち着く雰囲気だ。
「灯里テラスに行こう」
「うん」
円形の檜の露天風呂の隣には座面が広くとられたソファーが置いてあった。
「風が気持ちいいね」
「そうだね」
「せっかくだから入っちゃう?」
「そうしようか」
服を脱ぐとシャワースペースで洗い湯船に浸かった。
「灯里灯里」
「何?」
「アイスいる?」
「いる!」
アイテムボックスからアイスとスプーンを取り出して二人で味わった。温泉入りながら食べるアイスは背徳感の味だった。
各々自由に時間を過ごして夕食を済ませるとガーデンラウンジに行った。
テラス席もあり木々がライトアップされている。
ここではカクテルや洋酒が注文できるようで各々飲んでみたいカクテルを注文した。
特に身分証などは要求されなかった。こっちにくる時もそうだけど魔法のおかげかな? まあいいや。
「さて……」
オーフェンさんが口を開いた。
「桜さんは今後の方向性として……何かやりたい事はありますか?」
「やりたい事ですか?」
「はい。 まず渡り人は不老です。 それは知ってましたか?」
「「「え?」」」
それに反応したのは私と灯里と高梨さん。
春子さんと相良さんは無反応だ。
「病気や怪我では死ぬから不死ではない。 が、老いはしない。 魔力を回復できると言う事はそれらに気を付ければ永遠にこちらにいられると言う事だ。 そんな中で桜さんは何がしたい。 何が望みだ?」
え……。
あ……そっか。
私短期の旅行と思ってた。
ちょっと行って魔力使って美味しいもの食べて珍しい所に行って楽しんで帰る。
魔力回復出来るって知ってチート来た! やった! って思ってた。
長く居られても寿命で死ぬんだと思ってた。
そっか……。
魔力を回復出来るって事はそういう事なのか。
「そしてこれは桜さんだけではなく他の渡り人の問題にもなってくる。高梨さん、本宮さん、あなた達も今後何がしたいですか?」
ハッとして二人を見た。
これは発端は私だけど他の人も私が巻き込んだんだ。
「私は元々オーフェンが死んだら戻るつもりだったわよ」
黙ったままの私達に向けて春子さんが言った。
「私は魔法を極めるつもりでしたよ」
元々魔力の回復方法を探してました。と言う相良さん。
「まあ、今すぐ答えを出せと言うのは無理な話です。それを考えて教えて下さい。それによって最終的な目標を決めます」
少なくとも灯里さんの魔力量がバレる前に決めて下さいねと苦笑しながらオーフェンさんに言われた。
これでこの話は終わり後はカクテルやお酒の話に移った。
私のやりたい事……。
みんなの話をぼんやりした頭で聞いていた。
宿泊し相良さんのお店に戻ってきた。
今は早朝だ。
オーフェンさんと春子さんは家に帰ってからギルドに行くと帰って行った。
高梨さんも家に帰って行った。
灯里は相良さんが送って行った。
私は防御魔法が使えるようになったので一人で家路についた。
私は何がしたいんだろう。
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