第一三一話 石化鶏(コカトリス)
「さて、ここに祀られている怪異だよね? ちょっとお手伝いして欲しいんだけど」
「手伝い? 随分と気安く声をかけるのだな……第一お前は何者だ」
ララインサルは目の前にいる赤黒い体を持った巨躯の巨人を前にいつもの笑みを浮かべている。
鬼……民間伝承にも登場する日本の妖怪、民話や民間伝承にも多く登場する妖怪……地獄の獄卒や人に害をなす存在としても知られているが……地域によっては人を守る存在としても知られている。
「僕はララインサル……別の世界からこの世界を侵略する
「ぱ、ぱぶりっくえねみー? ……ワシはこの国の言葉しかわからんが……まあ、人の敵であることは理解した。それでそのえねみー殿が崇めるものから打ち捨てられたワシに何用だ」
鬼は……少しララインサルの言葉に困惑をしながらも、彼へと問いかける。そうだな……この神社は鬼を祀っているにもかかわらず、すでに放置されて長い年月が経過している。
神社のあった集落は、河川敷に存在していた村だったが……すでに一〇〇年近く人が住んでおらず、彼が祀られていた神社は半分崩壊していた。
「君は……崇めるものがいない状態はどう思っているんだい?」
ララインサルは笑顔を浮かべたまま鬼へと問いかける。苦い顔をしながら鬼は少しだけ人間臭く、頭を撫でる。祀られているものは神と同じ存在であるはずなのに、この国にある怪異は少し違うもののように思える。
異世界の魔物と全く違う存在……単なる怪物ではなく、それ自体が特別な存在として世界に受け入れられているのだ。少しだけ羨ましいな、とは考えるが、今はこの鬼という怪異を仲間に引き入れねばならない。
「……ワシを崇めていた集落はもう無い。時代が変わったのだろうさ……寂しいとか悔しいという気持ちはないな。だが……」
「それでは君のプライドが許さない、という顔だね」
ララインサルの言葉に、鬼が筋肉を一気に盛り上げて……不気味すぎる赤い目を輝かせる。ちょっと前に立ち寄った図書館で民間伝承について調べたことがある。
元々この神社に祀られていたのは、人の身でありながら鬼となり人を害したと伝えられる侍の魂。すでに姿は人ではなく鬼にしか見えないが……その心中にあるのは何か。
「……よかろう、ここで朽ちていくのは本意ではない。どうせ堕ちた身……どこまでも人の敵として戦おう」
「よかったよ……じゃあ藤乃ちゃんご挨拶を……ってやめなさい」
ララインサルの陰から出てきた立川を見て、鬼はその巨体に見合わぬ動きで彼女へと躍りかかる……鬼は拳で、立川は
鬼は不思議そうな顔でララインサルの顔を見て、蔦の絡んでいない左手で立川を指差す。
「……この小娘は人間だろう? 殺さなくていいのか?」
「藤乃ちゃんは味方だよ、ほら仲良くして握手、握手〜♪」
彼の言葉にお互い攻撃体制を解くと、握手まではしないものの軽く会釈をする二人。あのまま止めなければどうなったかな? ララインサルは笑顔の裏で少しだけ考える。
思ったよりもこの鬼の能力は高いな……藤乃ちゃんは戦闘能力だけでいくと、昔
立川が困惑したような顔で
「ララインサル……さん、私は何をすれば?」
「んー、藤乃ちゃんとええと……名前はなんて呼べばいいかな?」
ララインサルは笑顔のまま、鬼へと話しかける。……その笑顔が気に食わない、と鬼は思う。この人間型の不気味な男は復活したとは言え、自分の攻撃をあの細い棒で止めた。
そして余裕のある素振り……今の自分よりも強いかもしれない、いや強いな。今は従う方が得策だろう……鬼は素直に自分が呼ばれていた名前を告げる。
「……
「貞ちゃんって呼ぶね、ほら藤乃ちゃんも挨拶して」
立川はおずおずと巨躯の鬼へとお辞儀をする……この娘は一応きちんとした教育を受けているな。日の本の人間だからそうだろうが……これからこの時代のことを聞きながら動くとするか。鬼貞は立川を見ると、深々と頭を下げる。
「……勝手にしろ。それと藤乃……とか言ったか、この時代のことを教えてくれ」
「では……今日は新居さんとご一緒させていただきます」
今私は戦闘服に身を包んで、四條さんと一緒に車に乗って移動している。彼女は大阪支部から引き続いて戦闘服……どうやら彼女の通っていた学校の制服をデザインしたものを着ていて、正直めちゃくちゃ可愛いなと思っている。
この辺り彼女もちゃんと女の子してるな、とは思ってしまうな……やはりカワイイは正義なのだし、私と彼女の価値観が少しだけ似ている気がしてほんの少しだけ嬉しい気分になる。
「どうしました? ずっと私の服を見ていますが」
「あ、いや可愛い制服だなって……大阪で通ってた学校のですか?」
「はい、でも高校のものではなく中学生時代のものです……新居さんの戦闘服は青葉根のものですよね?」
「あ、わかります? 私青葉根の制服が可愛いって思ってて……」
「……すいません、私は別に制服自体は可愛いと思ってないです……ただ高槻さんがこれにしろってうるさいので」
高槻……ああ、大阪支部の戦闘員か。大阪の戦闘員については、データでしか知らない。四條さんとコンビを組んでいたのは格闘戦術に優れた男性、
四條さんはこの高槻という男性とコンビを組んで、関西方面の
職場内恋愛、というのも結構あるからなあ……映画でもよくあるように、危険をくぐり抜けた二人が恋愛感情に似た気持ちを持ってしまうのは仕方のないことなのだ、とヒナさんが言ってた。私の感想じゃないし、私と先輩は恋人同士ではないけどさ。
「もしかして……高槻さんって四條さんの彼氏なんですか?」
「……違います。私は人間に興味が持てないので。高槻さんは単なるコンビです」
あ、そうなんですね……この会話の間も四條さんは恐ろしく無表情で、とても無機質な反応をしているので、本当に思考が読めないな……。
しかし男性に興味がない、という返答ならともかく
「みんな同じことを聞きますね。でも私は何にも興味を持っていません。KoRJの任務も正直どうでもいいです」
ポツリとつぶやいた四條さんの言葉が、恐ろしく……冷たく人間味を感じさせなかったため私は彼女の顔を思わず見つめてしまう。なんだこの人……本当に人間なのか?
運転をしている青山さんがバックミラーでこちらを見ながら苦笑している……はっきり言えば会話になっていない気もするし、私の空回りにしか見えないからだろうな。
「新居さん、四條さんは少し特殊な環境で育ってますので……腕は折り紙付きですのでご安心を」
「そ、そうなんですか……せっかく仕事を一緒にするのである程度仲良くなりたいと思ってるんですが……」
私の言葉に本当に興味がなさそうな顔で、窓の外へと目を向けている四條さん……なんというか、ツンケンしているというよりは何を考えているのかさっぱりわからないというのが正直な感想でしかない。
そして彼女の武器はトランクに入れていたが、恐ろしく巨大な
江戸川さんが武器の扱いなどを教えたそうで、少し前に異動の話を聞いた江戸川さんからメッセージが飛んできて、何度かやりとりをしたのだけど四條さんは江戸川さんの教え子の中で最も戦闘能力が高い、と褒めていた。
戦闘用サイボーグである江戸川さんにそう言わせるだけの何かがあるのだろうな……とは思うが、とにかく会話にならないのはどうにかしたい。
「……あ、それよりも今回の目標を伝えてなかったですね」
青山さんが後部座席のモニターへと今回の目標となる
石化能力自体はこの魔物に触れなければ発動しない……とはいえ嘴で突かれると大人の男性なら一時間程度で石化してしまうため接近戦はしない方が良い相手だ。
石化を解くには、
石化自体が魔法的な作用、呪いに近いものだとエリーゼさんが説明してくれていたな。それと
「
「この
青山さんがその時の記録映像をモニターへと表示する……大きさは結構でかい、雄鶏のようにも見えるが実際の大きさは三メートル近いので見上げるような格好になるだろう。四條さんが窓の外を眺めながら口を開く……あれ? いつの間にこの人モニター見てたんだろ。
「それで私が呼ばれたと、そういうことですね。任務理解しました」
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