第17話 パンツ!
「出来た! 出来たよ先生!!」
太陽が高く上り、うだるような暑さが僕達を襲うお昼頃。
朝から必死になって魔法の詠唱破棄の訓練に取り組んでいたルナちゃんは、とうとうそれを成し遂げた。
よほど嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらガッツポーズをしている。
やはりルナちゃんの魔力制御は天才的だ。
この子ならすぐに出来るだろうとは思っていたが、本当に午前中の内に会得して見せるとは。
これは今までの教え子の中で二番目の驚異的な早さである。
「おめでと~、ルナちゃん~!」
「ありがとうヒナ! あなたと先生のおかげだよ!!」
相棒であるヒナも、ルナちゃんを祝福する。
「よくやったね、ルナ。お疲れ様」
「うん、先生もありがとう!」
僕はルナちゃんの頭を撫でながらニッコリと微笑む。
「これでルナも一人前の魔法使いの仲間入りだ」
「まさか詠唱破棄をあたしが出来るようになるとは思わなかったよ」
「詠唱破棄が使えるようになれば、魔法の使い道は格段に広がる。きっとルナもこれからそれを実感するだろう」
「そうなんだ! たとえば?」
戦闘でも日常生活においても、魔法の利便性は大幅に向上する。
詠唱を必要としないから、魔法を発動する前にどんな魔法を放つのか相手に悟られなくなるし、魔法を発動する際の隙も皆無。
ハッキリ言って詠唱破棄を一度身に着けてしまうと、詠唱をするのが億劫になって仕方ない。
よく過去の自分はいちいち声をあげて魔法を使っていたなと驚くくらいだ。
だが詠唱破棄において、最大級のメリットと言えばこれかな。
「学校でこっそり突風を起こして、女の子のスカートをめくるとか」
「いきなり酷い使い道だよ! あたしそんな事しないからね!?」
「詠唱破棄なんて学生はほとんど出来ない。だから怪しまれずに済むんだよ? やらなきゃ勿体ない」
「そんなリスクを冒してまで、女の子のパンツは見たくないよ!」
「他にもムカつく貴族に雷魔法を食らわせるとか……」
「あたしがそんな危険人物に見えるの!?」
魔法の可能性は無限大。
詠唱破棄が出来るようになれば、もっと世界は広がる。
「ちなみにご主人様は、皇女のスカートを風魔法でめくって仲良くなったんだよ?」
「よくまだ生きてるね、先生……」
ルナちゃんが呆れたような目でこちらを見てくる。
「いやわざとじゃないから……」
「わざとじゃなくても普通死刑だよ!?」
あれは事故みたいなものだ。
僕はあの時を思い返す。
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当時チキンだった僕は、なかなか女子生徒のスカートを捲ることが出来ずに苦しんでいた。
当然あの時の僕も詠唱破棄は可能だったし、フーコとも既に契約していたので風魔法でのスカート捲りには自信があった。
恐らくスカート捲りにかけては、帝国一……いや大陸一であったと自負している。
にもかかわらず、なかなか行動を起こせない。
女子生徒のスカートの中に対し、僕ははち切れんばかりの好奇心を抱いていたが、それと同時に少し恐ろしさも感じていたのだ。
きっと女の子のパンツとはそれはそれは素晴らしい物なのだろう。見れば一生忘れられない大切な思い出になるに違いない。
……でも見たらそこで終わりなんじゃないか?
僕はパンツに対し、夢と希望とほんの僅かな期待を抱いていた。
パンツには男の僕には決して手の届かないナニカが詰まっている、そう信じてきっていたのだ。
しかしそれは、僕にとってパンツがまだ未知なる物であるからでは?
未知から既知へ。憧れの物から身近な物へ。
そうなってしまったら、僕はもうパンツを見る事にこれまでのような熱い情熱を注ぎ込むことが出来ないかも知れない。
これまでのパンツを見るための努力が、全て自身によって否定される。
それが、酷く恐ろしかった。
だがいざという時のために、練習くらいはしておかなければいけない。
という事で、僕は放課後、学校の訓練場で風魔法を使ってスカートを捲る練習を日夜続けていたのだ。
そこに突然現れたのが第二皇女殿下である。
皇女殿下は毎日必死に魔法の訓練を行う僕に興味を持っていたらしい。それで、僕に話し掛けようと近付いた。
でも僕は訓練に集中し過ぎていて、皇女殿下が接近に気が付けなかった。
結果。偶然にも僕の風魔法は皇女殿下が着用していた制服のスカートに直撃。
捲れ上がるスカート。驚きの声をあげる皇女殿下。
そして、露わになる純白のロイヤルパンツ。
その時が、僕のファーストパンツだった。
あの光景は今でも鮮明に覚えている。
一般の女子生徒よりも丈の長いスカートを着用していた皇女殿下は、まさかスカートが捲れることは無いだろうと油断していたのだ。
下にはスパッツも、タイツも履いていない。そこにあるのはソックス、パンツ、そしてガーターベルト。
無駄な物など何一つない完璧な布陣であった。
やはり皇族ともなると、見えない所にもかなり気を遣っているのか。
デザインが凝らされた白のガーターベルトは高貴な皇女の清廉さをアピールしているよう。
ガーターベルトとパンツの間にある、言わば絶対領域とでも言うべき肉付きの良い白い太もも。
全体的にスレンダーな皇女殿下からは想像できないほどむっちりと脂肪が付いたそれは、とても肌触りが良さそう。さらにその少ない露出がより太ももの存在感を強く引き立てている。
極め付けは本丸であるパンツ!
これまた華美な装飾が施されていて、一体パンツ職人がどれだけの手間暇をかけたか分からない。
シルクで作られたそれは、見ているだけで指をそこになぞらせたくなる衝動に駆られる魔性の塊。
おへその下の辺りにあるポツンと取り残されたようにある深紅のリボンは、皇女殿下がただ清廉なだけでなく燃えるような情熱を心に抱いている事の現れか。
僕は期せず訪れた、ファーストキスならぬファーストパンツの機会をそれはもう必死になって脳裏に焼き付けた。
スカートが捲れてから、再びスカートが舞い落ちるまで。
その時間、実に2.4秒。
僕はあの時ほど密度の濃い2.4秒を過ごしたことはない。
瞬きする間も惜しんで皇女殿下のパンツをガン見したあれは、まさしくただの事故であった。
だが今となってはそれも最高の思い出だ。
あれがあったからこそ、僕はまた再び美少女のパンツを見ようと、魔法の上達に心血を注ぎ込む事が出来たのである。
パンツを知ったら、パンツへの情熱が薄れる?
はっ! そんな訳が無い。
パンツを知ったら、よりパンツへ気持ちが傾くに決まっているだろう!
かつての僕の心配は杞憂だったのだ。
やはり下手に悩むよりも、まずはパンツを見てから考えるべきであった。
それを教えてくれた皇女殿下のパンツには感謝しかない。
今の僕を作り上げたのは間違いなく皇女殿下……のパンツである。
あのパンツが無かったら僕はここまで魔法の腕が上達しなかったかもしれないし、あのパンツが無かったらこうして家庭教師になって教え子のパンツを望む事も無かったかもしれない。
こうしてルナちゃんと巡り会えたのも、きっとあのパンツのおかげなのだ。
運命論なんてものは信じちゃいない。だけど、パンツ論なら信じられる。
だから僕はよく心の内で言う。
皇女殿下のパンツに、乾杯。
「あ、あれ? ルナとヒナはどこ行ったの?」
そうして僕のルーツとも言える、皇女殿下のパンツについて思いを馳せていたら、いつの間にか二人がどこかへ消えてしまっていた。
ここにいるのは僕とフーコのみ。
フーコは呆れたようにため息を吐き、そして二人の所在を教えてくれる。
「二人ならご主人様が妄想に浸っている間に、お昼ご飯を食べてサッサと山を降りたよ。『あたしの前で他の女の事を考える先生なんて知らない!』だって」
……………………。
冷汗がたらり。
「置いて行かないでぇぇええ!!」
僕の悲痛な叫びは、悲しく山の中をこだました。
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