5


 関崎は何度か私の部屋を訪れた。私が生きているか、指から血を流していないか、確認しに来ているのだろう。私はすでに慣れたもので、その鬱陶しさに口を出さなかった。

 夕飯時になると、関崎が食事を運んで来た。並べ終えるなりまたしても、数歩下がって所在なく立ち尽くす。

「君も座りなさい」

 私はガラにもなく、彼を誘った。またしても彼の腹の虫が鳴いていたからだ。きっと、初日の職務で、食事を取る時間をまかなえなかったのだろう。

「いや……しかし……」

「良いから。腹を減らしているんだろう」

 彼は途端に赤面した。耳まで真っ赤にし、忙しなく視線を動かしている。

「私は生憎、耳が良いんだ。ずっと鳴かれていられても迷惑だ」

「でしたら私は外に――」

「私を見張るのが君の仕事なのだろう。職務を放棄するつもりか?」

 彼は口を噤んだ。心底困惑しているようではあったが、私が再度促すと今度は素直に従った。

 私は自分の皿からビフテキを分けてやった。家族や執事が見たら、品がないと罵倒されていただろう。

 でも、ここには私と彼の二人だけだ。それに今から用意させるよりも、自分のを取り分けてやった方が効率的である。

 彼は肩を強ばらせ酷く恐縮している様子であった。一方で私の方も、自分のしていることに対して心中穏やかではなかった。どこか居たたまれない気持ちもあったのだ。

 私も彼も口は聞かなかった。黙ったまま食事をし、いつもより早い食事を終えると、彼がそれを片付けた。

 少しだけ休んでから、私は風呂へと向かった。部屋のドア一つ隔てた所にユニットバスがあり、わざわざ廊下に出る必要もない。

 前日にピアノの真似ごとをしたせいで、指の至る所に生々しい傷跡が散見している。

 湯が触れないように、私は手袋をして身体や頭を洗った。それでも力を入れる度に痛みが走り、自然と涙が頬を伝った。

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