第16話 グニルのお説教
オアシスと村とを結ぶ道では、盗賊団がキャラバンの護衛隊によって完全に制圧されていた。
村人の姿をした男達は皆剣を取り上げられ、うつ伏せに地面へ横たわらせられている。その周囲にはキャラバンの護衛隊の屈強な男達が立ち、不審な動きをする者がいないか目を光らせる。
「これからどうしようっての?」
大勢のうつ伏せの男達と、その周りに立った護衛隊の男達を見比べながら、シェラハがグニルの側へやって来た。
盗賊約30人を自分たち10人では、取り押さえたまま移動する事が出来ない……と云う事を言おうとしたのだが、果たしてグニルは不敵な笑みをシェラハに向けたのだった。
「取り敢えずは、長老様の言うことを守らなかったお前達への説教だ!」
「え!?なんで俺まで!?」
盗賊達を監視する護衛隊の男達に加わっていたイリジスが、グニルの言葉に頓狂な声をあげる。しかしグニルはそんなイリジスを横目でちらりと見遣ってふふんと鼻を鳴らす。
「じゃあ聞くが。その腰にちゃ~~んとおさまってるそいつは何だ?俺の記憶が確かなら、お前がキャラバンを離れる前に置いて来たモンと同じ種類のモノなんじゃねぇのか?」
そう。イリジスは先程の剣戟の最中に奪った、盗賊の大剣をしっかり腰に差していたのである。それをグニルにこれ見よがしに、勝ち誇った笑みまで浮かべて言われてしまっては返す言葉が無い。
「あ・あたしはミアーナの様子を見てくる!心配だからっ」
さっさと踵を返し、逃亡を図ろうとしたシェラハだったが。
「今は1人でも惜しい状況だろ!お前でも、こんな時はちったぁ頼りにしてんだ!じっとしてろ!!馬鹿ムスメ」
自分で指摘したはずの人数不足をグニルに言われてしまっては、さっさと逃げる訳にもいかない。うぐぅ……と喉を鳴らしてシェラハは立ち止まった。
……が。グニルの独壇場が始まるかと思われたその時、すぐに救世主は現れた。気付いたシェラハは、わざと大声で相手を呼ぶ。
「長老様!!」
その言葉に一瞬グニルの注意が逸れるが、シェラハの見遣った先を確認したグニルは更に苦々しい表情で愛娘へ視線を戻す。道のずっと遠くからやって来る、キャラバンの色とりどりの群集。その姿はまだまだ小さく、シェラハの声が届くとも思われないところにあったからだ。
「誤魔化そうったってそうはいかんぞ!さっさと言うから耳の穴かっぽじってよぉぉっ……く聞いとけ!いいか、お前はいつもいつもミアーナ様に対抗しようとして無茶ばかりしているが、その度に肝を冷やされるこっちの身になって考えた事があるか!?俺だけじゃないぞ!今度の事だってお前が動くからキャラバン全体がお前の行動を助けるのに動き回んなきゃならなくなってんだぞ!!最初っから俺たちに任せときゃあ、こんな風にさっさとカタがついたし、俺だってこんな心配させられるこたぁなかったしっ!!」
握った拳を震わせながら熱弁を振るうグニルの勢いは、まだまだ止まらないかの様に思われる。シェラハは俯いたまま小さく溜息をついて嵐の過ぎ去るのを待っていたのだが、グニルの怒声はなかなか鳴り止まない。
「要するに、あんたに心配かけるなって事なのね」
そしてようやく辿り着いた救世主達の第一声は、からかいを含んだ口調の妙齢の女性の声だった。
「うぐ……そんなんじゃねぇ!」
頭のてっぺんまでを真っ赤に染めたグニルが、けれどわざとらしくしかめっ面をして声の主、アンズを振り返る。長老とキャラバンの大半の者はまだ遠くに見えていたが、何人かの腕の利く者が先に駆けて来た様だった。
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