第478話 ルフラの成長


 それからルフラはイルク村と鬼人族の村を行き来しながら、色々なことを皆から学ぶようになった。


 ルフラを構いたがる大人達だけでなく、セナイやアイハンを始めとした子供達や、犬人族やゴブリン達など様々な種族からも学び始め……学ぶことが面白いのか、ドラゴン狩りとは全く関係ないことも学ぶようになっていった。


 いつの間にか学び舎にも通うようになり、ダレル夫人から王国式の礼儀作法を学んだりもしているようで……そのやる気の凄さはかなりのもののようだ。


 色々なことを学ぶうちにその面白さに気付き、更に学ぶうちに学んだことが色々なことに活用出来ると気付き始めたようで……その意欲はかなりのものだった。


 そんなルフラの存在は村の皆にも良い影響を与えていて、教えたがりの大人達の機嫌が良くなるだけでなく、ルフラに負けてはいられないと子供達の学習意欲も増していて……なんとも素敵な好循環が出来上がっていた。


 もちろんただ学ぶだけでなく、私の鍛錬にも付き合っていて……段々と倒れるまでの時間が伸びていっている辺り、ルフラの成長の早さはかなりのものと言えるだろう。


 若さのおかげか、本人の素質か、それともその両方か……そうやってルフラが成長していることをアルナーはとても喜んでいて、その喜びはルフラに出される食事に反映されていた。


「……ね、姉さん、量が多いよ? それと肉ばかりじゃない?」


 ある日の昼食、目の前に積み上げられた肉を見てルフラがそんな声を上げる。


「ドラゴンを狩ったり遠出をしたり、疲れた日のディアスはそれくらいぺろりと平らげるぞ。

 ルフラはこれからもっと成長するんだから、肉とミルクとチーズで腹を満たすようにしろ」


 するとアルナーがそう弾んだ声を返し、積み上げられた肉に焚き火で溶かしたチーズをかけていく。


「……アルナー、子供の頃の私は肉以外も色々食べていたぞ? むしろ肉を食べられる機会の方が少なかったくらいで……。

 ルフラにも色々食べさせてやった方が良いのではないか?」


 あまりの肉の量に私がそんな助け舟を出すとアルナーは、私が言うのならと納得して……野菜や薬草がたっぷり入ったスープを大きな器に盛って、肉の隣にどんと置く。


 ……どうやら肉の量を減らす気はないらしいな。


 うぅむ……助け舟がよりルフラを苦しめる結果になってしまったようだ。


 だけどもルフラはこれもアルナーの好意だからと頑張ってそれらを平らげ……そして膨れた腹を抱えて学び舎へと歩いていった。


 私の鍛錬に付き合い、セナイ達の畑仕事を手伝い、アルナーの愛の詰まった料理を押し込み、学び舎で学び……それが終わっても暗くなるまで村のあちこちを駆け回っている。


 いくら将来の家長と言っても中々ここまでは出来ないというか、ドラゴンを狩りたいとか村を守りたいとか、そういったこと以上の目標がなければ出来ないようなことを毎日こなしていて……相応の覚悟があるのだろうなぁ。


 ……どんな覚悟がそうさせているのかは気になるが、そういったことを無理に聞き出すのも無粋だろうし、ただ見守っているべきなのだろう。


 と、そんなことを考えながら今日も食器を片付けるかと立ち上がって食器を集めていると、同じく片付けにやってきたアルナーが声をかけてくる。


「……ルフラの甘え癖はまだ治っていないようだな」


 それは愚痴のように吐き出された一言で、その内容があまりにも引っかかった私は驚きなら言葉を返す。


「あ、甘え癖? あれで甘えているのか?」


「甘えているだろう? 暇さえ見つけては遊びに来ては私の言葉に従っているつもりなのか、頑張っている姿を見せつけてきて……。

 色々な道を見つけろと言われたからその通りに色々なことに手を出して、褒めてくれと視線を送ってきて、多めの肉とスープを出してやれば褒められたと喜んで食べ上げて……幼い頃から全く成長していないな」


 あ、アルナーの目で見ると、そういう風に見えてしまうのか? 家族だから分かることがあるのか?


 あれだけ頑張ってあれだけ疲れて、辛い思いをして……甘えているようには全く見えないのだけど、アルナーからするとそうではないらしい。


「……私には甘えているようには見えないが……甘えているとして、どうするんだ? 私から何か言っておこうか?」


 と、私が返すとアルナーは、食器をカゴに入れながら言葉を返してくる。


「いや、ルフラはまだ成人していないからな、たまに甘えるくらいは許してやるべきだろう。

 成人したら容赦はしないが……その日までは子供でいさせてやろう」


 ……どうやら本当にただの愚痴だったようだ。


 アルナーも甘えられて嬉しいとは思っているはずで、その証拠があの大量の肉なのだろう。


 ちゃんと味をつけて食べやすい大きさに切り分けて、飽きないようチーズまでかけてやって……甘やかしていると分かっていながらも、ついついやってしまう。


 なんだかんだと言いながらゾルグに対しても世話を焼いてやっていたし、それがアルナーらしさでもあって……もしかしたらこの愚痴はそんな自分に対するものでもあったのかもしれないなぁ。




 それからもルフラはイルク村に通い続け……そうして着実に成長を見せていった。


 甘え半分のことだったのかもしれないが、その努力はしっかりと形になり、まず背が伸び始めて体が大きくなって、そして礼儀作法を覚え始めたことで所作が綺麗になり、喋り方というか言葉選びも中々達者なものとなっていった。


 私の鍛錬にもかなりついてこられるようにもなったし、模擬戦を出来るようにもなって……もう少し頑張ったらジョー達に追いつけるかもしれない、というくらいにはなってきた。


 ……まー、それでもドラゴン……フレイムドラゴンを相手にするのは厳しいと思うが、この年齢にしてはよくやれている方だろう。


 更にはゴルディア達から商売のあれこれ、騙されないための知識や交渉方法も学び始めたようで……このまましっかり学んだルフラが成人して家長になったなら、アルナーの実家は安泰だろうなぁ。


 そして成長すると同時に鬼人族の村ですべきこと、やれるべきことが見えてきたのだろう、段々イルク村に来なくなり……大人達はそれを寂しがりながらも、ルフラの成長を喜び……そうしていつもの日常へと戻っていった。


 ……はずだった。


 ある日の朝、いつものように鍛錬をしていると、深刻な顔をしたマヤ婆さんが姿を見せて……私はその顔を受けて何を言いたいのかを大体察した。


 また占いで何かがあったのだろう、よく当たるマヤ婆さんの占いで今すぐ動かなければならない何かを見たのだろう。


「何をしたら良いんだ?」


 と、何かを聞く前に私が尋ねるとマヤ婆さんは表情を和らげ、ホッとしたような顔になってから、ゆっくりと口を開くのだった。



――――


お読みいただきありがとうございました。


次回は恐らく他キャラ視点になると思います。

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