第148話 冬服


 エリーが作ってくれた冬服は、いざ着てみると思っていた以上に動きやすく、それでいて今くらいの気温だと暑いくらいに暖かい、驚く程に出来の良いものだった。


 メーアの毛をうまい具合に使いこなすことで、暖かさを逃すことなく服の内側に溜め込む造りになっているそうで……そこに王国で培ったエリーの技術と、鬼人族独特の柄が合わさって、他では見ることの出来ない特別な仕上がりとなっている。


 更には着る人間のことを考えての工夫もなされていて……狩りなどで汚れることになるだろう私の冬服には、汚れを防ぐ為の獣革を貼り付けられていて、洗う際のことを考えて各部位を着脱出来るようにし……結果として動きやすくて汚れにくく、それでいて洗いやすいという好いとこ取りをしたような造りになったようだ。


 アルナーの冬服は、エリーの可愛い服を着させてやりたいという想いと、アルナーの家事などの邪魔にならない造りにして欲しいとの願いが合わさって、王国のスカートドレスに似たような造りとなっている。


 腕や足の部分を薄手にすることで動きやすさを確保しつつ、メーア布をふんだんに使うことで暖かさを確保し、手の部分は水仕事の際に簡単に着脱出来るようにとの工夫がされていて、エリー曰く一番の自信作なんだそうだ。


 セナイとアイハンの冬服は、幼い身体が寒さに負けることのないようにと何よりも暖かさを優先したものとなっていて……そこにエリーなりの可愛さを付け足したものとなっている。


 頭をすっぽりと覆う帽子の上にメーアの尻尾を思わせるポンポンを乗せて、手袋の手の甲の部分や、ブーツの足の甲の部分にも同様のものを乗せて……量産しやすいようにと全く同じ造りにしながらも、柄や色を少しだけ変えることで個性を出している。




「よしよし、さすが私! 良い仕上がりになったわねぇ。

 試着してみて何か違和感とか、変に感じる部分はないかしら?」


 それらの冬服を試着し、広場に並んで立った私、アルナー、セナイ、アイハンに向けてエリーがそう言ってきて……腕を回し、肩を回し、腰を回しての確認を終えた私は「問題ないぞ」と声を返す。

 

 身体のあちこちを動かしての確認をしたアルナーからも「問題無いな」との声が上がり、その場でぴょんぴょんと跳ね飛んだセナイアイハンからも「問題ない!」「ない!」との声が上がる。


 それを受けて満足そうに頷いたエリーが、踵を返して振り返り、広場に集合した皆の方へと向かって、大きな声を上げる。


「じゃぁ、こんな感じで皆の服を作っていくから、この見本をよく見てそれぞれの要望を提出してね!

 毛の短いセンジーちゃん達はその分だけ厚めの生地に、毛が長くてふわっふわのマスティちゃん達はその分だけ薄めの生地にというのは了解しているけど、個々それぞれの好みまでは把握してないから、何かあるなら早めにね!

 それとこの冬服と冬寝間着を冬が来る前になんとか仕上げるために、お手伝いさんの募集もするから、手が空きそうな子はそっちの検討もして頂戴!

 そういう訳でナルバントさん達! 来たばかりで不慣れなところ悪いけども、冬に間に合うよう織り機の量産と、何か、こう……裁縫に役立つような道具もできれば作って頂戴な!」


 その声を合図にして皆が一斉に動き出し、それぞれのやりたいこと、すべきことをし始める。


 私達の下へとやってきて冬服を見て触れてどんなものかと確認をしてみたり、エリーの下へと駆けていって色々な質問を投げかけてみたり、エイマの下へと駆けていってエリーに提出するための要望の代筆を頼み込んだり。


 ナルバント達もまたエリーの要望を受けて何か出来ないか、編み針や縫い針にちょっとした工夫を加えるくらいなら出来るかもとそんなことを話し合い始めて……冬服の完成と、その礎となれたことを喜ぶメーア達の歌が始まったこともあって、広場が一気に賑やかになっていく。


 そんな賑やかさの中で、エリーへの要望提出を済ませた者達は、冬服の件が良い刺激になったのか、これから冬が来るのだという実感と覚悟を新たなものとして、冬備えを頑張るぞとのやる気をいっぱいにしてそれぞれの仕事場へと駆けていく。


 その中でも子宝に恵まれた者達は特にというかなんというか、子供達に暖かい冬を過ごして欲しいという強い想いを改めて抱いたようで……凄まじい勢いでそれぞれの仕事を、冬備えをこなしていく。



 ……そうしてイルク村の冬備えは順調に、特にこれといった問題も無く進んでいった。



 次々と、今まで以上の数の肉が乾燥肉となって積み上がり、薪が山のように積み上がり、ついでに良い燃料になるからと乾燥させた家畜達のフンも積み上がり、森から採ってきたベリーやキノコ、薬草などが干されて長持ちする姿へと変化していって。


 ナルバントたちが作ってくれた、持ちやすいようにと工夫のされた形の、フックのようなものが付いた編み針や、大小様々な大きさの縫い針の活躍もあって冬服も冬寝間着も順調に数を増やしていって。


 ガチョウのヒナが育ち、メーアの六つ子達が育ち、犬人族の赤ん坊達が歩き回るようになって……イルク村は晩秋を、なんとも賑やかに、騒がしく忙しく過ごしていったのだった。


 そうやって私達が忙しい時間を過ごす中、エルダン達もまた頑張ってくれたようで……森をまっすぐに切り拓き、地面を均し、踏み固めての仮設の道がイルク村のすぐそこまでやってきていた。


 大きく重い鉄のローラーを、馬達に牽かせることで踏み固めたその道は、春が来るまでの間はこのままの形で使い、春が来たら石畳を敷いての本格的な道作りが始まるそうだ。


 春が来るまで使うと言っても、ここら辺は冬になると結構な量の雪が降るそうだから、道としての出番はあまり無いかもしれないが……まぁ、それでも森の中の行き来は楽になるだろうし、無駄にはならないだろう。


 ナルバント達が村の南に作ろうとしている工房もまた、レンガやら何やらの都合で春になるまでは理想の形に完成させるのが難しいそうで、そちらも春までは仮設のものを使っていくそうだ。


 大きめのユルトを建てて、中にあれこれと道具を詰め込んで、小さな竈を拵えて……。



 そうして仮設ではあるものの、道が出来て工房が出来て、そうやって立派な……そこらの村に負けない規模の村となったイルク村は、十分な蓄えとしっかりとした備えをした上で、寒く厳しい冬の到来を待ち構えるのだった。

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