第61話 反響
ディアスとディアーネの戦いから一ヶ月と少しの時が過ぎた。
季節が夏となり、強い日差しが降り注ぐ王都は……妙に騒がしい、ざわついた空気に包まれていた。
王の印章を盗み出し、建国王の王墓を荒らし、反乱を企てた大罪人ディアーネ。
ディアーネの企みにいち早く気付いて秘密裏に動き……その結果、見事にディアーネを捕縛し、王の印章と共にその身柄を王へと引き渡した第一王子リチャード。
その騒動の直後に王都へと来訪した西方の雄カスデクス公の嫡男エルダン。
救国の英雄が受け取るはずだった金品を奪い取った者がいる、とのエルダンの告発により始まった近衛騎士団による厳しい捜査の対象となり……その派閥ごと窮地へと立たされることになった第二王子マイザー。
これらの人物を中心にして王都で巻き起こったいくつかの騒動と、騒動をきっかけにして王都中に飛び交ったいくつもの噂のせいで、王都の人々がいつに無くざわついてしまっているからだ。
ディアーネはもうお終いだろう。
王の逆鱗に触れ、廃嫡されることになり……その身柄は神殿内で幽閉されることが決まり、処刑されなかっただけ幸運だったのだと思いながら、残りの余生を静かに過ごすことしか出来ないのだから。
マイザーはお終い……とまでは言わないが、元の勢いを取り戻すことは難しいだろう。
派閥内の何人かが罪人として処罰され、何人かに見放されて……いくらかの資金力だけが残る派閥となってしまったのだから。
リチャードはそうした二人を踏み台にすることで大きく躍進することになった。
今回の件で王からの深い感謝と信頼を得ただけで無く、ディアーネ派閥の残滓と、マイザーを見放した何人かを加えての、王国最大の派閥を持つことになったからだ。
カスデクス公エルダンは王と王都の人々にその存在感を知らしめることになった。
告発の件を含めたいくつかの情報と、いくつかの西方特産品を王へと献上することで、王からの篤い信頼を勝ち得ることに成功し、その結果爵位と領地の継承を認められ、新たな家名を名乗ることを許され……ディアーネが迷惑をかけた詫びとして三年間は税を納めなくとも良いと、王直々の特例措置を受けることになったからだ。
王都ではそうした4人の噂だけで無く……救国の英雄ディアスについての噂も、他の噂に負けない勢いで飛び交っていた。
曰く、一枚の銅貨も、一つのパンも持たされないまま呪われた地へと放り出されたディアスは、その手に持つ聖なる斧の力でその地にかけられた呪いに打ち克つことに成功した。
曰く、そのディアスの聖なる力は悪しきドラゴンを討ち果たす程のものであり、ディアスはアースドラゴンを単独で討ち果たし、その時に手に入れた魔石を王都に向かうというエルダンの手に託し、王へと献上した。
曰く、その手で井戸を掘り、畑を拓き、獣を狩り……風変わりな羊を放牧しながら生活するディアスの下には、ディアスを慕う百を越える人々が集まり、今や王都にも負けない程の華美な街が作られつつある。
曰く、そんなディアスの傍らには絶世の美女が居り、彼女は妻としてディアスの日々を献身的に支えている。
曰く、そんなディアスの成功に嫉妬し、ディアスの持つ何もかもを奪おうとやって来たディアーネ率いる千を越える大軍勢を、ディアスはたったの2人だけで撃退することに成功した。
曰く、その戦いの際にディアスは一つの怪我を負うこと無く、一人の死者を出すことも無く勝利し……同じ王国民なのだからと、ディアーネを含めた軍勢の全員を寛大にも許し、無償で解放した。
曰く、数えきれない程のディアスの功績に応えるべく王は、孤児出身のディアスに公爵位と新たな家名を与えることを決めて、エルダンと同様の免税措置の他、様々な品々まで下賜することを決めた。
などなど……。
一体誰がこんなホラ話を語り始めたのか、その内容はあまりにも荒唐無稽なものばかりで、噂が流れ始めた当初、王都の人々は一種の笑い話の類としてその噂達を楽しんでいたのだが……ある日に王都の人々と語らっていた若き公爵エルダンが、それらの噂のほとんどが事実に近い内容であると認めたことにより、数々の噂達は王都の外へと飛び出して、王国中の隅々にまで広がっていくことになる。
そうしてそれらの噂達は、王国内の全ての人々の耳へと届くことになり……様々な反響を呼び起こすことになるのだった。
――――王都北部のとある鉱山町の酒場
「ちょっと、ちょっと!
聞いた? 父さんのあの噂!」
「ああ、皆から何度も何度も、もう嫌になるって程聞かされたよ。
どれもこれもデタラメな内容過ぎて、何言ってるんだかって感じだったけど……ただ、噂の中に一つだけヤバイことになりそうなのが混じってたよな。
ほら、あれだよ、あれ。
兄貴が美女と結婚したとかなんとか」
「あぁー。
あの父さんがまさか結婚するとは驚いちゃったよねー」
「いや、そうじゃねぇって。
兄貴が結婚したとなったら、絶対騒ぐ奴が出てくるだろ、ほら、自称兄貴の婚約者の……」
「あ、あぁー……。
……でもあれって、確かあの子が5歳くらいだった頃の話だし、流石にもう忘れちゃってるんじゃないかな?」
「……いや、あいつのことだから、絶対に忘れてないと思うぞ」
「そうなるとー……あの子絶対に父さんの所に行って……何か、やらかしちゃうよね?」
「……やらかすだろうなぁ」
「あぁー……じゃぁ、私達も父さんの所に行く?
あの子を止める為に」
「兄貴の為にも、兄貴の奥さんの為にもそうしたほうが良いんだろうな。
……うん、暇を見て兄貴の所には顔を見せに行くつもりだったし……ちょうど良い機会だと思って行くことにしよう。
そうと決まれば早速支度をしないとな。馬車と食料は俺が手配しておくよ」
「……私は荷造りの方、進めておくね」
――――????
「だからー……この店は今日でお終いなの! 店じまいするの!
ただでさえ出遅れてしまったっていうのに、これ以上こんな所でモタモタしている訳にはいかないのよ!」
「い、いやいやいやいや、落ち着いてくれよ。
折角ここまで店を大きく出来たっていうのに、噂を真に受けて店じまいするとか絶対に間違ってるって。
な? な? だから落ち着いて考え直してくれよ……」
「落ち着ける訳ないでしょー!
あの人と結婚するのは私だって、二十年以上前から決まっていたのに!
何処の誰だか知らない女に横取りされちゃったのよ!!」
「……いや、それってあれだろ?
幼子がお父さんと結婚するーって言っちゃうような、あれだろ?」
「うるっさいわね! 私のこの想いはそんな子供の遊びとは全然、根本のところから違うのよーー!!
もう良い! 兎に角私はあの人のとこに行くから、お店はアンタの好きにしてちょうだい!!」
――――????
「―――ってことがあったらしいのよ、凄いお話よねぇ」
「……ぶっは。
あの馬鹿野郎……人の忠告を無視して、何処に行ったかと思えば、そんなことになってたのかよ。
相変わらずおんもしれぇ奴だなぁ。
しかも領主になってるとはなぁ、馬鹿が馬鹿なりに一直線に馬鹿して、運良く出世したら領主になりましたってかぁ?
……辺境とはいえ領主ともなれば良い女と良い酒が集まってくるんだろうなぁ……。
あー……なんだか急にあの馬鹿面を拝みたくなってきたな」
「えー? 行っちゃうのぉ?
私を置いて~~?」
「あ~あ~、お前はオレ以外にも客がたっくさんいるんだから、別に困りゃしねぇだろ?
……まぁ、今日の所は十分に楽しんでいくからそれで勘弁してくれや」
――――???? 神殿
「……あんの親不孝モンめが。
何処に隠れているのかと思えば、西の最果てなんぞに飛ばされておったのか……!
全く――から帰って来てみれば――――達は死んじまっているわ、家は無くなっているわで……儂がどれだけ心配したと思っているんだあの馬鹿は……!
こうなればあの馬鹿面を一発殴ってやらんことには死んでも死にきれんわ……!
……おい、そこのお前! 儂は野暮用で遠出するから、後のことは任せたとアイツに言っておけ!!」
――――????
「くそったれ!
俺達がグズグズしていたせいでマイザー様まで……!
……もう良い。もうお前らみたいな遠回しで面倒なやり方には付き合ってられねぇ。
俺はもっとシンプルで分かりやすい手段を取らせて貰うぞ……!!」
――――????
「メァーメァー」
「メァ、メァァ?」
「メァーメァメァ」
「メァ~~」
「メァメァ!」
「……メァー」
「メァ、メァーメァー!」
『メァー!』
「……おい! あの羊モドキ共がいやがらねぇぞ!?
……くそっ、あいつら柵を壊して逃げ出しやがった!!」
「な……!?
おいおいおいおい、どうするんだよ!?
あいつらの肉は今日出荷するって取引先に言ってあるんだぞ!」
「……馬ぁ連れてこい!
なんとしてでも今日中にとっ捕まえるぞ!!」
そうしてそれらの反響は、西へ、草原へ、ディアスの下へと向かって……様々な人や場所に様々な影響を与えながら、広がっていくのだった。
・第三章リザルト
領民【16人】 → 【95人】
内訳 エイマ・ジェリーボア【1】 ティベ・マスティ【23】 オースン・シェップ【30】 バー・センジー【25】
ディアスは家畜【馬】4頭を手に入れた。
ディアスは家畜【山牛】2頭を手に入れた。
ディアスは乗り物【馬車】2台を手に入れた。
ディアスは乗り物【荷車】3台を手に入れた。
イルク村に施設【厩舎】が完成した。
イルク村に施設【畑(野菜)】が完成した。
イルク村に施設【畑(樹木)】が完成した。
イルク村に施設【溜池】が完成した。
ディアス達は大量の戦利品【内訳不明】を手に入れた。
イルク村の食料は飽和状態だ。
イルク村には客人【カニス】が滞在中だ。
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