第39話 長い耳の三人 その2
――――エイマ
「……これで分かった?」
「……わかった?」
セナイちゃんとアイハンちゃん達による力についての一通りの説明がそんな言葉で終わった所で……ボクはうぅんと唸ってしまいます。
この年頃の子達に順序立ててしっかり説明してみせよ、と言ってもしょうがないのですが……それにしても説明が前後しすぎというか、雑然としているというか……色々と情報量が多いのもあって中々飲み込むことが出来ません。
「……少しだけ待ってくださいね、今説明して貰ったことを頭の中で整理してますから……。
えぇっと、まずは……セナイちゃんとアイハンちゃんは森人族という種族なんですね?」
「うん、森に住む森人族!」
「もりをまもる、もりびとぞく!」
「森に住んで、森を守り、森に成るのが森人族で……。
……それで、えぇっと……この森に『成る』というのが森人族にはとても大事なことなんですね?」
「そうだよ。
森人はね、死にそうになったら種に力を込めるんだよ」
「ちしきとか、ちからをたねに、こめるんだよ」
「その種を私達は大事な場所に植えるんだよ」
「たねが、きになって、それがあつまってもりになるんだよ」
死の間際に親しい人に自分の種を託して森に成り、種を託された人は種を守り育てて森を成す。
種から成長し一本の木となったそれは、手で触れることでその人の想いに浸れる墓石のような存在であり、知識を学ぶ事のできる本のような存在でもあり、自らの血脈を感じられる家系図のような存在でもあるそうで……それらの木々を守るために森人族は森に住んでいるんだそうです。
……うぅん、なんとも凄まじいお話ですね。
そしてセナイちゃん達の持つ、森人族特有の2つの力は、森を育てる為、守る為にある力なんだそうです。
「……1つ目の力が魔力を分け与えることで草木の育成を早める力で、2つ目の力が病や瘴気なんかを遠ざける為の結界を作り出す力、と……ここまでは合ってますか?」
「うん、合ってるよ!偉い偉い!」
「エイマはかしこい、いいこだね!」
恐らくはセナイちゃん達が普段言われているであろう褒め言葉を頂戴して、ボクはありがとう、と笑顔を返します。
するとセナイちゃん達は嬉しそうにピクピクと耳を動かしながら微笑んで……うん、微笑ましい光景ですね。
セナイちゃん達はまだまだ未熟で森を作るなんて大それたことは出来ず、数個の木の実から芽を出したり、小さな結界を張るのが精一杯なんだそうです。
ですが、未熟な力であっても毎日続けていれば驚く程の早さで木が育つそうですし、結界は小さいながらにちゃんと病害を防いでくれるというのですから、本当に凄い力だと思います。
そしてそんな力のことを人間族が知ったのならー……うん、ご両親がセナイちゃん達に力を隠すようにとの約束をさせたのも納得ですね。
「……その力のことは決して人間族には言ってはいけないし、力を使う所を人間族には見られてはいけない、というのがご両親との約束なんですね?」
「うん、そうだよ」
「そうだよー」
「……でもそうだとしたら、何故人間族であるディアスさん達と一緒に暮らしているんですか?
力のことを隠すには人間族の近くに居ないのが一番だと思うのですけど……」
「わたし達も最初はディアスのことが怖くてね、約束も守らないとだから、すぐに逃げようと思ってたんだよ?
でもね、ディアスの抱きしめてくれる手が優しかったの」
「ディアスのこえがやさしかったの。おとうさんとおかあさんみたいだった」
「優しくて……ちょっと臭かった」
「あせくさかったね」
「でも優しかったから……カエルの人達よりずっと、うーんと優しかったから……一緒に暮らしたいなって思ったの」
「ほかのみんなも、やさしかったから、ここがいいなって……。
ディアスはくさかったけど!」
と、そう言ってセナイちゃん達はお互いの目を見合って、元気な笑い声を上げます。
……2人の言動や、言葉の端々からなんとなくは分かってはいたんですけど、改めて実感します。どうやらドラゴン殺しのディアスさんは思っていたよりも怖い人では無いみたいです。
それどころか優しい人みたいで……それがセナイちゃん達の、元気の良い明るさに繋がっているようですね。
「一緒に暮らしてたらね、皆と仲良くなってディアスとも仲良くなって、だから力のことを言っても良いと思うんだけど……」
「ディアスはあくようしないと、おもうんだけど……」
「何があっても力のことは言っちゃいけないし、力を使う所を見られちゃダメってお父さんが……」
「このやくそくだけは、やぶっちゃだめって、おかあさんが……」
「なるほど、そういうことですか。
ご両親との約束を守りたい……でもディアスさんの力にもなりたい。
だから、約束を守ったままでどうにか出来る方法は無いものかと……誰かに相談したかったんですね?」
ボクがそう言うと、セナイちゃん達は真剣な目でボクのことを見つめながらコクリと頷きます。
うん……これはボクも真剣に考えてあげないといけませんね。
「それで……えぇっと、なんでしたっけ?
……地面の力が吸われているから、ディアスさんの畑が上手くいかなくて……上手くいくには森人の力が必要なんでしたっけ?」
「そうだよ。
ここは地面の力が無くて、吸われてる」
「まりょくをわけてあげても、すぐになくなる」
「お父さんとお母さんの種を広場に植えようとしたんだけど……でも駄目だった、地面に力が無かった」
「なんどまりょくをわけてあげても、ぜんぜんだめ」
「吸われない為には結界が必要」
「けっかいがあれば、すわれない」
うぅん……。
よく分からないお話ですね。そもそもその地面の力が吸われているというのは、一体全体どういう現象なのでしょうか?
その正体が分かれば森人の力を使わない方法での対策が取れるかもしれないのですが……。
と、そんなことを考えて……その考えをそのままセナイちゃん達にぶつけてみます。
そうして返ってきた答えは……、
「そんなこと私達にも分かんないよー」
「わかんないー」
「……分かんないけど、きっと悪い子がやってるんじゃないと思う」
「やさしい、いいこだとおもう」
「全部を吸ったら、砂だらけになっちゃうから、手加減してくれてる」
「フランシスたちの、ごはんをのこしてくれてる」
とのことでした。
感覚的に地面の力が吸われているのだと分かるけども、それ以上のことは何も分からないそうです。
セナイちゃん達の言い方はまるで……何者かがその現象を引き起こしているかのようなものでしたが、しかし流石にそれはいくらなんでもあり得ないんじゃないかなとボクは思います。
何らかの自然現象の結果、この辺りの土は作物が育ちにくくなっていて、砂漠にならない程度に枯れている……とそんな所なんではないでしょうか。
森人の結界で防げるという辺りを考慮するとー……特殊な病害か、それか何らかのモンスターの瘴気が悪さをしているのかもしれませんね。
まぁ、どの道その正体がはっきりしない以上は対策の取りようが無いので、結局はディアスさん達にバレずに、どう力を使うかという話になっちゃいますね。
ディアスさんや他の人達に気付かれないように……ですか。
「……セナイちゃん、アイハンちゃん。
ディアスさん達が畑に居ない時を狙って、こっそり力を使うとかじゃ駄目なんですか?」
「ダメだよ、ディアスはずっと畑に居るもん」
「はたけがうまくいくまで、まいにちがんばるんだって」
「畑仕事が終わったら、寝るまで皆一緒だし……」
「わたしたちだけになるなんてできないよ」
「えぇっと……じゃぁー……皆さんが寝静まった夜中のうちにやっちゃうとかは?
それなら他の方に見られる心配をしないで力を使えますよ」
ボクがそう言うと、セナイちゃん達はポカンと口をあけてその手があったかとの顔をします……が、ハッと何かに気付いたようで、その顔を曇らせ始めてしまいます。
「そんなの無理だよー、わたし達も夜は寝てるもん」
「ねてるとちゅうで、おきるなんてむりだよ」
「あー……ならボクが起こしてあげましょうか?
ボクは短い睡眠でも平気なんで夜でも起きられますし……むしろここ最近は寝てばかりだったと言いますか……うん……。
……だから夜に起きるのはへっちゃらです。
こう見えて夜目も効きますから夜道の案内も出来ますし……お家が何処にあるかを教えてくれたら、こっそり部屋に忍び込んで起こしてあげますよ」
その言葉でセナイちゃん達の顔はパァっと明るくなって……問題の解決の糸口が見えたことが嬉しいのか……あるいは急遽決まった夜の冒険が楽しみなのか、お互いの手を取り合ってピョンピョンと跳ねたりしたりしながら、ソワソワワクワクとし始めちゃいます。
「えぇっと……夜になるまでボクはここで隠れてますから、セナイちゃん達にはディアスさんにバレてしまわないように、いつもの生活をしてもらってー……って聞いてますか?
そんな風に興奮しちゃったままでお家に帰ったらディアスさんにバレちゃいますよ?」
決行までの段取りを細かく話し合おうと思ったのですがー……セナイちゃん達が予想以上に興奮しちゃっていて……どうやら話し合いをするのは難しそうですね。
せめてディアスさん達に計画がバレてしまわないように、いつも通りにしていて欲しいのですけど……大丈夫でしょうか?
うぅん……ボク、とっても不安です。
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