第20話 戦場!クロスカントリー練習走行(1)

 草場に座り込みカタカタと音を微かにたてながらシューズを履いている男がいた。瞬である。瞬の前では美樹雄がMTBの調整をしており、奈美がそれを興味深げに見ていた。


「それにしても遅いなあ、恵のやつ」

 

 瞬は足を延ばしたまま座り込み、柔軟体操をしながらぼやいた。


「うん。ひょっとして迷ったかも」

「迷う?どうやったらそことここで迷うんだよ。あっちにしっかり見えてるだろうに」

 

そう言いながら瞬がロッジの方を指さした。

 

奈美はチラリとロッジの方に目をやると、何かに気付いたのか立ち上がりしきりに叫んでいた。


「こっち、こっち。お~い、こっちだよー」

 

 奈美は大きく手を振りながらその人物を招き寄せると、黄色のウェアを身にまとい黒色のヘルメットを片手に持った女の子が駆け寄ってきた。


「おまたせー。どう、この格好?変かなー」

「ううん。恵ちゃんカッコ良いよ」 

「本当?」

 

 恵は奈美の言葉に自信を持ったのか美樹雄の方に目をやると、美樹雄はウンウンと頷いて見せた。


「それにしても着替えるのにやけに時間が掛かったなー。トイレにでも行っていたのか?」

「えっ、なんで分かったの?」

 

 目の前できゃらきゃら浮かれている恵に瞬は茶々を入れたが本人はアッケラカンとしていた。

(こいつには恥じらいというものがないのか?)

 

 呆れた顔で見ている瞬の肩を恵はを「あっ」と思い出しように叩いた。


「そうそう。瞬、あんたって結構有名人だったわよ」

「あっ、そう」

「嬉しくないの?」

「ぜんぜん。おまえの言うことだからどうせろくな事じゃないんだろ」 

「あら、ずいぶんとひねくれた返事ね」

 

 恵は瞬の顔を覗き込みながらニヤと笑うと、瞬はしかめっ面で舌を出して見せた。


「美樹雄、新川さんって知ってる?」

「新川有紀ですか?」

「そうそう。その有紀さん。瞬、あんた知ってる?因みに有紀さんはあんたのこと知ってたわよ」 

 

 恵は瞬の肩をたたきながら言った。

 

 瞬はしばし難しい顔で考え込んでいたが、思い出した顔をした。


「ああ、ひょっとして美樹雄と同じチームにいた女の子か。確かSSSってやつだったかな。ああ、確かにそうだ。なあ、美樹雄」

 

 瞬はそう言いながら美樹雄を見ると、美樹雄はコクンと頷いて見せた。 


「うん。新川さんとは学校は違ったけど同じチームだったよ。小学校のときから一緒だったけど、今はチームを卒業して東第一校の自転車部の所属のはずだけど。そうか、新川さんも来てたんだ」

「ねえ、気になってたんだけど、そのSSSってなに?」 

「サンデー・スポーツ・スクールだよ。もとは子供たちに色々なスポーツを教える日曜日の児童クラブだったんだけど、いつの間にか自転車に乗れるようにする目的で活動するようになったんだ。そのクラブのMTBチームがSSSってわけ。僕も中学までは所属してたよ。といっても、中学生までしか入れないけどね」 

 

 美樹雄は恵を見上げて笑った。

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