第6話 スチャラカ娘とちゃっかり転任先生(6)
それからの二、三日間の恵は何事も上の空という感じであった。恵にとって自転車部に入ること自体そう問題ではなかった。ただ、小さな頃より自分で納得しないと事を始めない性格の恵にとって、英語の成績と引換に自転車部に入るというのは動機としてやや不純のように思えた。
「恵ちゃん、どうしたの?最近元気ないみたいだけど」
そう言って恵の前に現れたのは奈美だった。奈美の心配そうな目に恵は笑顔で応えた。
「恵ちゃん、これ早く写さないと」
「えっ、あー、ありがとう」
相変わらずの優しい声で奈美が差し出したのは本日授業分の英語の和訳であった。
恵はやおらノートを取り出すと白いページに写し始めた。
「あのぉ・・・・・」
自信なさそうな声で恵の横に一人の男子生徒が来た。しかし、恵はそのことには気づかず黙々とノートを写していた。
「恵ちゃん!」
見かねた奈美が恵の肩をつついた。
「えっ、なに・・・・・・」
恵は顔を上げると奈美が必死で指さす方に目をやった。そこには同じクラスの相沢美樹雄がいた。
「えっと・・・・・・相沢・・・・・・?」
「みきお君」
言葉が詰まっている恵に奈美は助け船を出した。
「ああ、そうそう。ごめんね。私、転校してきたばっかりで名前が覚えきれてないもんで」
恵は笑顔で言い訳にならない言い訳を論じていた。
「いいえ、いいんですよ。水城さん」
美樹雄の言葉に恵は立場なしの心境であった。
「私の名前知ってるんですか?」
「ええ、あんな見事な技を見せられてはね」
「えっ、あなたも見てたの?」
「はい。先生と一緒に」
「先生ってひょっとして」
「はい。滝宮先生です」
(ここにもいたのか。先生は誰かと一緒だったなんて一言も言わなかったぞ)
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