第8話 人間に Ⅰ
「……早く人間になりたーい」
これは人間として生まれ、何かの因果に巻き込まれ策謀にはまり今では銀毛の虎と化した俺の今の所の希望だった。ペインタイガーの身体は種族の特徴にそい、尋常じゃない素早さで駆けられるのはいいけど。
俺が奴隷と一緒に囚われていたカタルーシャのイェブ領土から街道沿いに南方へ進むと、すぐに港町についた。どうやらカタルーシャは島国だったみたいで、イングラム王国へのルートは未だ確保出来てない。
人間の身であれば、適当に船代を稼いで、すぐに王国に潜入するのに!
「早く人間になりたぁあああああああい!」
港町より、モンスターの句。
だから、俺は人間の姿を得るために、その能力を持ったモンスターを探していた。
事前に得た情報(盗賊やら悪党を脅しまわって得た情報)によると。
人間の姿を模すことができる、雪女みたいな存在がカタルーシャ地方には語り継がれているらしい。そのモンスターの名前は、スノウマンアイズ。察するに、目が特徴的なモンスターなのかな?
伝説のモンスター、スノウマンアイズを追い求め、港町から北北西の方角に走る。
スノウマンアイズはカタルーシャの北西部にいるみたいだ。
平坦な直線であれば最高時速一二〇キロメートルを叩き出す足をひたすら走らせた。
北西部に向かうにつれ、標高があがっていく。
標高があがれば元々極寒の雪国であるカタルーシャ地方の積雪が目立ち。
人気も、とんと薄れて行った。
立派な毛皮を持っているとは言え、少し身体の冷えを感じた俺は山登りの最中見つけた掘っ立て小屋にお邪魔した。中央にあった薪式の暖房器具に火炎の吐息で火をつけ、そのまま寝入っていると。
「お前、ここらじゃ見ない顔だな」
「……見受けた所、あんたここらへんを狩場にしているマタギか何かか?」
掘っ立て小屋に、大型の
「しかも人間の言葉を喋るのか」
「元は人間だからな」
「そうなのか、なら駆除する必要はないな」
「早く人間になりたーい」
男は毛皮を脱ぎ、隠されていた顔貌を覗かせる。
黒い短髪姿がよく似合い、骨格もしっかりとしている、年の頃は三十ぐらいかな。
「お前名前は?」
「シレト、あんたは?」
「カシードと言う、ここには何をしに来た?」
カシードは毛皮を干したあと、隣に所持していた四本の手斧を立てかける。
「俺はスノウマンアイズに会いに来たんだ、どこにいるか知らないか?」
「スノウマンアイズに会ってどうするつもりだ、アレは滅多に人前に姿を見せないぞ」
カシードのその言葉を聞き、内心喜んだものだ。
何しろ情報のリソースが怪しい連中だったから、嘘を掴まされている可能性もあった。
「俺は人間の姿を取り戻したいと思っている。スノウマンアイズに会いたいのは、連中が人間に化ける能力を持ってると聞いたからだ」
「なるほど」
「カシードはこんな辺境で何を生業にしてるんだ?」
「俺は……見ず知らずの、それもモンスターの格好をしたお前に言っていいものかちょっと悩むな。まぁ平たく言えばここら一帯は俺の縄張りなんだよ。昔からここで暮らして来た」
人間って面白いよな。
妙に欲深い奴もいれば、カシードのように大自然と対峙する厳しい生き方を選ぶ奴もいる。普段から自然の中で生きているからか、薄茶色のカシードの瞳はえらく澄んでいた。気配も弱いし。
「スノウマンアイズを知ってるのなら、生息地に案内してくれないか?」
「……考えておく、明朝に返答するよ」
とか言いつつ、彼は明朝と共に消えたりしないだろうか。
不安と言えば不安だが、なんとかなるだろう。
§ § §
翌朝、目が覚めるとカシードの姿はなくなっていた。
しかし彼は俺に何か思う所があったのか、一枚の手紙を残していた。
『シレトへ、申し訳ないがお前をスノウマンアイズのもとに案内することはできないと判断した。実を言うと、俺はここら一帯の領地を守ることを義務付けられた領主なんだ。スノウマンアイズにも何回か会ったこともある。しかし、それよりもスノウマンアイズを狙う悪党たちと遭遇した回数の方が多い。スノウマンアイズはここら一帯の守り神みたいな存在だと俺は思っている』
――だから、お前を彼女の下に案内することは出来ない。
見掛けとは裏腹に、カシードの字は達筆だった。
しかし、こうなって来ると……俺が取るべき道は一つしかないか。
俺は自力でスノウマンアイズを探しだす。
そしてスノウマンアイズと交友を持って、人間の姿に化ける能力を体得する。
その後は港町から船に乗り、イングラム王国が存在する大陸を目指せばいい。
意思を固めたあと、掘っ立て小屋から外に出ると。
「……雪が、邪魔だよ!!」
昨日の吹雪で掘っ立て小屋の周りは雪で覆いつくされ、陽光をおがむのに苦労したもんだ。
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