140 十年

※ 視点、エドガーに戻ります。年代ジャンプ注意。

―――――


「――あれから、十年の歳月が流れた……」


 と、俺はなんとなくつぶやいた。


 ええっと……十年前って何してたっけ。

 そうだ、あの頃はまだあったサンタマナ王国の王都モノカンヌスで、当時はただの司書だったデヴィッド兄さんとともに、切り裂き魔リッパーを追いかけていた。

 切り裂き魔リッパー事件の真相は複雑を極めた。第二王子までが主犯のひとりとしてからんでいたし、途中からは俺の追っていた悪神側の転生者杵崎亨きざきとおるまでもが現れた。

 準備の差が出て、俺|(たち)はかろうじて杵崎亨を仕留めることができた。

 不意打ちに近い接触だったことと、杵崎亨の持っていたとんでもないスキル――【自己定義】――のことを思えばベストに近い結果だったと思う。

 もちろん、最後の最後で正体を暴くことができた〈八咫烏ヤタガラス〉の元「牧師さま」レティシア・ルダメイアを取り逃がしてしまったことは痛恨だった。地球へと転移してしまった彼女を追う術は俺にはない。地球側で適切な対応が取られていることを祈るばかりだ。


「地球の国家はこっちの国家と比べれば組織力も技術力も段違いだ。警察なり諜報機関なりのネットワークに引っかかって捕まっている……と思いたいが」


 逆にレティシアにはこの世界で身につけたスキルがある。スキルが向こうでも使えるかどうかはわからないが、女神様によれば悪神がなんらかの手立てで使えるようにしている可能性が高いという。仮に使えなかったとしても、レベルアップによって強化された身体はそのままだ。


「あっちの世界にも神が現れたとかで、女神様は向こうの様子がうかがえないらしいしな」


 この世界から逃げ出した魔法神アッティエラという神が、向こうの世界に渡り、神として君臨していることまではわかっている。

 が、それ以上の情報は得られていない。

 アッティエラと女神様は仲が悪い。くわえて、アッティエラは女神様たちの処罰から逃れようとして地球のある世界に渡ったという経緯がある。

 地球の事情はまったくといっていいほどわかっていない。


「女神様によれば、仮にも善神なのだから地球で悪神の使徒を野放しにすることはないはずだってことだが……」


 女神様はアッティエラとやらにはやや甘いところがある。

 アルフェシアさんを封じるという善神にあるまじき行為に及んだというのに、どこかで信じようとしているように見える。


「まぁ、あの人が脅威だってのはわからなくもないが」


 封印から解き放たれて以降、アルフェシアさんはやりたい放題だ。

 とくに、俺から異世界の科学技術の話を聞くと目を輝かせ、その再現に取り組んでいた。

 同時に魔法を使った道具の作成にも力を入れている。


 そのせいでこの十年で竜蛇舌大陸ミドガルズタン南部の文明水準は駆け足の進歩を遂げている。


 旧サンタマナ王国内では、最近ラジオ放送も始まったそうだ。

 テレビ放送も技術的には既に可能なのだが、受信機の量産ができないために、当面はラジオが王国内の通信インフラとして機能していくことになるだろう。

 同様に、電話はまだ試験段階だが、魔力を使った無線通信は実用化され、都市間のやりとりに使われるようになってきたらしい。

 十年前から発行の始まっていた新聞も、試行錯誤を経て、メディアとして徐々に成熟してきているようだ。

 また、活版印刷による書籍の安価・大量な流通が行われ、各地で教科書を使った小規模な学校が作られ始めている。


 交通網の整備も著しい。

 旧サンタマナ王国王都モノカンヌスからは四方に鉄道が敷かれ、その一部は旧ソノラート王国王都イェナゴアの先まで通じている。

 旧サンタマナ王国内でいえば、その両王都を連結する鉄道に直角に交わる形で、ランズラック~コーベット~フォノを結ぶ線が敷かれている。

 転生直後、キュレベル家の屋敷のあるコーベット村からモノカンヌスまでは馬車を使っても二十日以上の時間がかかった。今では鉄道をモノカンヌスからランズラック、ランズラックからコーベットへと乗り継げば、半日足らずで行き着くことができる。実際、モノカンヌスにいるアルフレッド父さんはそうして時々自分の領地に戻っているそうだ。


「父さんも母さんも、デヴィッド兄さん、ベルハルト兄さんもモノカンヌスか……思えば遠くまで来たもんだ」


 とつぶやいたのにはわけがある。


 俺が今どこにいるか、想像がつくだろうか?


 正解は、


「中原帝国北限省、省都ミスランディア」


 ……なのだが、これには経緯の説明が必要だろう。


 10年前、今は亡き杵崎亨が最期の置き土産として残していったエンブリオによってサンタマナ王国王都モノカンヌスには少なからぬ被害が出た。

 杵崎亨は俺が倒したが、悪神モヌゴェヌェスは健在であり、今後も絶えず王国に触手を伸ばしてくることが予想された。

 その足がかりとされてしまっているのが、サンタマナ王国の北の隣国ソノラート王国(当時)だった。

 ソノラートは半世紀以上前の悪神側の転生者によって引き起こされた内戦によって荒廃し、地方豪族同士が小競り合いを繰り返す混乱状態に陥っていた。

 その混乱状態は多くの人間を不幸のどん底に陥れた。

 悪神モヌゴェヌェスは人の怒りや弱みや絶望につけこんで自分の手駒とし、この世界を荒らさせようとする。

 悪神にとって混乱の続くソノラートは格好の狩り場となっていた。

 サンタマナ王国国王ヴィストガルド1世は、ついに王都にまで及んだ悪神の脅威を受けて、その脅威を根本から断つことを決意した。


 ――北伐。

 そう呼ばれる一連の軍事行動によって、サンタマナ王国はソノラート王国を電撃的に征服した。

 もちろん、サンタマナの貴族である俺もその戦いに参加した。

 というより、この戦役の立役者は、自分で言うのもなんだが、俺とアルフェシアさんだったと言っていい。

 なにせ、アルフェシアさんの開発した魔道具を配備することによって、サンタマナ王国軍は自軍にも敵軍にもほとんど損害を出すことなく、この歴史的軍事行動を成功させたのだから。


 俺は次元収納の奥から、当時の型のスペルボックスを取り出した。

 それは、手のひらに乗るくらいの円筒形の筒だ。

 この筒の中には魔力を蓄えるためのMPコンデンサと魔法を発動するための魔法回路が畳み込まれている。

 回路次第でほとんどの魔法が発動可能だが、俺とアルフェシアさんが選んだのは睡眠魔法と麻痺魔法だ。

 このスペルボックスは、いしゆみのようなもので飛ばす他、デヴィッド兄さんと一緒に開発した小型ロケットの弾頭として使うことも可能だ。その場合は上空に向けて発射し、上空でパラシュートを開いて緩降下しつつ魔法を発動する、ということになる。もっと単純に、竜騎士たちにスペルボックスを上空から撒いてもらうという手を使ったこともあった。今なお幽閉中のイーレンス王子が開発した魔法砲とも相性が良い。


 ともあれ、サンタマナ王国軍の歴史的北伐は、進軍速度と被害者の少なさでも歴史的なものとなった。

 王国軍は進軍とともに鉄道を敷設したため、補給の面でも困ることがない。


 その圧倒的技術力を前に、ソノラートの豪族たちは沈黙した。

 サンタマナ王国は、実権を喪失して久しいソノラート王家を豪族と同格とし、豪族によって構成されるソノラート代表会議の一員とした。

 このソノラート代表会議は、南ミドガルド連邦と名を変えた旧サンタマナ王国政府の下に置かれることになる。

 この扱いについては当初は不満が出たものの、アルフェシアさんが自重せずに開発する数々の新技術によるめまいのするような経済発展の前に、抗議の声はかき消されていった。


 それに何より、南ミドガルド連邦に、国王とは別に議会が置かれたことが大きかった。

 ソノラート代表会議はその議会に一定の席を与えられたため、施政への不満は武装蜂起ではなく議会での論戦によって解決を図るようになってきた。


 この、サンタマナ王国とソノラート王国の合併はさまざまな困難を抱えていた。

 が、サンタマナにはデヴィッド・ザフラーン・キュレベルという稀代の名宰相がいる。

 デヴィッド兄さんは国王ヴィストガルド1世をたくみに立てながら連邦の難しい舵取りを行ってきた。

 そうそう、デヴィッド兄さんがイルバラ姫と結婚したのも、連邦ができた頃だったっけ。


 連邦は荒廃したソノラートをものの数年で復興させた。

 なにせ、農業、工業、鉱業、商業、流通業、あらゆる業種で人手が不足していた。

 また、新技術によって豊かな暮らしの可能性に気づいた人々は懸命に働くようになっていた。


 と、ここまでの話は、ここ十年にあったことの、まだ前半でしかない。


 なぜ俺が、旧ソノラート王国のさらに北、大陸を横切る大断崖グランドクリフの上にある中央高原にまで出張ってきているのか。

 そして――なぜ、俺の目の前の執務机にはうず高く書類が積み上げられ、【不易不労】を持ってしても一向に減っていく気配が見えないのか。


「はぁ……」


 俺は回想という名の現実逃避をやめ、書類仕事にとりかかる。

 俺はもう17歳になっていた。

 もちろん、前世での30年を除いて、だ。

 だから、十年前のように机に座ろうとしても身体が小さくて安定が悪いなんてこともない。


 ため息をつきながら書類に目を通していると、


「――坊ちゃま、お茶をお持ちしました」


 そう言ってひとりの大人びたメイドが執務机に紅茶を置いてくれる。

 メイド――いや、ステフだ。


「ああ、ありがとう。……って、いい加減坊ちゃまはよしてくれよ」

「え~、だってぇ、坊ちゃまは坊ちゃまじゃないですかぁ」

「俺も歳を取ったけど、ステフももう三十路みそじだろ。『坊ちゃま』って呼ぶのもそろそろおばさんくさく――」


 ドガッ!


 と凄まじい音を立てて執務机に大剣がめりこんだ。


「……何かおっしゃいましたか、坊ちゃま?」

「い、いや……」


 にっこりと、しかし額に青筋を浮かべて言ってくるステフに口ごもる。


 ステフが剣を背に戻すのと同時に、俺は机に魔法をかける。


「――《リペア》」


 俺の言葉とともに割れた机が動画の巻き戻しのように戻っていく。


「今たやすいことのように行われたことは、実はとんでもない魔法だった」

「なんです、いきなり?」


 おっと、口に出てしまったようだ。

 今たやすいことのように行われたことは、実はとんでもない魔法だった。

 もの限定だが、少しだけ時間を巻き戻すことのできる【時空魔法】。アルフェシアさんとの情報交換によって生まれた、超高難易度魔法なのである。


「冗談はさておき、ステフってあまり歳を取らなくない?」


 俺が言うと、ステフは片手を頬に当て、身をくねらせながら言う。


「口が達者ですねぇ、坊ちゃま。何も出ませんよぉ?」

「いや、本当に」


 実際、ステフの外見は20代前半のように見える。

 ステフには少しだけ獣人の血が入っている。だからこその怪力なのだが、その同じ血が老化をやや遅くしているのかもしれない。

 とはいえ、ハーフエルフのアルフレッド父さんやエルフであるチェスター兄さんに比べれば、多少は歳を取っていると思う。


「うふふっ。なんでしたらおきさきにもらってくれます?」


 そう言って微笑むステフは……端的に言って、魅力的な大人の女性になっていた。


「……いや、そういうのはもう十分だよ」


 俺はげんなりとそう返す。


「いい加減、どちらかを選んでしまえばいいですのに」

「わかっちゃいるけど……どっちも問題ありだろう」

「そうですかぁ? おふたりともかわいいじゃないですかぁ。何が不満なんです?」


 俺はため息をついてから答える。


「――まず、エレミアは俺への依存が強すぎる」

「まぁ、そうですねぇ」

「アスラもそうだ。あいつの場合、小鳥が親鳥をインプリンティングしたみたいな感じなんだよなぁ」

「いんぷりんてぃんぐ?」

「本能に刷り込まれてるんじゃないかってことさ」


 俺の言葉にステフは顎に指を当ててしばし考える。


「わかりますけど、それってそんなにおかしなことですかぁ? 貴族同士の結婚だったら、幼少期から相手が決まってることもあります。身分差があれば、女の子の方は男の子によく仕えられるように上下関係を徹底的に教え込まれることが多いですね。これとアスラちゃんと、どこが違います?」

「……俺はそういうのは嫌いだ」

「エレミアお嬢様もです。たしかに、ちょっと依存心が目立つ気はしますけど、多かれ少なかれ男女関係は相手に依存するところが出てくるものですよ」

「……経験者みたいな言い分だな」

「メイドなんてやってると耳年増にもなりますよぅ。なんなら、坊ちゃまが直に教えてくださってもいいんですよぉ? べつに、奥様にしろなんて言いません。正妻はエレミアお嬢様で、わたしは愛人でもいいです」


 うふっ、とへたに笑うステフから目をそらし、考える。

 ステフの言い分はわからないでもない。

 俺はエレミアやアスラに自立を求めすぎているのかもしれない。この世界の水準でいえば、女性が男性に依存する形の夫婦関係なんて珍しいものではない。むしろ、アルフレッド父さんとジュリア母さんが例外なのだ。デヴィッド兄さんとイルバラ姫ですら、公式の場では夫唱婦随気味に振舞っているくらいだ。夫婦関係のあり方もまた、社会全体の文化の一部。いかに発展が目覚ましいとはいえ、数年前まで封建社会だったこの世界の夫婦に、前世並の男女平等を求めることはできないのだろう。


「坊ちゃまは難しく考えすぎですよぅ。2人が依存気味だったら、坊ちゃまが引っ張っていけばいいじゃないですかぁ」

「俺にそんな甲斐性はないと思うけどな」


 再びため息をつく。

 ふと思いついて言ってみる。


「……いっそステフを選ぶか」

「ふ、ふぇ!? わ、わたしですかっ!?」

「なんだよ、さっきまでアピールしてたくせに」

「そ、それはそうですけどぉ」

「ステフはメイド長として立派にやってる自立した女性だ。気心も知れてる。年上だけどまだ若く見える」


 前世で30歳だったことを考えれば、俺の精神年齢は47歳だということになる。実際には身体が精神に及ぼす影響があるからそんなに単純ではないらしいが、30より若返っているということはないだろう。

 そう考えると、ステフとは年齢的に釣り合いが取れているかもしれない。


「えっ、だっ、う、嘘……えっ?」


 ステフが真っ赤になってうろたえている。

 珍しい光景だ。昔はドジが目立ったが、最近はそつなくなんでもこなす優秀なメイドになっていた。戦闘面でもおそろしく頼りになる。俺には敵わないが、エレミアとは五分に近く、アルフレッド父さんよりはもうステフの方が強いくらいだ。


「正直、ステフが他の男と結婚する……と考えるのは嫌なんだよな」


 独占欲、というのだろうか。俺にもそんなものがあったのかと驚かされた。


「……ま、俺が『ステフと結婚する!』なんて言ったら、ステフがエレミアに殺されそうだ」

「え、縁起でもないこと言わないでくださいよぅ! 実際、お付きのメイドをしてるだけで嫉妬されることもあるんですからぁ」


 ステフが冷や汗を浮かべてそう言った。


「ステフとも長いからなぁ……って、そうそう、そのことを考えてたんだ。いろいろあったなぁと」

「そうですねぇ。坊ちゃまのお付きになって、もう16年以上ですかぁ」

「こんなとこまで着いてくることになるとは思わなかっただろ?」

「まったくですぅ」


 ステフが頷く。


「南ミドガルド連邦が軌道に乗って、はぁ、すごいことになったなぁと思ってたら、今度は中原に行くからついてきてくれって言い出して……あの時はびっくりしましたねぇ」


 ステフの言うように、連邦が安定した頃に、俺は大断崖グランドクリフを超えて中原――中央高原へと足を踏み入れた。

 その時の道連れはエレミア、アスラ、ステフだけ。

 アルフレッド父さんは連邦の重鎮だし、ジュリア母さんはまだ幼いフィリア(ふたりの子で、俺の妹だ)がいたため、父さんと一緒に王都に残ることを選んだ。


 実質、新天地でのゼロからの出発だった。


「でもまぁ、そんなに苦労はしなかった」


 中原には、もともと北限帝国という強力な中央集権国家が存在したが、悪神側の攻勢によって帝国は同名の4つの「帝国」へと分裂していた。

 そのひとつひとつで味方を作り、悪神の使徒と戦った。

 戦った使徒たちの実力は、〈黒狼の牙〉の団長だったゴレスに劣るような相手から、〈八咫烏ヤタガラス〉首領ガゼイン・ミュンツァーを凌ぐのではと思われる相手までいた。が、クラスの力を最大限に引き出して戦う俺たちに敵うはずもなかった。


「ヤムスクロ、アバカーム、サイロ、キルキュフェ。南方の諸都市を押さえ、分断した帝国を再統一していった。最後に残った北の『帝国』も首都ルクソールの陥落で消滅した」


 俺は指折り数えて確認する。


「魔族の住むフロストバイトへ続く陸橋を魔族側から取り戻し、ヒルブローの聖壁以南を平定。ここに新生帝国――中原帝国が成立した」


 今の俺は、その中原帝国に拠点を置く南ミドガルド連邦の特任大使ということになる。

 今俺がいるここ、連邦大使館のある都市ミスランディアは、ヒルブローの聖壁に最も近い街だ。

 ここで俺は、悪神に与しない友好的な魔族との関係を築きながら、悪神の使徒となった魔族や、悪神と集合的無意識でつながった一部の魔族との戦いを指揮している。


 といっても、俺自身は前線に立つ機会はほとんどない。

 杵崎亨を失った後、悪神側は全体的に精彩を欠いていた。ソノラートや中原の病巣を取り除いた今、これ以上の隠し玉があるとは思いにくい。

 善神VS悪神の代理戦争は、善神側の勝利に終わりつつある。

 そう思っても、もう油断とは言われない情勢だろう。


 もともと、今はなくなった北限帝国は、フロストバイトに住む魔族たちと戦うために出来上がった軍事国家だ。そのための中央集権制で、軍隊は連邦よりもはるかによく組織され、兵たちの平均レベルも高かった。百超将軍という、レベル100を超える将軍が複数いたという尚武の国だ。

 百超将軍たちの一部が悪神につけこまれ、内部分裂を起こしたというのが帝国崩壊の真相だった。悪神の使徒となった百超将軍のうち、1人は俺が撃破し、1人は追いつめられて自害した。その他の、生き残った、悪神の使徒でない百超将軍たちは健在なので、北の魔族は基本的に彼らに任せておけばいい。

 俺がやるのは後方支援と、戦乱で荒廃した一部都市の復興支援が中心となる。


 そのせいで――俺は膨大な書類の山と格闘するはめになっているのだ。


「はぁ~」


 状況を整理してみたが、残念ながら目の前の書類は減らないようだった。

 ステフが首を傾げて言う。


「でも、不思議ですね。これまでの坊ちゃまなら、【不易不労】で疲れ知らずに公務もこなされそうなんですけど」

「よくわからないけど、最近はよく気が滅入ることがある。こんなこと、転生して以来なかったんだけどな……それだけ、無味乾燥な仕事をしてるってことだろ」

「うーん……ですかねぇ?」


 ステフはなお不思議そうだった。

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