第22話 建国し始めたよ

 さて、奴隷商の身体を綺麗にピンキーちゃんに食べてもらったあと、私たちは村へと帰還した。


「シエスタっ! ミーナっ!」


 村の少年・ティーガが涙ながらに駆け寄ってくる。1番に心配して探し回っていたから、見つかって安心したんだろう。うん、一件落着ってやつだ。

 

 他の子供たちも集まって来てみんなで2人の無事を喜んだ。そして、

 

「ラナねぇちゃん、その人は誰……?」


 ひとしきりシエスタたちの帰りを喜んだあと、子供たちが私たちの少し後ろで気まずそうにして立っていた赤髪の少女──リノンを見て、首を傾げる。


「私は、その……」


「さっき拾った竜人種ドラゴニュートの女の子だ。名前はリノン。しばらくこの村にいることになるから、みんな仲良くしてあげて」


 言葉を詰まらせたリノンに変わって私が答えた。まあ、さきほどまでは(奴隷紋の効果上しかたなくではあったものの)奴隷商側についていたわけで、2人の誘拐に関わってしまっている。だからきっとこの村の子供たちに対して罪悪感でも感じているのだろう。


「なん、で……」


 か細い声で訊いてくるリノン。なんでって言われたらそりゃあね。


「もう終わったことでしょ。蒸し返す意味もない」


 だいいち子供たちに事の成り行きを説明するのもメンドクサイ。


「それにいまは行く宛も無いんでしょ? まあ村で暮らすのが気まずいっていうなら君専用のツリーハウスを作ってもいいし」


 そんな話をしていると、いつの間にかリノンの周囲には村の子供たちが勢ぞろいして、その姿を見上げている。


「リノンおねえちゃん、竜人種ドラゴニュートなのっ? スゲーっ!」

「どうして髪が赤いの?」

「好きな食べ物あるー?」


 ワイワイと賑やかに、子供たちはリノンを質問攻めだ。私が来たときはこういうの無かったな。まあ、怖がられてたみたいだし。なんにせよ、すぐに馴染みそうなのは良いことだ。


 さて、やることも無いし、畑の様子でも見てこようかなと私が歩き出したとき、


「ま、待ってください! ラナテュール様!」


 リノンが子供たちの囲いから驚異的なジャンプ力で飛び出して、スタッと私の正面へと着地。王への謁見えっけんでもするかのように膝を着いた状態で私を見上げた。


「私を奴隷から解放してくださった上、このような配慮までしていただき、本当に本当にありがとうございます」


「あ、うん……」


「私の方から、なにかお返しできればと思うのですが……」


「いや、別に気にしなくても……」


「しかし、いまの私にはこの身以外に持ち合わせているものなどございません」


 言葉を遮られてしまった。あれか? この子もククイと同じで人の話を聞かないタイプか?


「つきましては、この身をもってラナテュール様に尽くせればと思います! ラナテュール様、どうか私をあなたの従者にしてはいただけないでしょうかっ?」


「従者ね……それはさっきククイにも言われた言葉だな。断るよ。私はもうそろそろこの村から出ていくつもりだし、建国もしたいし」


 そう、この数週間はこの村の手助けのために時間を割いてきたけれど、私には私のやりたいことがある。このジャングルに建国して、ひとり気ままに好きなだけ植物の研究に打ち込むという素晴らしいスローライフを過ごしたいのだ。


「だからリノン、君はここでしばらく落ち着いたら自分の生まれ故郷にでも帰るといい。もう誰かの言うことを聞いたりしなくてもいいんだから」


「いいえ、帰りません。ラナテュール様がこの村を出ていくならば、私もそれについていきます」


「な、なぜ……?」


「……そもそも、私は生まれ故郷がどこかも覚えていないんです。それだけ小さな頃に攫われてしまったので、帰る場所も無く……」


「リノン……」


 実力の皆無なあの奴隷商たちがどうやってリノンに奴隷紋をつけたのか謎だったけど、なるほど、幼く物心のついていない時に全部済ませていたということか。いまさら晴れても意味の無い疑問だけど、納得いった。


 リノンはしかしそれを悲しむでもなく、むしろ固い決意の目を向けてくる。


「どうか、ラナテュール様の側を私の居場所にしてくれませんか。建国なさるというのであれば、私はその国の民となりたいです」


「え、えぇー……」


 私、建国とは言ったけど、国民を増やすつもりは無かったんだけどなぁ……。植物の植物のための植物による統治、とまではいかないにしても植物中心の私にとっての理想国家を作ろうと思っていたのだが。


「どうか、お願いしますラナテュール様……!」


 頭を下げ続けるリノン。うーん、どうしよう。安請け合いはしたくない。けど帰るところが無いって言ってるし……この一連の騒動で結果的にリノンの居場所(奴隷商の元での暮らしをそう言えるのであれば、だが)を奪ったのは私なわけで……。

 

 そうすると、責任の一端はやっぱり私にもあるのか。


「……分かったよ。じゃあ国民ね?」


「ラナテュール様、それはつまり……!」


「うん。リノンは私の国の民。従者とかの話は置いておいて。それでいいでしょ?」


「もちろんです! ありがとうございます! この身を尽くして一生お仕えいたします!」


「いやだから従者じゃないんだから、仕えなくていいって……」


 リノン言動にやれやれと私がため息を吐いていると、


「──ちょ、ちょっと待ってくださいっ! ラナテュールさんっ!」


 私たちの話を後ろで聞いていたらしいククイが駆け寄ってくる。


「私の時も従者はダメって言ってましたけど……国民にならなっていいんですかっ⁉ なら私も……私たちもラナテュールさんの国の人間になりたいですっ!」


「いや、なっていいってわけじゃ……というか、それは君たちの一存で決められることじゃないんじゃない? もともとこの村が属してる国があるでしょ?」


「いいえ、ありませんっ!」


「え」


「私たちの村は王国からの税金の徴収に応じることができずに国を追い出された民族で、それが原因でジャングルの中に村を作って生活していると両親に聞きました」


 そうだったのか。まあワイハータウロスなんてモンスターが居たり奴隷商が訪れたりする物騒なジャングルに、よく住もうと思ったなと思ってはいたけどそんな理由があったとは。

 

「ラナテュールさん、私たちが国民となってはダメでしょうか……?」


「ほ、他の子供たちはどう思ってるの?」


 瞳をうるませるククイから目線を逸らし、子供たちを見る。しかし、


「ラナねぇちゃんどっか行っちゃうのぉ? ヤダァ~!」

「いっしょがいいー!」

「国民になる~!」


 みんな一様にして私にすがりついてきて服が伸ばされる。ヤメレ。


「……はぁ。まあ1人も10人も同じか。いいよ、もうみんな国民で」


「「「ヤッター!」」」


 ──建国に動き始めて数分、早くも民が10名ちょっとできました。

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