第20話 ボコボコにしちゃう
オレンジ色の光が辺り一帯を包み込んだのはほんの一瞬のこと。しかし、それだけで充分すぎる威力がその【ドラゴンブレス】にはあった。
「お……おいっ! リノンッ! お前なにやってやがる!」
ダーズが目の前の、焦土と化したジャングルを指さして叫んだ。
「この大馬鹿がッ! ハーフエルフまで粉々に吹き飛ばしやがってッ! これじゃあなんのために俺たちはここまでやってきたんだコラァッ!」
「ご、ごめんなさい……でも、きっとこうでもしない限り、勝てなかったから……」
「はぁっ? テメェは
再びダーズがリノンへと手を上げようとして、しかし。
「──ちょっと君、いい加減に女の子を殴るのはやめようか」
ニョキリ。地面から生えた木の根っこがダーズ、ケイン、そしてリノンの身体を絡めとり、その身動きを封じた。
「なっ? なんだこれはっ!」
「まあ、見ての通りの木の根なわけだけど」
慌てるダーズへと、私は焼け焦げた地面へと空けていた穴からのそりと這い出て答えてやった。あーあ、服の中に少し土が入っちゃった。
「ククイ、シエスタ、ミーナ。君たちはそこで待ってるんだよ。危ないから」
穴の中へと声をかけ、私は立ち上がる。
「ハーフエルフ、お前……生きてたのか……! そんな穴どうやって用意しやがったっ!」
「土の中にある木々の根を少し枯らしたのさ。地面を形作っているのは土だけじゃない。むしろその骨子を作っているのは植物の根なんだ」
木を始めとする多くの植物の根は土の中で広く長く生長しているため、それを一気に枯らしてやれば、当然、地面の構造はスカスカになってしまう。結果なにが起こるのかといえば地盤沈下──つまり地面の一部が崩れ落ちるわけだ。
私たちがそうしてできた穴の中に入り、マナで植物の根を天井に薄く張り巡らせるように生長させればあら簡単、非常用シェルターの完成というわけ。
「さすがに私たちの身体を見えないように隠してくれているサボくんは逃がせなかったけどね……サボくん……私たちの都合でごめんよ……」
消し炭となってしまっただろうサボくんに短く祈りを捧げる。この大地のマナとなってその命が巡りますように、と。
「さて、まさかそっちの女の子──リノン、だっけ? 君が世にも珍しいとされる
「……」
「ねぇ、訊きたいんだけど、どうしてそんな奴隷商とつるんでるの? 君の意思……じゃないよね、きっと」
「……それは」
リノンは口を開きかけるが、しかしそれ以降の言葉が続かない。その様子を見てダーズがせせら笑う。
「無駄だよ、無駄無駄っ! 懐柔しようって考えだろ? ソイツには
「奴隷紋……なるほどね」
それについても確か以前に読んだことがある。確か主従契約を強制するための呪いの魔術だ。なにせエルフの里にはエルフという種族の特性柄もあり、魔術に関する文献は山ほどあったから、私にも知識だけはそこそこにあった。
「おいっ! リノンっ! 早くその拘束を解いて俺たちを助けやがれっ!」
ダーズが命令をするが、しかしリノンもまた身動きがまったく取れない。間接とかを曲げられないように縛ってるからね、それも当然だ。
「早くしろッ!」
「で、できませっ……あぁ──っ!」
リノンが苦しみ始める。きっと奴隷紋の効果だ。主人の命令に背くと与えられる罰。それがリノンの身体を襲っているに違いない。
「コラ、いじめるなよ」
ムキムキ大豆くん、召喚。
〔マメーッ!〕
「ふぐぅっ⁉」
ムキムキ大豆くん渾身の右ストレートがダーズの顔面に炸裂した。
「じゃあムキムキ大豆くん、その調子でそいつをボコボコにしてやって? しばらくの間、口が利けないようにね」
〔マメっ! ──マーメマメマメマメマメマメーッ‼〕
嵐のようなパンチの連続がダーズの顔面に降り注ぐ。
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