◆本編✨書籍化✨記念短編◆

第87話『愛の巣』

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 ドラグレリアとカフェで遭遇して仕方なく相席した日の夜。


「さてとリエナ、そろそろ寝るか」


「はーい♪」

 可愛く返事したリエナが、俺のベッドにパフんと乗っかった。


 俺とリエナは、最近ではもうすっかり一緒に寝るのが当たり前になっていた。


 両親は薄々――どころか完全に気付いているっぽいが、リエナの方から積極的にアプローチしているのをとがめるのは気が引けるのか、最近は半ば見ない振りをしてくれている。


 なにせ俺が長年、友達の一人すら作れない陰キャだったことを、両親は誰よりもよく知っているのだ。


『まだ高校生なんだからハメは外しちゃだめよ』と、口酸っぱく注意こそされるものの。

 俺に友達をすっ飛ばして可愛い彼女ができたことを、両親は内心では俺以上に喜んでいるようだった。


 もちろん俺もハメを外したりはしない。

 まだ高校生だし、俺を信頼してくれている両親を裏切りたくはないからな。

 せいぜい毎晩抱き合って30分キスし続けるとか、そんな程度のごくごく清き交際だ。



「日が落ちるとすっかり寒くなってきましたよね。おかげでこうやってベッドの中で勇者様と抱き合っていると、身体と心が幸せな温もりでポカポカしてきます♪」


 俺にギューッとくっつきながら嬉しそうに呟くリエナ。


「俺もリエナの温もりが感じられて幸せだよ」

 俺はそれに優しく声色で同意する。


 リエナの顔から血の気が引いて今にも死にそうな姿を思い出すと、抱き合うリエナがよりいっそう愛おしく感じてくるのが最近の俺だ。


 そういう意味では、俺にとって何のメリットもないと思っていたドラグレリアとの死闘も、俺とリエナの絆をさらに深めるという点においてのみ・・だけは、かろうじて意味があったのかもな。


 しばらくリエナと一緒に、ベッドの中でぬくぬくと抱き合っていると、


「楽しそうじゃのう。なるほどこれが愛の巣と言うやつなのじゃな。うむ、ではわらわも混ぜてたもれなのじゃ」


 部屋の中に突然、漆黒の闇で作られた扉のような空間がパカッと開いたかと思うと――その中からドラグレリアがひょっこり現れた。


「は? お前、今どこから現れやがった?」


 困惑する俺のすぐ隣で、


「勇者様、今のは位相次元空間ですよ!? おそらく位相次元空間を異なる2つの場所につないで、ワープしてきたんです!」


 リエナがすぐに状況を分析して、種明かしをしてくれた。

 どうもそういうことのようだった。


「ふむ、さすがリエナ殿は慧眼けいがんよのぅ。さよう、ちょいと例のなんとかという魔王の空間魔術を改良して、使い勝手を良くしたのじゃよ」


「魔王の秘術を改良した上にワープまでできるようになるとか、ほんと何でもありだなお前……」


「くくくっ、有象無象の凡百ドラゴンどもならいざ知らず、皇竜姫おりひめの2つ名を持つ妾は伊達ではないのじゃよ」


 ドラグレリアがそれはもう偉そうに腕を組んで胸を張る。


「どうやったかは分かったよ。で、なんで当然のようにベッドに入ってこようとするんだ?」


 言いつつ、俺は横になった体勢から座った体勢に素早く移行すると、ベッドに侵入しようとするドラグレリアを、強めの前蹴りで蹴り飛ばした。


「それはもちろん愛を知るためなのじゃよ。愛を知るには『愛の巣』に潜り込むのが一番の近道じゃろう?」


 しかしゲシっと蹴り飛ばされてもまったく気にした様子もなく、ベッドへ再侵入しようと試みるドラグレリア。


「断固拒否する!」

 再びゲシっとドラグレリアを蹴り出す俺。


「まぁそう遠慮するでない。一人愛するも二人愛するも、たいした違いはないじゃろうて?」


 しかしかなり強めに容赦なく蹴っとばした――ドラゴン相手に容赦なんてものは必要ない――っていうのに、ドラグレリアは特に気にする様子もなく再侵入を敢行してきた。

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