第78話 ~リエナSIDE~
~リエナSIDE~
勇者様と皇竜姫ドラグレリアの戦いは、序盤は勇者様の優位で進んでいた。
事前に立てていた作戦通り、同じ場所を寸分たがわず狙い続けることで、強固な防御力を持つドラゴニック・スケイルを撃ち抜くことに成功する。
女神アテナイの聖なる光が皇竜姫ドラグレリアに連続して叩き込まれ、身体の中で荒れ狂って大ダメージを与えた。
さすがは勇者様だ。
まさに作戦通り。
私が今やっている「とある術式」の構築なんて、最初からする必要もなかったのだ。
「このまま仕留める! この勝負、俺の勝ちだ!」
そう。
これで勝ったはずだった。
だけど勝負はそれで終わりはしなかった。
むしろここから急激に雲行きが怪しくなり始めたのだ。
「くくっ、
なんと皇竜姫ドラグレリアは、ドラゴン族の中でも極めて稀な突然変異種だったのだ。
その能力は、死に
私も初めて目の当たりにした、神話の時代のエンシェントドラゴンに匹敵するというその力は、恐ろしいほどに強大だった。
「くっ! 女神アテナイよ、俺に邪悪を退けし勇者の力を――『
勇者様が私にも内緒で用意していた(こっそりそんなことをしていたのはちょっと悔しい)奥の手――『
そうこうしているうちに、無理がたたったのか勇者様の力が急激に低下してしまう。
そして気が付いた時には大ピンチに追い込まれてしまっていた。
苦戦する勇者様を見て私は大いに焦る。
「術式はもう完成しています……ですが起動するために必要な力が、どうしても足りません……」
頭の中で何度計算してみても、術式の起動に必要な力が足りないのだ。
異世界召喚術式。
私は聖剣『ストレルカ』をこの空間に召喚しようとしていた。
もちろん完全召喚ではない。
一時的な時限召喚だ。
神話級の存在である聖剣『ストレルカ』を完全召喚するのは、女神アテナイでもない限り不可能だから。
皇竜姫ドラグレリアが用意したこの位相次元空間は――『オーフェルマウス』とは違う世界ではあるものの――違いが分からないほどに似通っていた。
どういう原理なのかは全く見当もつかないのだが、地球ではほとんど感じられない女神アテナイの加護まで感じることができる。
だから完全な異世界である地球に召喚するよりも、はるかに小さな力でいいはずだったのに――。
「私としたことが少し読みが甘かったです……聖剣『ストレルカ』は女神アテナイそのものとまで言われるほどの力を秘めた剣。召喚するために必要な力は当然膨大です……分かっていたはずなのに……」
そう、理由は分かっていた。
今の私には女神アテナイの力を秘めた強力な聖具によるサポートがないからだ。
足りない神力を補ってくれるはずのアイテムが、この世界には存在しなかったのだ。
「女神アテナイの聖なる力があともう少しだけあれば召喚できるのに……なにかあれば……なにか、なにか……」
術式そのものは、必要最低限に絞って徹底して効率よく作り上げたから、もうこれ以上は改良することはできない。
だから足りない力を「なにか」で補わないといけないのだ
私は頭を巡らせて必死に考える。
こうしている間にも勇者様は苦戦を続けている。
「なにかないか……なにかないか……なにかないか……なにか――――あった」
――あるじゃない。
聖なる力を秘めたものがあるじゃない!
高位神官としてこの世界に来てからもずっと毎日、女神アテナイに祈りを捧げ続けた私の命があるじゃない――!
私がその結論に行きついた時、勇者様が盛大に吹き飛ばされた。
地面を激しく転がりながらも即座に立ち上がった勇者様だったけど、身体が重そうで、もはやほとんど戦う力が残っていないように見えた。
悩んでいる暇なんてない。
勇者様を死なせるわけにはいかないのだから。
愛しい人を守るためなら、私は自分の命なんて惜しくはないのだから――!
覚悟を決めた私は、自分の命を代償に術式を発動した――!
「異世界召喚術式、起動!
呪文とともに力を流し込むと、魔法陣が強大な力を発動し始めた。
いける――!
「何とか間に合いました! 我が呼びかけに応えよ、偉大なる汝の名は聖剣『ストレルカ』なり――!!」
魔法陣がまばゆいばかりの黄金の輝きを放つとともに、勇者様の眼前の空間がぐにゃりと歪んでいく。
そして――!
「やりました、成功です!」
神話級の圧倒的な存在感を放ちながら、聖剣『ストレルカ』が勇者様の手の中に召喚されたのだ!
困難を成し遂げた達成感が私を支配していた。
しかしそれを見届けた途端に、私の意識は急激に遠のき始める。
身体の芯から大切なものがごっそりと抜け落ちていくような冷たい感覚――。
だめ……もう、立っていられない――。
「あ……う……」
「リエナ!!」
勇者様の大きな声が聞こえて――。
「勇者様……」
気付いた時には、私は勇者様の腕の中に優しく抱きかかえられていた。
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