第73話「あっぱれじゃ、褒めてつかわすのじゃ」
「くっ、くくっ、くっくっく……」
俺と視線を交わし合ったまま、ドラグレリアが堪えきれないと言った様子で笑い出した。
「なに笑ってんだ? あまりの痛みで、まともに考えられなくなっちまったのか?」
俺も過去に経験があるのだが。
痛みと疲労が限界を越えると、思考が泥の海に沈んだようになってまともに考えられなくなってしまうのだ。
今の自分の状況がよく分からないまま意味もなく笑ってしまったり、異常なハイテンションになったり、突然泣き出してしまったりする。
だけどドラグレリアは、どうもそういうことではないようだった。
「ほんに勇者様は強いのじゃよ。正直これほどまでとは思っておらなんだのじゃ。あっぱれじゃ、褒めてつかわすのじゃ」
ドラグレリアの声には、そういった追い込まれた者特有の切羽詰まった異常さは微塵も感じられない。
「そりゃどうも。ドラゴンのお姫様にお褒めいただけて、俺も勇者冥利に尽きるな」
「くくっ、いいのぅ、ほんにたまらんのぅ! 焦がれるのじゃ、その強さに
ダメージでふらついていたドラグレリアの身体がピタリと静止すると、再び戦闘態勢をとった。
「おいおい、まだやる気かよ? 強がっていても、今のがかなりダメージを与えたのは手応えで分かってるんだぜ?」
なにせ『セイクリッド・インパクト』のピンポイント3連撃が、ドラゴニック・スケイルという鉄壁の防御を失ったドラグレリアの身体に、全弾直撃したのだ。
聖剣『ストレルカ』がなくともその威力は絶大だ。
よくもまぁまだ立って入られるものだと感心するよ。
「当然やる気に決まっておるのじゃよ。むしろやる気はマシマシじゃ」
「一応言っておくがお前とやりあう以上、俺は殺す気でやるからな?」
殺さないようにスマートに勝とうなどと。
そんな甘い考えでドラゴンと戦えば、死ぬのは間違いなく俺の方だ。
ドラゴンと戦うからには、全力で殺しにかかる以外の選択肢は後にも先にも存在しえない。
「くくっ、だからこそ焦がれるのじゃろうて! 互いに最強を自負する者同士が本気で殺し合うからこそ! この心は天地
「ま、死にたいなら別にいいけどな。それともう一つ言っておくが、俺はまだ切り札を残しているぞ? 最強の勇者ってやつをあんまり舐めるなよ?」
聖剣『ストレルカ』がない状況を想定して用意した奥の手だが、一度しか試したことがなく、もちろん実戦で使ったことは一度もない。
しかも身体にかかる負荷があまりに大きくて短時間しか使えないから、ここまで温存してきたのだが。
しかしここぞという場面では、俺にはまだ出せる力のさらに上があるのだ。
これで諦めてくれたら楽なんだけど――、
「くくっ、それはいいことを聞いたのじゃよ。そして切り札というなら
ま、そういう奴じゃないよな。
「強がりはやめておけ。だいたい仮に切り札があったとして、そのぼろぼろの身体で満足に使いこなせるのかよ?」
「……ふむ、そう言えば言っておらんかったかのう」
「……なにをだ?」
ドラグレリアが発したその言葉に、俺の勇者としての直感がピクッと反応した。
胸が妙にざわついて仕方ない。
嫌な予感がする。
しかも飛びっきりに嫌な予感だった。
「
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