第56話 決着

 しかし勇者と竜の姫。

 互いのプライドをかけた俺とドラグレリアの戦いは、とても意外な形で決着することになった。


「ぬぉぉぉぉぉおおおおおおおおっっ!!」

「ぬぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううっ!」


 渾身の力を込め、雄たけびを上げて戦っていたその瞬間――、


 バキッ!

 バキバキッ!

 グシャッ!!


 俺たちが戦っていた腕相撲台バトルフィールドが、勇者とドラゴンの強大すぎる力に耐えきれなくなって、大きな音を立てて真ん中から真っ二つに割れて壊れてしまったのだ。


「…………あっ」

「……ふむなのじゃ」


 あるはずの支えを失い、まるで友情を確かめでもしているかのようにガッシリと中空で手を合わせたまま、思わず顔を見合わせてしまう俺とドラグレリア。


「あーうん。まぁなんだ。まさか決着をつける前に腕相撲台バトルフィールドの方が先に壊れるとは思わなかったな」


「ふむ、この結末はわらわも想定していなかったのじゃ。ちと困ったのう」


 お互いにテンションマックスでガチで勝ちに行ってたところで突然、続けようにも続けられなくなってしまい。

 振り上げた拳の下ろし先がぽっかりなくなってしまって拍子抜けしたというか、なんとも言えない微妙な空気感が俺とドラグレリアの間に漂っていく。


 そしてその微妙な空気はギャラリーにも広がっていき。


「ちょ、今度は台が壊れたんだけどw」

「真ん中で真っ二つになってるw」

「あの2人でどんだけ圧力かけてんだよw」

「すげー展開w」

「なに言ってんだ、これも演出の一環だろ?」

「だよなぁ。そんな簡単に台が壊れるわけないもんな」

「この学校の文化祭ってマジすげーな」


 困惑したようなざわめき声があちこちで起こり始めた。



「まったくほんと困ったよな。もう少しで俺の勝ちだったのにさ」


「くくくっ、偉大なる勇者殿は冗談も得意なようじゃの。もう少しで勝ちだったのはわらわの方であったというに」


「おっと、俺はいつでも真剣だぜ? 特にドラゴンってのは冗談を飛ばせるような相手じゃないんでね。ってわけだから後1分あったら俺が勝ってたな、間違いない」


「くくっ、言うのぅ。しかしそう言うだけの実力が勇者殿にあることは、よくよく理解できたのじゃよ。さすがは『絶対不敗の最強勇者』シュウヘイ=オダなのじゃ」


「ふふん、だろ?」


「しかもそれだけでなく小粋なジョークでわらわを最後まで楽しませてくれようとするのじゃから」


「だからジョークじゃないっての」


「いやはや実にサービス精神旺盛じゃの」

 そう言うとドラグレリアはスッと力を緩めた。

 立ち昇っていた漆黒のオーラは跡形もなく消え失せ、その身体からはもう戦闘意思のようなものは微塵も感じられない。


 顔もドラゴン化しかけていた時の牙やツノはなく、すれ違ったら誰もが振り返るであろう絶世の美女の顔に戻っていた。


「ふぅ……」

 そんなドラグレリアを見て、俺は大きく安堵の息を吐きながら戦闘態勢を解除する。


「えーと。つまりこれは、引き分けということでしょうか?」

 ここにいる全員の気持ちを代弁するように、リエナがぼそっとつぶやいた。


「ま、こうなってしまっては仕方がないかの」

 やれやれと肩をすくめるドラグレリア。


「ってことは、一応は満足してくれたってことでいいのか?」


「うむ、なかなかに楽しめたのじゃよ。さすがは『絶対不敗の最強勇者』シュウヘイ=オダじゃ。それに――」


「それに?」

「メインディッシュは最後に取って置くものじゃからの」


「やっばり諦めてはくれないのか?」


わらわはただひたすらにお主と会うためだけに、わざわざこの世界まで追ってきたのじゃ。わらわのこの熱くたぎる想いは、かような満足程度では諦めなどつくものではないのじゃよ。むしろ今日のやり取りでその思いはより強くなったのじゃ」


 まるで愛の告白のような情熱的なセリフなんだけど、ドラグレリアが求めているのは俺とのガチの戦闘、殺し合いである。

 ヤンデレかよ、俺の趣味じゃねーっつーの。


 いやこの場合ヤンデレっていうより、バトデレか? もしくはバトルジャンキー。

 なんにせよあまり関わりあいたくない相手なことには違いなかった。

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