第42話 腕相撲(2)

「まぁな」

「さっきも圧倒してましたね、さすが勇者様です」


「あれは向こうも本気じゃなかったんだよ」

「あ、そうなんですか?」


「俺と勝負するのが目的じゃなくて、言っていた通り俺の力がどれくらいなのかテストしていただけっぽいな」

「なるほど納得です」


 まぁガチで来られても勝つ自信はあったけれど。

 なにせ俺は『絶対不敗の最強勇者』だからな。


 雨が降ろうが槍が降ろうがドラゴンが出てこようが、学園祭のお遊び程度で負けるわけにはいかないのだ。


「ちなみになんですけど、勇者スキルは使わないんですよね?」

 こそっと俺にだけ聞こえるように小さな声でリエナが尋ねてくる。


「ああ、どんな相手が来てもズルはせずに自力で勝負してみたい」

「ふふっ、実に勇者様らしいです。本番も楽しみにしていますね♪」


「任せとけ。『絶対不敗の最強勇者』のプライドにかけて絶対に勝ってみせるさ。『オーフェルマウス』の最強は、この世界でも最強だってことを証明してやるよ」


 そんなことをリエナと小声で話していると。


「ほう、君が今日初めてのSランクか。なるほど、細身の割に鍛えあげられた身体、重心の安定した美しい立ち姿。なにより内に強者のオーラを秘めているのをヒシヒシと感じさせる。なかなかに見所があるヤツのようだな。これは対戦が楽しみな」


 出てきたのは高校生というカテゴリーからは逸脱した、まるでクマのような巨体を持った生徒だった。


 生徒だと思う。

 生徒のはず。


 というのも、その相手ときたらアラサーと勘違いするような大人びた顔をしていて、190センチ近い身長があって、全身が筋肉の塊ってくらいにムキムキで、使い込んだ柔道着を着ているんだけど、柔道着が内側から筋肉に押し上げられてパンパンに膨れ上がっているのだ。


 もちろん帯は有段者の証である黒帯だ。


 歩く時の効果音を入れるなら『ノシノシ』だな、間違いない。


 しかも身体だけじゃなくてまとっている雰囲気も歴戦の猛勇って感じで、貫禄抜群なのだ。

 『オーフェルマウス』で戦士をしているって言われても信じられる。

 これは相当な場数を踏んでいるな。


「あの、ものすごく失礼な質問で恐縮なんですが、あなたは本当に高校生なんでしょうか?」


 そういうわけだったので、俺は大変失礼ながらまずはそのことについて尋ねざるを得なかった。


「はははっ、よく言われる。だがこう見えて俺は正真正銘の18才、高校3年生だ」


「了解しました。それと失礼なことを聞いてしまい申し訳ありませんでした」


「ははっ、言われるのには慣れているから全然気にするな。ちなみに今年の夏は柔道の100kg超級でインターハイにも出場したんだぞ? 大学へのスポーツ推薦も決まっている」


「それはすごいですね」


「やはり俺と対戦するのはやめておくか? 今ならまだ他の奴と変わっても構わんぞ?」


 ニヤリと挑発的に笑うと、クマのような巨漢の先輩は身体に力を込めてみせる。

 柔道着の胸元から見えている分厚い胸筋が、さらに硬く大きく盛り上がった。


「いいえ、逆にやる気がわいてきました。せっかくならなるべく強い相手とやりたいと思っていたので」


 おそらくこの人はうちの高校で最強の筋肉ダルマ。

 だったら相手にとって不足なしだ。

 俺も掛け値なしの全力でいかせてもらおう。


 強敵を前にして俺の中に闘争心に火が付くとともに、強大な闘気が湧き上がり始めた。

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