第38話 文化祭ライブをカップル鑑賞
体育館に着くと、ちょうど蓮見さんたちのバンド『スモールラブ』の出番が回ってきたところだった。
「暗幕が張られてると生きにライブ会場みたいな雰囲気になるなぁ」
「体育の授業で使う時とは全然違ってますよね……あ、勇者様、あそこ空いてますよ!」
やや後ろの方だったものの、暗がりの体育館でリエナが目ざとく見つけた、2つ隣り合わせで空いていた席にリエナと並んで座る。
「あ、出てきました! ハスミンさんがんばってーっ!」
舞台に出てきて音合わせをしている蓮見さんたちに、リエナが手でメガホンを作りながら大きな声で声援を送った。
音合わせの時間を利用して司会の人がメンバー紹介をしてから、すぐにライブが始まったんだけど――。
「これはすごいな……!」
「すごく上手ですよね! 全員の息がぴったりです!」
高校1年のバンドとは思えない完成度の高さに、俺はたちまち心をわしづかみされてしまった。
いや俺だけじゃない。
リエナも、そして会場の全員も『スモールラブ』のライブに一瞬で魅了されてしまっていた。
会場の空気が一変したのを、『オーフェルマウス』で5年間、勇者として戦う中で培ってきた俺の歴戦の肌感覚が鋭敏に感じとる。
「特に蓮見さんのヴォーカルはすごいな。心がグッと掴まれるみたいで、目が離せない」
「私も鳥肌が立ってきちゃいました。人を惑わすセイレーンの歌声のように、我を忘れて心が引き込まてしまいそうです」
「でも話をしてると、せっかくの素敵な演奏を聞き逃しそうだ」
「ですね。感想会は後にして、今は聴きに徹しましょう」
俺とリエナは会話をいったん打ち切ると、ライブが終わるまで静かに聞き入ることにした。
もちろんライブは大盛況のうちに終了した。
そして蓮見さんたちのライブが終了した後。
「こういうのっていいよなぁ、アオハルって感じでさ」
「個々人が全力で歌って全力で演奏する。そんなみんなの全力を合わせて1つの音楽として完成させる。本当に素敵なことだと思います」
体育館を後にした俺とリエナは、学園祭で盛り上がる校内を再びぶらつきながらライブの感想会を始めた。
「蓮見さんが歌い終わった瞬間に、体育館中が大喝采だったもんな」
「勇者様も立ち上がって大きな拍手していましたよね♪」
「ははっ、ついな。でもそういうリエナだって子供みたいにはしゃぎながら大きな声で『すごいです! グレイトです! ブラボーです!』って叫んでただろ?」
「えへへ、つい興奮しちゃって……」
演奏終了直後のお互いの様子を思い出しながら、俺とリエナは二人して顔を見あわせると笑い合う。
「こういう経験ってきっと死ぬまで忘れないんだろうな。ちょっと羨ましいよ」
「死ぬ間際にも人生最高の思い出の1つとして思い出して、幸せな気持ちになれそうですよね」
「ほんといいよなぁ、こういうの」
さっきの感動を思い出しながら、噛みしめるようにしみじみと呟いた俺に、
「でしたら勇者様も来年参加してみてはどうですか? 勇者さまは楽器ならなんでも演奏できますよね?」
リエナがそんなことを提案してきた。
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