第22話 今も昔もリエナは俺のかけがえのないパートナーだ。

「お見事です勇者様。『オーフェルマウス』にいた頃に比べても、感覚はまったく鈍ってないみたいですね」


 完勝した俺のところにリエナが呑気な足取りでやってくる。

 既にまったく警戒していないところを見ると、周囲にはもう魔獣の気配はまったくしないんだろう。


 俺もすぐに戦闘モードを解除する。


 リエナの優れた察知能力は近距離であれば、特殊な気配隠ぺい能力を持った魔獣ですら感知してみせるからな。

 そこは俺も大いに信頼しているのだ。


「まあな。それより問題なのは、なんで『オーフェルマウス』にしかいない魔獣がこの世界にいたかだ」


「ですね」

 俺の言葉に、リエナがその理由を考えるにように握った右手を口元に当てた。


「どうだ、心当たりはないかな? 俺には全く見当つかないからさ」


「残念ながら私も特に――――」

 と、そこでなぜかリエナが突然黙り込んでしまった。


「どうしたリエナ?」

「今、神託がありました。女神アテナイの神託が降りてきたんです」


「女神アテナイの神託が? この世界でか? おっと悪い、俺は黙ってるからまずは神託に集中してくれ」

「ご配慮ありがとうございます」


 リエナはそう言うと目をつむって集中力を高め、その精神を研ぎ澄ませていく。

 女神アテナイの神託を聞き取っているのだ。


 神託は神様の言語によって伝えられるので、神官はまず人間の言葉に翻訳する必要があるらしい。

 しかもふんわりとした内容なので、何を言いたいのか見当をつける必要もあるのだとか。


 しばらくしてからリエナはふぅ、と小さく息を吐くと目を見開いた。


「どうだった? 女神アテナイはなんて言ってたんだ?」


「魔王カナンが生き延びて魂だけとなって、こちらの世界に渡ってきたようです。であれば、まず間違いなく先ほどのグレートタイガーもその影響を受けて生まれたのでしょう」


「魔王カナンが魂だけになって生き延びて、この世界に来てるだって? バカな、俺はあの時たしかに討滅したはずだ!」


「はい、私も討滅の瞬間を見ていました。ですが女神アテナイの神託によると生きていたんです。だとすれば、そこには何らかのカラクリがあるのではないかと」


「ならもう一度討滅してやるまでのこと。魔王カナンの魂の居場所は分かるか?」


「神託によって既に魔王カナンの居場所は捉えてあります」


「さすがリエナ、頼りになるな」

「ありがとうございます♪」


 俺はリエナの頭を優しく撫でてあげた。


「リエナがいなきゃ、俺は進むべき道を探すところから始めないといけないからさ」


 ロープレRPGで例えるなら、村人たちに情報を聞いて回るのを、リエナは神託を聞くことによってほとんど全てショートカットしてくれるのだ。


 勇者に道を指し示すための神託の神官。

 そして今は互いに思い合う恋人でもある。

 今も昔もリエナは俺のかけがえのないパートナーだった。


「それと、どうやら魔王カナンはこの世界で異世界同位体という依り代を見つけ、それと一体となって完全復活を果たそうとしているようです」


「異世界同位体ね。察するに魂を入れる器ってことだな?」


「はい。ですがまだ依り代となる人間を見つけてはいないようですね。叩くなら今です」


「オッケー、今すぐ向かおう」


 俺はリエナをお姫様抱っこすると魔王カナンの魂がいる場所へと急行した――!

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