第10話 クラスメイトから質問攻めにあうリエナと、蚊帳の外から見守る勇者。

 俺には割と普通に挨拶したのに、リエナに対してはもう完全にキョドってしまっているあたりが、陰キャフレンズの智哉らしい。


 俺も前はこうだったよなぁ。

 女の子に話しかけるなんて清水の舞台から飛び降りるくらいに勇気がいったもんな。

 だからその気持ち、痛いほど分かるぞ智哉。


 リエナと視線を合わせることすらできずにボソボソと話す智哉の姿を見て。

 俺は異世界『オーフェルマウス』での体感+5年の時の流れと自分の変わりようを、しみじみと実感したのだった。


「えっと勇者様、この人はどなた様でしょうか?」


 俺が得も言われぬ感慨にふけっていると、智哉に挨拶をされたリエナがちょいちょいと俺の肘辺りをつついてきた。


「ああごめんごめん、紹介するよ。柴田智哉、俺の一番仲のいい友達だ」


「そうでしたか! 柴田智哉さん、初めまして。今日からよろしくお願いしますね。あとリエナでいいですよ。みんなそう呼びますから」


「は、はい! じゃ、じゃあリエナさんで……! あと、こ、こちらこそよろしくお願い致しまひゅ」


 あ、噛んだ。

 顔はまっ赤だし、智哉がガッチガチに緊張してるのが伝わってくる。



 すると。

 俺に挨拶するついでに期せずして智哉がリエナへの一番槍を果たしたことで、次から次へとクラスメイト達が集まってきた。


 しかも口火を切ったはずの智哉は、可哀そうに集団からポイっと押し出されてしまっていた。


「ねぇねぇ、リエナちゃんはどこから来たの?」

「『オーフェルマウス』からです」


 げっ、しまったな。

 ここ打ち合せしとかないとダメだったところじゃん。

 マズいな、なんて説明しよう?


「それってヨーロッパの国……じゃないよね? どこかの地域の名前なの?」

「まぁそんなところでしょうか」


 しかしリエナは俺の不安をよそに、その質問をさらっと流してみせた。


 さすがリエナ。

 天才と言われるだけのことはあるな。


「ねぇねぇ、リエナちゃんは織田くんとどうやって知り合ったの? すごく仲が良さそうだけど」


 くっ、これまた打ち合わせ必須の質問がきたぞ!?

 っていうかほとんど時間がなかったとはいえ、完全に準備不足だったな。

 リエナの「設定」を少しでいいから考えておくべきだった。


 頼むリエナ、次も上手く流してくれ。


「勇者様は『オーフェルマウス』を存亡の危機から救ってくれたんですよ。『オーフェルマウス』の住民は皆、勇者様を神のごとく崇めているんでから」


「そんなことがあったんだ!」

「そっかぁ、だから勇者様って呼んでるんだね」

「織田って陰キャの振りをして、実は真の実力を隠してる系の人間だったのか」

「なにそのラノベ主人公!」

「俺も織田になりたい!!」


 ふぅ、やれやれ。

 どうやら俺が心配しなくても、頭脳明晰のリエナは異世界絡みの話はしちゃいけないことを理解しているようだ。


 これなら心配しなくても際どい質問は上手くかわしてくれそうだな。


 俺は少しだけ安心してたんだけど。


「もしかしてリエナちゃんと織田って付き合ってるの?」


 おいおい、さすがにそれは踏み込んだ質問すぎるだろ。

 もちろん俺は、その辺もさらっと流してくれるだろうと思ったんだけど――、


「はい、互いに思い合っております。そもそも私は勇者様の家にホームステイしているんです。今日も家から一緒に来ました」


 おいこらリエナ、そこは普通に答えちゃうのかよ!?


「「「「「きゃーーっ!!❤️」」」」」

 そしてその答えに女子たちが一斉に黄色い声を上げて、


「「「「「ぎゃーーっ!!💦」」」」」

 男子たちは一斉に絶望の悲鳴を上げた。

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