義妹のすねをかじって生きていきます! ~クズみたいな宣誓をする私を、美人の妹が妖しい目で見つめていた~
みゃあ
1
Q、ダメ人間の定義とは?
A、他者のすねをかじり、血をすすって生きていくことである。
◇
「――お姉ちゃん。
「ん、んぐぅ……」
朝、耳に心地のよい声と優しい揺さぶりを受け、私はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとした視界の先には闇が広がっている。まだ真っ暗なのか、はたまたカーテンが締まっているかのどちらかだろう。
「んっ――!」
ふいに眩しいぐらいの光が飛び込んできて、反射的にまぶたを閉じる。目尻にたまった涙を拭うことすらできずに、私はただ固まっていた。
そんな中、じんわりと熱を持ったなにかが、私の頬に触れたのだ。
「ごめんなさい、急にカーテン開けちゃって。眩しかったですよね」
「ん、いや、ぜんぜんへーき!」
気丈に振る舞ってみせるも、正直きっつい。自称:ダメ人間である私は今ので二度寝ができなくなってしまったのだから。
ちぇっ、もっと寝ていたかったのに……。
「お姉ちゃん今、もっと寝ていたかったとか思いませんでした?」
「ギクッ……な、なんのこと?」
「ふふ、隠そうとしても無駄ですよ。お姉ちゃんのことなら、わたしなんでもお見通しですっ」
それは大したものだと思う。私自身としては、一秒先の未来すら見通せそうにない。もしや、お先真っ暗なのかも。
ちょっぴり将来に不安を抱きそうになったけど、ま、なんとかなるでしょ!
だって私には、この子がいるからね。
小さいころに私の母親と汐音の父親が結婚して、連れ子だった私らがそのままついてきたって感じだ。
初めましてのときのこと、今でもはっきり覚えてる。
『あの、その……』
おどおどとして引っ込み思案な性格だった汐音。対する私はのほほんとしてなんも考えてなかったのでウザ絡みしてたっけ。
ベタベタ抱きついたり、手を引っ張っていろんなとこ連れまわしたり、ベッドで一緒に眠ったり。
そんなことを何年も続けてたら、汐音の中での整理でもついたのか知らないけど、だんだん会話してくれるようになった。それどころか身の回りのお世話まで買って出るようになる始末。
すでにダメ人間の片鱗を見せていた私としては、ま、ありがたいんだけどね。
あれからお互いに高校生になったけど、環境は変わってない。私のお世話をする汐音の図が日常となっていた。
「さ、着替えましょうか? バンザイしててください」
「うぃー……」
けだるげに起き上がりながら、私は手を上げる。その間に汐音がパジャマのボタンを外し、脱がせてくれた。
ひんやりした外気に肌が触れ、ぶるっと震えてしまう。ちと寒いな。
「……お姉ちゃん、相変わらずノーブラなんですね」
「ん? まぁ、寝るときに付けてても邪魔だし」
「それに、すごく大きいですよね」
「食べ物の栄養がほとんどいくからね。あとおなか」
「…………」
「そろそろ、着せてもらえると助かるんだけど」
「あ、ごめんなさい。見惚れてました」
なにに見惚れたんだ。おっぱいか? それともおなかか?
デブまっしぐらな私を羨んでるなんてことはないだろう。なんせ、汐音は私と対照的なスタイルをしてるのだから。
モデルみたいに身長が高くて、腕も脚も長い。身体は程よく引き締まり、私のように摘まめるような肉はほぼないといってもいい。
それに加えて、彼女は顔立ちも整っていた。
目元がシャープで口も鼻も小さく、それらが小さな顔に綺麗に収められている。長く艶のある黒髪をなびかせる姿は、誰の目をも惹きつける。
告白なんてしょっちゅうらしいし、そのたびに振ってるってのも聞く。お目当ての相手でもいるのかは、分かんないけど。
姉妹間であんま、そういう話しないし。恋バナとかするタイプじゃないからね私は。なにせモテないので。
「はいっ、着替え終わりましたよ」
「ん、ありがと」
「リビングまでおんぶしていきましょうか?」
「いや、やめとく」
私の重さで腰を抜かされでもしたら大変だし。ベッドから自力で立ち上がり、一階にあるリビングへと向かうことにした。
◇
「あら、渚沙おはよう」
「んー……おは」
リビングに降りてくるとお母さんが朝食を作っていた。なんかの美味しそうな匂いが漂って来て、思わずおなかが鳴る。
ちなみに今日はお母さんだったけど、汐音が朝食を作ることもあった。ローテーションってやつだ。その中に私は含まれていないけど。
「汐音ちゃんもおはよう」
「おはようございます」
「今日も渚沙を起こしてくれてありがとね」
「いえ、わたしが好きでやってることですから」
好きで私みたいなのを起こすとか。将来はヘルパーさんにでもなるのかな。
自分のお先真っ暗さは棚に上げ、汐音の未来を考えつつ、テーブルに着く。対角線の席に座るお義父さんは新聞を読んでいた。
しばらくして、お母さんの作ったご飯が運ばれてくる。湯気を立ち上らせているそれらは、とてもおいしそうだ。
隣に汐音が座り、手を合わせる。それに習い、私も手を合わせた。
「はい、お姉ちゃん、あーんしてください」
ま、私が手を使うのはここまでよ。あとは汐音がやってくれるから。
箸を上手に使って一口サイズに切り分けたものを、私の口に運んでくれる。
特に深く考えることなく、もぐもぐする私を両親が呆れた目で見てきた。
「渚沙、あなた恥じらいとかはないの……?」
「ん? ないけど」
あっけらかんとした感じで言うと、お母さんが本気で心配そうな顔をしてきた。
「ねぇ、そんなことでこの先、やっていけるの? 汐音ちゃんがいなくなったら、生きていけないんじゃない?」
「…………」
それは、どうだろう。考えたこともなかった。
確かに、汐音が結婚とかして家を出てしまったら、朝起こしてもらえないし、着替えもしてもらえない。あれ、ヤバくね?
チラと隣を見やると、汐音はなぜか笑ってる。まるで安心してとでもいわんばかりの表情だ。実は、見聞系のあれを極めてるのかもしれない。
私はさっぱりなので、ない頭で考えることにしよう。
未来の私が取るであろう行動はどんなのだろう? ……汐音の世話になってる? イヤな顔ひとつ見せずに、私と一緒にいてくれてる? もしかしたら私がごねて結婚自体させないかもしれない。一応、ダメ人間なのだから、そこまでやりそうな気もする。
そうだ! 私はダメ人間なんだ。なにあれこれと考え込んでるんだ。真っ暗な未来を照らすのなんて簡単じゃないか。頼ればいいんだよ、頼れば。
なんだかんだ汐音は受け入れてくれそうな気がする。いい子だもんこの子。
私は気持ちキリっとした表情を心がけ、視線を前へと向ける。
「お母さん、お義父さん、私、宣誓します」
「なに、どうしたの急に」
「私、朝霧渚沙は、朝霧汐音のお世話をこの先も受け、すねをかじり血をすすって生きていきます!」
「……」
「……」
両親が呆れた目で私を見てくる。
室内の静まり返った空気が、私の肌を撫でて身震いさせてきた。やべー、どうしよこの雰囲気。
内心で焦っていたところに、救いの手が差し伸べられる。
それは、すぐ隣からだった。
「いいですよ」
「え?」
「お姉ちゃんの宣誓、甘んじて受け入れます」
「し、汐音ちゃん、考え直して……? 渚沙がふざけて言ってるだけだろうし、あなたの将来もかかってるのよ」
「そんなの構いません。お姉ちゃんのお世話をすることが、わたしにとってはなによりも大事なことですから」
「マジ?」
「はいっ、お姉ちゃん。わたしのすね、好きなだけかじってくださいね?」
隣から向けられる熱い眼差しに、ちょっと驚いている自分がいる。罵倒のひとつでももらうかなってちょっぴり考えてしまってたし。
視線を合わせると、にっこり微笑まれた。――けど、目つきがいつものとなんか違うってのが気にはなった。
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