第11話 美人なカノジョ
「これってもしかして、宇宙にも行けるのかな?」とナオトが言った。
「ええ~。さすがにそれは無理じゃない?」とカレン。
「一応聞いてみようよ」とミノルが言い「ムーンドゥス!」と呼んだ。
すると再び綺麗な若い女性の声で、
「はい、なんでしょう」と声があった。
「宇宙にも行けるの?」とミノルが問いかけるとその声は、
「はい、もちろんです。どちらに行かれますか?」と答えた。
カレンは間髪を入れずに、
「じゃあ月で!」と興奮しながら答えた。
冷えたマグマで埋め尽くされた辺りいっぱいのおどろおどろしい映像は、徐々に切り替わっていき、真っ黒い空間に浮かぶ無数の星が現れた。そして足元から目の届く先まで、コンクリートのような灰色の景色が続いていた。他は、無限に奥行きを感じさせる闇だ。確かに月に来ていた。『でも大気は? 重力は?』とミノルは思った。思い切り息を吸ってみた。空気は普通にある。膝を曲げて飛んでみた。白い砂埃を上げながら、フワリ、と体が風船のように軽く浮かび上がったかと思うと、足の裏に経験したことがないほど優しい感触を感じながら着地した。
「すごい! 宇宙服なしで月面旅行してるじゃん!」とナオトはウサギのように飛び跳ねて前へ進みながらそう言った。
「これどういう技術? 地球にいながら月に行けるなんて。……今度からここに来れば一日中、ずっと遊んでられるじゃん」とミノルは空中で三回転ジャンプを決めて言った。
――最後に三人は宇宙遊泳をして無重力の空間を楽しんだ。ナオトとミノルは互いの体を押し合い、カレンもミノルと”ハイタッチ”のように両手の平を双方から叩き合って、延々と漂っていく感覚を味わった。彼らの周りには太陽系の惑星がきらめき、中でも金星は上下左右の区別なく遊び回る彼らにとって、自分たちが今どこにいるのか知るための目印を示してくれているかのように、ひときわ明るく輝いてた。
三人は同じビルのレストランで昼食をとった。
「うわさには聞いてたけど、やっぱ『ムーンドゥス』すごかったな」とミノルが言った。
「想像してたより十倍はリアルだった。もうほとんど現実」とカレンが言い、
「寝起きドッキリみたいに寝てる間にあそこに連れていかれて、それで朝目が覚めたら、普通に現実だと信じちゃいそう」と返したナオトの言葉に、他の二人は吹き出した。
ナオトは唸りながら少し考えて、さらに続けた。
「何か”もの”に触れるまで『本当の世界』かどうかは分からないってわけか。もしかすると僕らが五感で感じてるこの現実も、ああいう機械的なもので映し出された仮の世界なのかも」
それにミノルは、
「んなアホな。じゃあ俺らはゲームの中のキャラクターみたいな存在ってこと?」と言った。
「あくまでこれは仮説だけどね。でも、もしこの仮説が本当だったら、このゲームを設計したり、テストしたり、バグの対応をしたりしてる存在がいるってことだ」とミノルは一口水を飲んで、
「もしそんな人たちと話す機会があったら『もっといいアイデアがある』って言ってプレイヤー視点からの助言をしてあげたいけどね」と、そのふっくらとした頬をつりあげて笑みを浮かべながら、冗談半分で言った。
一方、カレンは、その彼の言葉の語尾に繋げるかのように「あー。ナオトのハンバーグきたよー」と言った。
三人の料理が運ばれ、先ほどまではしゃぎまくっていたせいでよっぽど腹が減っていたのか、各々が頼んだ料理を黙々と食べ始めた。
ミノルは食べながらナオトの職場恋愛の話を始め、以前彼がナオトへ伝えたアドバイスも含めて話して、盛り上がった。
その流れでナオトは、仕返しと言わんばかりにカレンへこう言った。
「そういえば最近、新しい彼女ができったって」指先はさりげなくミノルの方へ向いていた。
「またぁ!?」と、カレンは驚いて大きな声で返した。
「それが、今度はタレントさんみたいだよ」
「え! ついに芸能人と付き合えたんだ!?」と嬉々とした顔で言ったカレンは、さらにミノルにこう聞いた。「女優の子?」
「いや、モデルの女の子。今撮影してる映画の現場で出会った」
「え~! さぞかし美人なんだろうな~。……っていうか、ミノルってホント面食いだよね」
そう言われてミノルは食べ物を口に運んだ後、少し恥ずかしそうに笑った。
事実、その彼女はとびきりの美人だった。最近、二十歳になったばかりで、シワやシミ一つない輝くような肌の美しさにミノルは射貫かれたのだった。
今度はミノルがカレンへ聞いた。
「カレンはいま彼氏は?」
「いないよ~。前にあの彼氏と別れてからずっと。でも今は、仕事が楽しいから、恋人探しはまだ先でいいかなぁー」
カレンが以前付き合っていた彼氏は、付き合ってから一か月で、デート代を出来るだけ節約しようとするとんでもないケチだということが発覚し、何度もミノルとナオトに相談した後、別れた。
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