第2話
「や、やっぱり救急車呼んだ方がいいよ! 私の家じゃ、消毒して包帯巻くことくらいしかできないし」
「それでいい。手当てはそれでいいから、頼むから救急車だけは呼ばないで」
「なんでそんなに救急車を嫌がってるの?」
「それは……」
あからさまに顔を曇らせて、男の子は顔を伏せる。
話したくないのかな。
「まあいいや。今は早く手当てしないとだし」
そういうと、私はスカートの左ポケットからハンカチを取り出して、男の子の肩の上に置いた。
「うっ!」
「痛いと思うけど、今は取らないで。血を垂れ流しにするよりはマシだと思うから」
「ああ。ありがと」
「これなら歩ける?」
男の子の右腕を自分の肩の上にやって、首を傾げる。
「ああ、大丈夫。ありがとう」
手に持っていた鞄の上にブレザーを置いて、男の子の肩を支えながら私は歩き出す。
「ううん、気にしないで。ね、名前は?」
「大我。
「私は
私が笑ってそういうと、大我くんは辛そうに顔を顰めながら、ほんの少しだけ口角を上げた。
「ああ。伊吹お前、歳は?」
「十八だよ。」
「うわっ、年上だったのか。ごめん、タメで話してて。同い年かと思って」
「ううん気にしないで!大我くんは?」
「俺は十六。伊吹は学校帰りか?」
鞄を持ってたからそう思ったのかな?
「うん、そうだよ! 大我くんは?」
「俺はちょっと逃げてきた」
いじめっ子からかな? それとも、もしかしたら親からだろうか? あるいは教師とか?
「そうなんだ」
「うん」
五階建てのマンションの一階の一〇五号室で、私は足を止めた。
鞄から鍵を取りだして、私はドアを開ける。
「さ、上がって上がって」
靴を脱ぎながらいう。
私の部屋はドアを開けるとすぐそこにキッチンダイニングが広がっていて、その隣に風呂場とお手洗いがある。
「ああ、うん。お邪魔します」
しゃがみ込まないで足だけを使って器用に靴を脱いで、大我くんはいった。
「大我くんはここで待ってて。今タオルと消毒と包帯持ってくるから」
お風呂場まで連れてってもよかったんだけど、そうしたら床が血で濡れちゃうし、待っててもらった方がいいよね。
「ああ、ありがとう」
大我くんの顔を見て頷いてから、私はキッチンダイニングを素通りして、お風呂場まで足を進めた。
お風呂場の前の脱衣所にはタンスと洗濯機が置いてある。私はタンスからタオルを取り出スト、蛇口を回してタオルを思いっきり濡らした。
タオルを絞りながら、大我くんのことを考える。
高校生があんな怪我をして道路に倒れてたなんて、どう考えてもおかしい。それに、救急車は呼ぶなの一点張りだし。誰かを庇っているのだろうか? あんな酷い怪我をさせられたのに?
もしそうだとしたら、なんで?
そんなに庇ってしまうほど、大事な人なんだろうか?
「うっ、あっ」
タオルを絞り終わったので脱衣所を後にすると、玄関から、大我くんの呻き声が聞こえてきた。
大変だ。早く戻らないと。
私は駆け足でダイニングに行った。ダイニングの壁際にある小さな戸棚から包帯と消毒を取りだして、慌てて大我くんの元へ行く。
「え?」
玄関で、大我くんが右足を抑えてうずくまっていた。
肩を怪我してただけじゃなかったの? 嫌な予感がした。
「ごめん大我くん。一回ズボン脱がせるよ」
タオルと包帯と消毒を床に置いて、大我くんのズボンのチャックをゆっくり下ろす。
どこを怪我してるか分からないから、ズボンをものすごい丁寧に下ろした。
絶句する。
右足の膝から下が、真っ赤に焼けただれていた。
「大我くん、もしかしてさっき、おんぶ拒否したのって」
「ああ。おんぶって足持つじゃん。だから、されたらすげえ痛むかと思って」
「なんでこんなことになってるの?」
「……言わなきゃダメか」
焼けただれている足を見ながら、大我くんはいう。
「別にダメとかじゃないけど」
「そしたら今は頼むから何も聞かないでくれ。そのうち話すから」
相当話したくないみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます