第8話『ホアイダ.ルト.ユスティシー』

 私の名前はホアイダ.ルト.ユスティシー。

 一応、この物語の主人公の一人だ。



 今から話す内容は、私の前世の話だ。

 私は生まれつき体が弱く、左目が盲目、それに心臓の病気も患っていた。


 両親は、父が日本人、母が日本とフランスのハーフだと聞いている。

 しかし、私が生まれてすぐに私を捨てたので、顔も名前も知らない。

 孤児として育てられた私は、周りと上手く馴染めなかった。


 IQテストではIQ150と言う記録を出したので、周りの大人は私に期待していた。

 しかし、学校の勉強は得意でなかった。

 それどころか、Xジェンダーだということも判明した。

 自分の性別がはっきりしていないので辛かった。


 そんな中、出会ったのがインターネットとパソコン。

 パソコンにのめり込んでいた私は、気付くとパソコンを使って世の中の未解決事件を次々と解決する探偵になっていた。

 良いことをしたようで、周りから存在を認められたようで、気分が良かったのを覚えている。


 しかし、歳を重ねることに病気が重くなり、寝たきりの病院生活を強いられた。

 結局、14歳に病死。

 出来れば家族や友達が欲しい人生だった。


 * * *


 死んだと思えば、私の知らない世界に転生していた。

 能力とか、魔法とか、魔物とか、ファンタジーな世界。

 古いが、インターネットとパソコンがあったのはラッキーでしたよ。


 それに、この世界には血の繋がった両親が居たのだ。

 残念なことに、母はベッドで寝たきりの病人だったが……。

 しかし、母は病気に負けないとても明るい人だ。

 名前はリリィ.ルト.ユスティシー。


 父はお医者さん。

 知的で優しく、倫理的な逞しい人だ。

 名前は、サム.ルト.ユスティシー。


 私は前世同様左目が盲目でしたが、体は健康です。

 しかし、Xジェンダーと言うのも前世同様。

 体の性別は……恥ずかしいので内緒にしときます……言う必要もありませんし。


 基礎学校では勉強について行けず、友達が出来ず、軽い嫌がらせを受けました。

 それどころか、三歳になったら身に付くはずの能力も、一生使えないような役ただずの能力だった。

 なので、両親には能力が身に付かなかったと説明した。


 両親から見放されるのも時間の問題だと思った。

 しかし、実際は違ったのです。


「ホアイダ、俺はお前のことを誇りに思っている」

「私の、どこが誇れるのでしょうか?やはり魔法が得意なことですか?」

「それもある……だが違う。お前は能力は無いし、勉強こそ出来ないが、俺はお前が頭の悪い奴だと思わない。覚え悪いが、鈍臭い奴だと思わない。協調性はないが、誰よりも優しいと俺は知ってる。勿論、母さんもだ」


 こんなに自分を理解し、認めてくれる人は初めてだった。

 この時、10歳だった私は、生まれて初めて大粒の涙を流した。

 嬉し涙なんて、前世でも流したこと無かった。

 涙と言えば悲しいものだと思ってましたが、こんなにも嬉しいものなのだと認識が変わった。


「お前はあまり欲しがらないから、誕生日プレゼントに悩んだよ」

「プレゼント?」

「あぁ、母さんと二人で選んだ」


 そしてこの日、初めて人からプレゼントを貰った。

 プレゼントはクマのぬいぐるみだった。

 体が白くて、鼻と耳が茶色、枕の半分くらいの大きさのクマのぬいぐるみ。


「お父様……ありがとうございます……一生大事にします」


 泣きながらクマのぬいぐるみを抱きしめたことは、今でもはっきり覚えている。



 部屋は広い部屋を一つ貰っていた。

 床にパソコンを置き、天井は私好みに飾り、ドアは厳重なロック式に改造した。


 私が好きなのはネット、オシャレ、可愛い物、タバコに似た駄菓子シュガレット、ぬいぐるみなど。

 ぬいぐるみでお気に入りなのは、10歳の誕生日に貰ったクマのぬいぐるみ。

 名前は『ポム吉』と名付けた。

 よく一人で、ポム吉を操り喋らせてる。

 つまり、一人二役で遊んでるってこと……。


 一番楽な座り方は、女の子座り。

 これじゃないと集中して物事に取り組めないのだ。

 なのでパソコンを使う時は、必ずこの座り方だ。


 パソコンでは、前世同様ネット探偵として事件解決を進めている。

 今は腕の良さを買われ、ほぼ全ての大国の警察本部と連絡を取ることも出来る。

 なので、事件の捜査はほぼ警察に任せている。


 最近は、ある二人の犯罪者を捕まえようとしている。

 一人はエアスト村を襲撃した『ベゼ』。

 もう一人は世界中で殺人犯を殺す『セイヴァー』。


『セイヴァー』に関しては犯行現場に『じごうじとく』と書かれた折り紙を置いてくので、ほぼ確実に私と同じ転生者だと踏んでいる。

 四字熟語を知るのは、日本の文化を知ってる人間だけだからね。


 まぁ、どちらも目星は付いてきている。


 * * *


 基礎学校では前世同様友達が出来なかった。

 両親の愛情を知った私は、欲が出てしまう。

 友達が欲しいと、本気で願ってしまう。


「お父様、もう少しで専門学校へ入学ですが、友達ができる気がしません。何か友達を作る秘訣などはないでしょうか?」

「そうだなー、友達を作る秘訣……。父さんも分からないが、自分らしく居ることじゃないか?本当の自分を受け入れてくれる奴は友達だろ?その為には自分を隠さず、自分で居ることだと思うぞ」

「なるほど……参考になりました。専門学校で実践してみます」


 私はしっかり、父の助言をノートにメモした。

 忘れやすい私は、こうしてメモすることを心掛けている。


 一週間後、12歳の秋。

 私は『エトワール学校』に入学する。

 基礎学校の学歴が引き継がれた為、私は一番下の初級クラスだった。

 初級クラスは、素行の悪い人がたくさん居て、正直良いクラスではないし、私には合わないと思う。


 それでも、クラスの誰かが友達になってくれることを願っていた。

 しかし、実際はその逆。

 能力が無いから、性別が分からないから、クマのぬいぐるみを持ち歩いてるから、魔法が得意だから、などと理由をつけては嫌がらせをする者が居た。


「ほらよ!」

「返して下さい!」


 一番頭にきたのは、ポム吉を取られたことだ。

 ポム吉を奪われ、人気のない校舎裏まで誘導された。


「やれ!」


 彼らは、クラスで一番荒れている男女六人のグループだった。

 私が気に入らないから、私のポム吉を奪い、私に集団で暴力を振るう。


 しかし、抵抗しない私ではない。

 得意な水魔法で、一人ずつ次々と水で囲う。

 彼らは当然悔しがり、水から出ようとするが、水は熱湯になっているので触れずに出れない。


「二度と私に構わないで、勿論ポム吉にも」


 悔しい。

 虐められることは悔しくないが、私に友達が居ないことが悔しい。

 寂しくはないが、学校の人々皆から存在を否定されてる気持ちになるのだ。


 * * *


 入学してから一ヶ月が経ち、月は五月に入っていた。

 友達はまだ……居ない。

 こうも辛いと、悪魔でも死神でも良いから友達が欲しくなる。


「今日は転入された子を紹介します」


 神様に私の願いが聞こえたのか。

 それは分からないが、私の人生はこの日を境に変わり始めた気がする。


「入って来なさい」


 転入生、エアスト村の生き残りだと聞いてる。

 確か名前は……。


「自己紹介を」

「エアスト村出身!マレフィクス.ベゼ.ラズル!辛いことがたくさんあったが今はハッピーに生きてる!僕天才だから、初級クラスに居るのは一年だけだろうけど、よろしく!」


 マレフィクス.ベゼ.ラズル。

 中性的でかっこいい見た目をしてる。

 本来黒目の部分が一点の光も無い赤色、髪は赤色の紐で結んでいてオシャレだ。


 故郷を滅ぼされ、家族が殺されたトラウマを乗り越えている。

 そんな彼が魅力的に見えたのは、確かだった。

 何か……何かが変わりそうだ。



 この物語は、三人の主人公が戦い合い、思い合い、お互いの道に別れていく、ドラマある冒険譚だ。

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