シャバババア

かぎろ

第1話 断罪ババア

「判決を言い渡ァす……!」


 小さな木の槌がゴンゴンと打ち鳴らされた。ここはシュヴァルツシルト最凶裁判所。法廷では弁護士と検察官が両脇に並んで着席し、奥の高台で書記や裁判長などがクチャクチャとガムを噛んでいる。

 傍聴席の帝国民たちも含めたこの場の全員の視線は、被告人に注がれていた。

 証言台の前で殺気を隠そうともせず佇む、ひとりのババアに。


「被告人、ババア……! おまえは十の国を滅ぼし、十兆人を殺害し、十京円相当の金品を窃盗するなど、無数の大罪を犯した史上最悪の人間であるッ! それではここに、おまえの起こした事件を紹介するVTRを流ァす!!」


 裁判長の合図で、頭上の大型スクリーンに映像が現れる。ババアは殺気を放ちながらも、自ら犯した罪の懐かしさにか、口の端を吊り上げた。


「さあお待ちかねであるぞテメェらァッ!」


 法廷内の巨大スピーカーから重低音が響き出す! BPM180のアップテンポなブレイクビーツサウンド! 腹の下をズンズン震わす爆音のドラムンベースが興奮を掻き立てる!

 そしてバカデカい電子音声が告げた。

 〝PARTY NIGHT〟

 〝START〟


「これら一七〇三八件の事件のなかから残酷度上位五件を読み上げ! プラスされる懲役年数をランキング形式で発表するゥッ!」


 傍聴者が狂ったように沸き立つ! 弁護士や検察も立ち上がって服を脱ぎ、タオルを振って踊り出す!


「残酷度第五位! 世界中全銀行強盗事件! 懲役、+1246882568年ッ!」

「「「ワアアアアアアアアアアア!!!!!!!」」」

「第四位! 惑星バクシー爆破事件、+3647841215年ッ! 第三位、コワサーレ銀河消滅事件、+7405796255年ッ! 第二位、異世界ホローヴィ滅亡事件、+85263550542年ッッ!!」

「「「オオオオオオオオ!!!!! ワアアアアアアアアアアア!!!!!!」」」

「そして栄光の第一位は……ッ!」


 BGMはクライマックス!

 熱狂するフロアッ!


「善神マール殺害事件ッ!  +9902435929419年ッ! 合計懲役年数は――――9999999999999年ンンンンンンンンンンッッ!!!!」

「「「ドワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」」」

「「「懲・役!! 懲・役!! 懲・役!! 懲・役!!」」」

「――――被告人、ババア。最後に言い遺すことは?」


 裁判長の問いに、ババアは唾を吐く。


「せいせいするね」


 足下がパカッと開き、ババアは人工の穴に落ちていく。裁判長の「ア・ヴァシリ監獄へ直送ォォォオ!!!!」という叫び声と、BGMと、観衆の楽しげな歓声が遠くなっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る