第7話「シナモンウイスキー」

 街から帰って来て、すぐに寝ようとも思ったが、今日買ったスパイスを見たら気が変わった。


「シナモンウイスキーが飲みたい!」


 ウオッカに、天使の噛み草を入れたように、ウイスキーにだってフレーバーをつけることは出来る。その中でも、俺のお気に入りがシナモンウイスキーだ。シナモンウイスキーを作るには、シナモンとウイスキーがあればそれで作ることが出来る。


 まずは、買って来たシナモンの表面を紙やすりなどで擦る。紙やすりは無いので、砥石で代用する。シナモンは、木の樹皮を剥がし、乾燥させた生薬でもある。樹皮を削ることで、表面に付着したゴミや湿気を飛ばし、乾燥したシナモンが顔を覗かせる。そのシナモンを、約一Lの酒瓶に二つほど沈めるだけで完成だ。


「俺のウイスキーは、とっても甘い匂いがする部類だから、シナモンと喧嘩はしないだろう。そうだな、映画館で食べるシナモンチュロスみたいな味わいになると嬉しいな」


 シナモンウイスキーを造る時に、注意しなければいけないのは、シナモンを漬けるウイスキー選びである。シナモンの風味と、喧嘩するような香味の強いウイスキーは良くない。例えば、アイラモルトとかがいい例だ。


 ウイスキーに慣れ親しんだ人が行き着く波止場とも言える、アイラモルト。よく、”ヨードチンキのような”と表現をされる究極の個性派。薬品とシナモンが混ざった味を想像するだけで、ゾッとする。


「まぁ、試してみたくはある。飲みもせずに、断罪するのは良く無いが……」


 続いて、シナモンを使ったフレーバードウオッカ、シナモンウオッカも造ってしまう。ピュアウオッカのいい所は、どんなフレーバーを使っても酒と喧嘩をしない所だ。その為、世界中で生まれているカクテルに、ピュアウオッカが多く使われているのもそういう理由からだ。


「リキュール造れないかな。不可能じゃ無いよな。まぁ、クオリティーは置いておいて。例えば、コーヒー豆を使ったカルーア。カルアミルク飲みたいなぁ。少し濃く作って、ナツメグなんか振りかけるとうまいんだよなぁ。」


 リキュールが出来たら、カクテルも楽しめるし、良いかもな。ま、ウイスキー造りが最重要だから遊びでやるかな。


 本来は、シナモンウイスキーとシナモンウオッカは2週間程度漬けるが……。


「時空魔法:<時間促進アシュタロス>」


 ふぅ、これで完成だ。まじでこの魔法便利だよなぁ。


「グラスグラスっと」


 前世で使っていたお気に入りのグラス達、酒好きが高じてざっと数十万以上は掛かっている。それらを神様は一緒に送ってくれたのだ。

 そんなお気に入りのグラスの中から選んだロックグラスに、シナモンウイスキーを注いだ。

 酒を注いでいる側から、シナモンの匂いが溢れ出している様だった。


「あぁ、この感じだよ。ウイスキーの匂いがシナモンに支配される感じ」


 俺は十二分に匂いを堪能した後、一口飲んでみた。


「うめぇ、口に入れた瞬間からシナモン、いやシナモンの木を感じる程の存在感。そして甘味料を入れてもいないのに感じるこの圧倒的甘さ。甘く無いのに甘く感じる程、重厚な香味。造ってよかった〜〜!!」


 ウオッカも呑まないとな! シナモンウオッカは、シナモンから溶け出したアールグレイのような赤茶色がよく溶け出していた。アルコール度数は、こちらの方が断然高く、匂いを嗅いだ時のシナモンの香りは、部屋中に充満するのではと思う程香り高かった。


「くぅ、ウイスキーとは違った良さがあるよな〜。ウイスキーの個性との掛け算というよりは、ウオッカがシナモンをどこまでも引き立ててくれる感じだ。シナモン好きはこっちで、重厚な香味が好きな人はシナモンウイスキーを薦めよう。」


 これは明日の開放市が楽しみだなぁ。新しい出会いを前に、気分は最高潮だ。


 翌日。


 荷車に、ウオッカとウイスキーそれにシナモンウイスキーと、ウオッカを積み込んだ。そして馬車をそのまま、アイテムBOXの巾着袋に収容する。


「ベッラ〜!出掛けるぞ〜! ……おいおい。どこにいったんだ? まさか……逃げたんじゃ。やっぱり小屋とか必要だった?!」


 昨日、名前をつけたときに謎の信頼関係が芽生えたと思ったのが、よく無かったかな〜。そう思っていた所に、茂みの方から何やら大きな物音がした。


「ヒィ! 何?」


 びっくりして一瞬目を瞑りかけたが、茂みから頭を出したのは俺の地竜だった。


「なんだ、ベッラかよ。ほら、街行くぞ」


 そう声をかけたのだが、彼女はいうことを聞かずまた茂みの中に戻ってしまった。おいおいと思ったのだが、次の瞬間。ベッラは自分の頭より何倍も大きい獣を咥えて現れた。

 そしてそれを俺の目の前に放り投げたのだ。その衝撃は俺の足元を揺らすほどのもので、地面に岩がぶつかるような大きな音がした。


「えぇぇぇえ! 何このでっかい猪……。もしかして、俺に……?」


”ギユィィィィィィィ”

 彼女の鳴き声はとても穏やかに響き渡って、まるで猫が喉を鳴らしている時のような安心感があった。


 おぉ、猫の恩返しと一緒か。まぁ、ありがたく貰っておくか。肉は有難いし、街で解体とかして貰えるだろ。てかこんな、軽トラサイズの猪解体して貰えないと詰むんだが。とりあえず、アイテムBOXに仕舞っておこう。アイテムBOX内では、時間が止まるから腐る心配も無いしな。


「ほら、鞍付けるからこっちおいで、ベッラ。」


”ギュイイ”

 彼女は短く返事をして足を折りたたみ、俺が鞍をつけやすいようにしてくれた。結構愛い奴である。

 俺はベッラに、地竜専用の鞍を取り付けて、港町<アクアリンデル>に向かった。

 


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