輝け!姫プリズム!!
風浦らの
第一章【屈折と輝きの姫】
第1話 これが姫プリズム!
走って走って走って逃げる────
少年は無謀にも実力にそぐわない上級ダンジョンに足を踏み入れた挙句、強力なモンスター達に追われていた。
一体相手にするのもきついモンスターが、走る少年の10メートル後ろから列を成して迫ってきている。
入り組んだ迷宮を這いずり回り、方向感覚など既に無い。
ここで死ぬのか─────
前方の行き止まりを目にした少年は死を覚悟した。
──────とは言え、ここは【QGグループ】が提供するゲームの中。時代を先取りしたVRMMO、言わば仮想現実世界。
死んでも現実世界の人生が終わるわけでは無い。ただ、このゲーム【
一度死ぬと、今まで積み上げてきたものがゼロになるという仕様で、金品、装備は勿論、レベルや名前、アバターに至るまで全てが没収となる。死=
それゆえ冒険者は慎重に慎重を重ねなければならず、一切のミスが許されない。そうした緊迫するプレイスタイルが思わぬ反響を呼び、絶大な人気を博していた。
つまるところ、死んだら終わりなのである。
だからこそ少年はこんなにも必死になって逃げた。
ゲーム配信から三ヶ月、ここまで積上げてきた膨大な時間と労力が無駄になってしまうという、圧倒的な絶望感に襲われながら…………
行き止まりにの壁を背にし、勝てるはずも無い敵を迎え撃つべく腰に携えた剣を抜いた。
無課金でコツコツ回したガチャで引き当てた、思い出のスーパーレア武器。
「────ッ、やるしか…………」
先頭を駆けて来たリザードマンの斬撃を迎え撃つように剣を合わせたその瞬間、少年は後方に大きく弾き飛ばされ壁に強く体を打ち付けた。
「─────ッグハッ」
圧倒的な力の差。
やはり少年にこのダンジョンはまだ早かった。
どうせ死ぬならせめて目の前のコイツだけでもと、少年は立ち上がった。
「かかってこいやぁぁぁ!」
─────と、その時。
迫り来るモンスターの大群が後方から順に悲鳴を上げた。それと同時に巻き起こった爆風に、少年は思わず目を塞ぐ。
─────爆風が治まり再び少年が目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
あれだけ居た群れが一瞬にして壊滅し、至る所にモンスターが横たわっている。
─────そして、少年の目の前には見たことも無い女の子が立っていた。初見は小さく可愛らしい。突き出た八重歯がその幼さを増長させ、イタズラっ子を彷彿させた。
その見た目からは、強いとはとても想像出来ない。
「き……君は…………!?」
「ヤエだ」
だがこの高レベルダンジョンで、一瞬にしてモンスターを壊滅させたのは、間違いなくこの女の子だ。
「僕を……助けてくれたの……?」
「そう思うなら、そうなのかもしれないな」
この女の子はただものでは無い。瞬時にそう感じた少年は、思わず相手のステータスを見るスキル【識別】を使用した。
【名前『
性別・女
職業・プリースト
レベル・66
一言・『お前の物は私の物』】
「レ、レベル66!?」
「ほう。いきなり識別とは、エッチな奴だな。少しは礼儀というものをわきまえろ」
「ご、ごめん……でもレベル66ってありえないんじゃ……!? 毎日ログインしてる僕でさえまだレベル27なんだし……それにその装備も……」
ヤエの身につけている装備は上から下まで全てが最高レアリティの
「別に大したことでは無い。それにしてもお前、そんな装備でよくこのダンジョンに足を踏み入れたな。もしかして自殺志願者か? 最後に言いたいことがあるなら話くらい聞いてやらんこともないぞ?」
「─────っ、言ったってわかんないと思うよ…………底辺無課金ユーザーの僕の気持ちなんて、君みたいな廃課金ユーザー様には一生分からないのだろうね」
ひねくれた少年の言葉に、ヤエはあきれたように深くため息をついた。
「私もお前と同じく無課金だ」
「嘘つけよ!? 無課金でそのレベルはおかしいでしょ!? それにその装備や装飾品も富豪そのものじゃないか!! 廃課金者が無課金者をからかってるだけなんだろ!」
「────私は本気でゲームをやってるからな。そういうお前は本気でゲームをやった事があるのか? 本気でやってそのレベルなのか? 本気でゲームと向き合った者だけが私に意見する権利がある。それ以外の意見は私に対する侮辱と同じだ」
その言葉に少年は言葉を詰まらせた。
「お前が勉強している時、私はゲームをしていた。
お前が遊んでいる時、私はゲームをしていた。
お前が寝ている時、私はゲームをしていた。
お前がゲームをしている時、もちろん私もゲームをしていた。
それも無課金で、だ。
この装備全てが他人の善意で回したガチャから得たものだ。装飾品も、服も、アバターも、全てが贈り物。レベリングも化け物クラスの者たちが常に着いてくる。
他人の金を使い、他人の力で強くなる────そうそれが【姫プリズム】ッッ!!!!」
なんだこの人はと思わずにはいられなかった!
がしかし、何故か少年の心はざわついた。
『姫プ』一本でここまでのし上がったのかと思うと体の震えが止まらなかった。
「どっかで聞いたことのある様な名言! そして姫プをジャーナリズムみたいに言うな! というか、本当に無課金でここまで…………?」
「本当だ。証拠に私の
【名前・『姫凪八重』
性別・女
職業・プリースト
一言・『お前の物は私の物』
無償ジュエルスター50000
有償ジュエルスター0
課金履歴・無し】
「確かに……課金履歴が無い……じゃあ本当に無課金でここまで……!?」
「そうだ。無課金でも本気でやれば課金者よりも強くなれる。それをこの私が証明している。お前は強くなりたいからここに来たのだろう? レベルの高いダンジョンに入り、レアリティの高い装備を手に入れたい。しかしヘマをして死にかけた。そんなところだろう。だが、お前はやり方を間違えた。そんな考えでは、この世界で生きてはいけない。
運良く強くなれどそこそこ止まり。決して無課金で課金者の壁を超えることは出来ない。
その壁を超える手段はただ一つ。教えてやろう──────、この『姫プ』こそが至高であり最強のプレイスタイルなのだッ!! 」
両手を広げ熱く語るヤエの姿を観て少年は圧倒された。
コイツは頭がおかしい─────
「いや姫プって……確かにその通りかもしれないけど、世間的にはいいイメージ無いんじゃ……」
「言いたいヤツらには言わせておけばいい。誰がなんと言おうと私は無課金でこのゲーム、スタスタでナンバーワンになる。それが私の夢だ」
「無課金でソシャゲのナンバーワンに……!? 無理だ! そんな事が出来たら課金する人なんてこの世に存在しなくなる!」
「そうか? 推しを押し上げるために金を使う者などこの世にごまんといる。そして私はその期待に応える。まさにウィンウィンだ。無課金で目指すトップ。同じ無課金者として、その高みの景色をお前は見てみたいと思わないか?」
「───そ、それは…………」
確かに無課金でこの課金要素満載の大人気ゲームでトップに立てたならば前代未聞。ゲーム業界に激震が走り、無課金界のカリスマになる事は間違いない。
「よし。気に入った。今日からお前は私のパーティに入れ」
「今の流れで気に入る要素あった!? だいたい勝手に決めないでくれる!? それに、このゲームは自由度が売りのゲームなんだ。誰かに縛られてプレイするなんて、僕には無理だ」
「ならばここから一人で脱出するか? ここから出口まではかなりの距離がある。まずお前の力じゃ無理だろうな。
ここでスタスタ人生を終えるか、私についてきて共に高みを目指すか、二つに一つだ。無理強いはしないが、私がお前を気に入ったのは事実だ。悪い話ではないだろう?」
少年は考えた。
ここまで積み上げてきたもの、これから積み上げていくもの。
これまで幾多のゲームを無課金で遊んできたが、その度課金者との間に生まれた溝に涙を飲んできた事。もうあんな思いは二度と─────
「僕は─────。
僕は強くなりたい。無課金でもバカにされないくらいに強く、強くなりたい!
だから─────、だからお願いだ、僕をここから連れて行ってくれないか!」
少年の言葉にヤエは目を細めた。
「ほう。中々姫プの才能がありそうだ。よし、いいだろう。ついてこい。お前にとびきりの無課金ライフを提供してやろう。そしていつの日か、無課金でこの世界のナンバーワンになった景色を見せてやると、約束しよう」
こうして少年と姫ププレイヤー
果たしてこの先、この二人にはどんなスタスタライフが待ち受けているのだろうか────
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