第27話 皇二、部活勧誘をする。視点、皇二

 俺は覆面姿で校門に訪れた。

人目を集め、この布一枚隔ててなければ恥ずかしさで気絶していただろう。

これがビラ配りやポスターよりも注目を集め、部員を集められると考えた。

名付けて、殴られ屋ならぬ投げられ屋!

コンクリートの上で投げられると、大怪我する恐れがあると知り、プロテクトで身体をガードした。

柔道服に覆面、プラカードに投げられ屋という羅列。

俺の今の姿全てが、他人の目には奇妙に映っているだろう。

だが......。


「あのぉ、投げてもいいですか?」


 ほらきたっ!

好奇心旺盛かつ、SNSを頻繁に使う者たちにとってこれほど美味しい存在はいないだろう。

とにかく柔道というものへの抵抗感を限りなく無くし、実際に体験してもらうことで楽しさを感じてもらう。

この投げられ屋という余興は、我ながらよく思いついたと自負している。


「いいですよ! では、投げ方教えますね」


 俺はとりあえず、簡単な投げ方を教えた。

そして、どうぞという掛け声と共に宙へ身体を浮かされた。

地面に叩き伏せられ、プロテクトをしているとはいえ畳の上以上に衝撃が伝わることを実感する。


「おぉできた!」


 2年の男子生徒は、俺と体格も近く運動はあまりしていない身体だ。

友達にスマホで撮影してもらっているのとを見ると、皇気と似たタイプなんだろうか。

まぁいい、とりあえず楽しんでもらえたみたいだし言ってみる。


「あの、よかったら柔道部に入りませんか? そうしたらもっと色々投げれますよ」


 覆面のおかげか、緊張もせずすらすらと言葉が出た。


「うーん、はい。考えておきます」


 そう言い残し、2人は去っていった。

あの感じ、絶対に入部しないだろうな。

まぁ最初っから成功するとは、はなから思ってない。

俺は地面に置いていたプラカードを手にとり、再び部活勧誘を始めた。


「投げられ屋ですか?」


 すると、今度は1年生らしき小柄な男子が声をかけてきた。

俺が彼へ説明をしている途中、視界に田中と遠藤の姿が映った。

一瞬こちらに視線を向けたかと思ったが、そのまま素通りして門を抜けていく。

やっぱりまだ、心残りがあるんだろうか。

それとも、本当にもう柔道はしたくない?


「あの」


 説明途中に黙ったせいで、目の前の彼は少し不安げだ。

あぁ、また逃げ癖が出ていたな。

彼らが戻ることを期待して、勧誘を辞める言い訳を作ろうとしている。


「ご、ごめん。投げ方の説明だよね」


 その後、3人に投げられたが部活に入りそうな反応をした者はいなかった。

校舎から出てくる生徒も僅か数人しかいない。

今日はもう無理そうだ。

そう思い、プラカードを腋に挟んだ直後。


「こいつがさっきリツイートされてたボコられ屋か?」


 振り向くと、ジーンズにチェーンを撒いた不良らしき2人組がいた。

どちらもケタケタと薄気味悪い顔でこちらに迫る。


「すいません。もう今日は終わろうと......」


 俺が怯えながらそういうと、片方が睨みつける。


「あぁ? 俺らにもやらせろよ」


「てかこいつ、細すぎじゃね?」


 クソ、厄介な連中に絡まれた。

ていうかここ学校の敷地内なのに、なんで不良がいるんだよ。

そうか、下校する奴らがいないんだ。

いたとしても不良に恨みを持たれたくないから、干渉せずどこかへ行ってしまう。


「おい、そろそろいいか?」


 2人組は拳をポキポキと鳴らし、俺の胸倉を掴んできた。

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