第7話
悠人は新聞配達中に思いがけず、少女Aと名乗る子から新聞配達へのお礼の手紙をもらいその返事を書いたことから、少女Aが気になっていた。
初めてもらった手紙が印象的で嬉しくて、だんだん興味が湧いてきていた。
その子の家の新聞を配るときは、なぜか緊張して、ドキドキしていた。
新聞配達先なので『松本』という名前は分かっていたが、それ以上の情報はなく、どんな子だろう?手紙の感じで中学生か高校生ではないかと推測していた。
そんなある日のこと、新聞を投函しようとしたら封筒がポストに貼り付けてあった。
悠人は弾む心を抑えながら、新聞配達を終え、家に帰ると急いで封筒を開けて、中に入っていた手紙を読んだ。
すると、驚くことが書かれてあった。
なんと少女Aちゃん、高校に入学して放送部に入ったって!
「嘘だろ……」
(ということは、もしかしたら、もしかしたら、この少女Aは今年新入部員として入ってきた松本彩?)
入部してきたときに松本と名前を聞いたときは、まさか少女Aと同一人物とは思ってもみなかった。
彩のことは一緒のチームになったことで好感を持っていた。
悠人は少し頭が混乱してきた。
(こんな偶然あるのか?)
おまけにそこには少女Aと名乗っていたが、本人の希望で、「アン」と呼んで欲しいこと、おじさんの事は「マシュウおじさん」と呼ばせてほしいことが書かれてあった。
悠人は初めてもらった時の少女Aの手紙が嬉しく、時々読み返してはニヤニヤし、日々の生活の励みにもなっていた。
(オイオイどうする?俺!)
今頃になって、俺が『マシュウおじさん』だなんて言ったら、もう学校で口をきいてくれなくなるかもしれない。
せっかく、「マシュウおじさん」って命名してもらうほど、信頼してもらっているのに……。
悠人はしばらく悩んだが、ここは『マシュウおじさん』になり切ろう。
そう思って『マシュウおじさん』になり切って返事を書いたのだった。
それを機に『アン』と『マシュウおじさん』として定期的に手紙のやり取りをするようになった。
自分が『マシュウおじさん』になることで、違う自分も演じられることで、何かワクワクしていた。
しかし、この時の悠人の選択が、その後、悠人自身を悩ますことになろうとはその時の悠人は知る由もなかった。
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