第34話

―― 彩ちゃんへ 


こんにちは!いや、こんばんは!かな。


俺はユート……落合悠人です。

突然の手紙でびっくりだよね。

俺は彩ちゃんにずっと言えなかったことがあります。

彩ちゃんがマシュウおじさんと思っている人は……実は俺なんだ。

ずっと言えなくてごめんなさい。彩ちゃんは今、この手紙を読みながらきっと驚いてそして怒っているだろうね。


俺も最初はアン様が彩ちゃんだなんて知らなかった。

いつかアン様がマシュウおじさんに放送部に入ったと手紙に書いていたことがあったでしょ?

その時、俺は放送部の新入部員として入ってきた彩ちゃんが、もしかしたらアン様では?と初めて気づいたんだ。

こんな偶然があるんだって正直驚いたんだ。


でも、俺がマシュウおじさんだなんてどうしても言えなかった。

彩ちゃんの夢を壊してしまいそうだったし、俺だと知ってガッカリさせたくなかったんだ。

だから、俺はマシュウおじさんになりきることにした。

なりきって彩ちゃんを支えようと決めたんだ。

ほんと言うと俺の方が、俺の方こそ、彩ちゃんに支えられてると気づいたから。


俺は彩ちゃんにどうしても伝えたいことがあるんだ。

だからその前に本当のことを話しておきたかった。

彩ちゃんは怒って許してくれないかもしれないけど本当にごめんなさい。


この1年間、俺はマシュウおじさんとして放送部の先輩としてずっと彩ちゃんを見てきて素直で明るくて一生懸命な彩ちゃんがいつの間にか頭から離れなくなって気づいたら誰よりも大切な人になっていたんだ。守ってあげたいと思うようになったんだ。


俺は彩ちゃんが好きです。大好きです。


バレンタインデーの日にマシュウおじさんの手紙に彩ちゃんは本命さんがいてチョコを渡すつもりだと書いていたでしょ?俺はもしかしてって期待して待っていたんだ。放送部の部室にも行ったけど彩ちゃんはその日、部活にも来なかった。

俺はショックを受けて誰だか分からないけど本命さんに嫉妬もしちゃったよ。

バカみたいだろ。笑っちゃうよな。

諦めようと思ったけど、彩ちゃんに会ったらやっぱり気持ちにウソはつけないなと思って振られるのは覚悟で告白しました。


これが今の俺の正直な気持ちです。

一方的に伝えたけれど迷惑だったら忘れて下さい。


P.S.明日からは今まで通り部活の仲間として変わらずよろしくお願いします。


―― 落合悠人より











ええええええええええええええ――――っ、

うっそ――――――――っ。


彩は手紙を読み終えて驚いた。

マシュウおじさんがユート先輩?信じられない。

ユート先輩が私の事を好き? マジ? もしかしてドッキリ!


一旦落ち着こう。そう思っても動悸が治まらない。

思いがけないユート先輩からの手紙。しかも衝撃の告白。

それから彩はもう一度手紙を読み返してみた。

読みながら胸が熱くなるのを感じ涙が込み上げてきた。

見慣れた文字がぼやけてくる。


 ヤバい ヤバい ヤバい


もらったばかりのハンカチが涙で濡れていった。



夜、ベッドに横になってもドキドキして眠れそうもない。


別に怒っているわけじゃない。

マシュウおじさんに書いた手紙の内容を思い出しながら、ユート先輩が読んでたと思うと恥ずかしくてたまらない。

どんな顔してユート先輩に会ったらいいんだ。

あぁ~わけわかんない。

ユート先輩の手紙、ほんとかな、夢じゃないよね。

色々考えていたがそのうちウトウトしてしまった。

どのくらい眠っていたのだろう。

フッと目が覚めてスマホの時間を見たら午前4時45分だった。


彩は起き上がりそっと階下に降りて玄関を開けて外に出てみた。

ポストにまだ新聞は入っていなかった。

急いで家に入り顔を洗い着替えを済ませ身なりを整えてパーカーを羽織り外に出た。

4時55分。まだ新聞は届いていなかった。


こうなったら新聞配達人が来るのを待って本当にユート先輩かこの目で確かめてみよう。


彩はそう思って玄関前に座り込んだ。5時10分、まだ薄暗かった。

この暗闇の中で冷たい空気を吸うと彩は神聖な気持ちになった。

新しい朝を迎えようとするこの瞬間が愛おしく思えた。


一体何時頃うちに新聞を届けているんだろう?

もしもユート先輩だったら私はどうしたいんだろう?

騙されたって文句を言いたいのか?

ううん、違う。そんなことはちっとも思ってない。

マシュウおじさんがユート先輩だったら、もし本当だったらこの偶然は奇跡だ。

私も自分の気持ちを伝えよう。

今まで支えてくれてありがとうって伝えよう。

私もユート先輩が好きだって、大好きだって伝えよう。

チョコはないけど今日が私にとってのバレンタインデーだ。


そう思っていたら遠くの方で自転車の灯火らしき明かりが見えてきた。

だんだん近づいてくる。

その時、街灯に照らされて輪郭が映し出された。

その姿は紛れもなく悠人だった。

悠人の姿を認めた彩は「ユート先輩~!」と叫びながら自転車に向かって走り出していた。


                    

                  


                完






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