バレンタインの奇跡

この美のこ

第1章 彩の青春編

第1話

「さぶっ」

玄関の扉を開け外に出たあやは思わず身震いする。

昨夜のうちに降ったのか見渡す限り一面の銀世界が広がっていた。

玄関脇のポストから新聞を取り出しながらふと見ると玄関から長靴だろう靴跡が点々と目の前の通りの道まで続いている。


(きっと新聞配達の人の足跡なんだろう、こんな雪の日もちゃんと新聞を届けてくれる人がいるんだなぁ)と彩は心の中で感心しながら思った。


 新聞をテーブルに置いた彩はキッチンで朝食の準備中の母親の絵美の隣に立ち、流しで手を洗いながら


「外、雪凄いよ。びっくり!」


「うん、夕べ降ったんだね。2月に入ってこのドカ雪は勘弁してほしいわ。今日は雪で渋滞するかなぁ」


「ねえ、こんな雪の日もちゃんと新聞届いてたよ。どんな人が配達してくれてるんだろうね」


「確かに、この雪の中での配達は大変だったろうね。誰だか分らないけどまだ眠っている間にも頑張ってくれる人がいるおかげだね。感謝しなくちゃね」


「私の想像だと定年後のおじさんだと思うよ。だって月一回は休みがあるかもしれないけど一年中朝早くから働くなんてなかなか出来ないもの。ねえ、お母さん、今度私お礼の手紙書こうかな」


「そうね。それはいいけど早くお弁当作らなきゃ遅れるわよ」


「はいはい、分かってるって」


 彩は中学生になった時から弁当作りを手伝うようになって、中学3年生になった今では母親と自分の二つ分を作っている。もう手慣れたものだ。


「そうだ、お母さん、今日は学校までお願い。この雪じゃ自転車無理だから」


「じゃあ、早めに出るから急がなきゃ。早く食べて」


絵美は大急ぎで朝食の準備を終えてテーブルに並べていく。

彩も急いで弁当を詰めていく。

二人は慌ただしく朝食を済ませ雪の中を出かけて行った。


 彩は普段は母親と二人暮らし。父親は他県の勤務で単身赴任中。月に1~2度週末に帰ってくる。父親不在も1年以上経った今ではすっかり慣れて母親と二人の生活が当たり前になってきていた。




 

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